134.タペストリーゲット
「こんにちは、解体をお願いしたいのですが、大型の魔物の取り扱いはやってますか?」
「ええ、物によりますが、持ち込みされた魔物は何でしょう?」
「はい、ここにくる途中に獲ったワイバーンです。」
「・・・はい?今なんと?」
「えっとワイバーンです。」
「なんですって?!あなた先ほどここにくる途中と言われましたわよね?!」
「はい、そうですが・・・。」
「しょ、少々、いえ、しばらくお待ちください!」
タッタッタッタッ!!!
品の良さそうな麗しい受け付け係の猫耳お姉さんが急に髪の毛が逆立ち尻尾を膨らませて駆け出していった。ほら、やっぱり。ワイバーンってなると大事になるから嫌なんだよな。
タッタッタッタッ
「おい!アンタか!ワイバーンを持ち込んだって言ったのは!!!」
うお!ライオンの獣人さんかよ!たてがみがめっちゃ迫力あるなぁ。しかも声デカっ!
「はい。ここにくる途中の街道で・・・」
「街道って事はあれか?!依頼書もってこい!」
「にゃ!」
そうか、猫は猫科の頂点には絶対服従だよな。ん?猫の頂点はトラか?まあ、百獣の王だし、頂点としても問題ないか。あっ来た。
「これですにゃ!」
さっきの品の良い立ち振る舞いはどこにいった?猫耳受付嬢よ。
「うむ、お前さん、ちょっとどの辺りで仕留めたか詳しく教えてくれや。」
渡された地図をグリと一緒に見ながら捕らえた位置を指し示した。
「この辺りですね。」
「悪いが、倒したやつの確認はできるか?持ち込みしたと聞いたが?」
「えっと、大きいので解体場に行きますか?それとも出さずに見る程度ならここでアイテムボックスを開いて少し引っ張り出しますけど。」
「おう、今ここで少し引っ張りだしてもらえるか?」
「わかりました。ポヨ、手伝ってくれ。」
ポヨーン
「・・・おい、マジかよ・・・。わかった。確認した。おい!他の支部にも伝えろ!討伐成功ってな。」
「にゃ!」
おい、にゃで全て完結するのかよ。便利だな。
てか、ライオンなのに顔面蒼白だけど大丈夫か?
「あんた、俺の部屋へ来てくれるか?報酬がある。俺はこのギルドを任されてるギルドマスターのライアンだ。」
「初めまして。俺はタクミでこっちがグリとポヨです。」
俺たちはライアンさんに付いて部屋へと案内され腰を下ろした。
「おい、あんた一体何者だ?あのマジックボックスは尋常じゃないでかさだし、それにそのスライム。今まで見たこともねえぞ!それに連れの獅子、なんだその神々しい毛並みは!」
グリに対してはそこかよ!
「えっと、一応リッチモンド所属の冒険者でAランクをもらってます。」
「あ?Aランク?Sランクの間違いじゃねえのか?」
「いえ、半年程前位に冒険者ギルドに登録しまして・・・」
「半年だと?!なんてこった!ん?お前のタグ、兼用タグじゃねえか?タクミ、タクミあっ!あれか?!少し前に特許状を賜ったあの!」
「はい、俺です。」
「そうか、なんだか色々納得したわ。ちなみにお前が倒したワイバーンな。最近この辺りを襲っていたから討伐依頼がこの辺りのギルドに出されていて、チームを編成する所だったんだ。流石に優秀な奴の集まりがすぐとはいかずに召集をかけてた所だったんだが、どうやらそれをしなくても良さそうだ。報酬は、わかっていると思うが調査隊の報告の後支払われるから悪いが数日かかると思う。それから、ここにはワイバーンを捌けるほどの解体倉庫が無いんで、悪いがこの先にあるウスターに行ってもらえるか?あっちは皮革が盛んだからギルドに解体職人も揃ってるぜ。」
「そうですか。」
「報酬はウスターに到着する頃には出てるだろ。」
「ええっと、それってどの位です?」
「ん?そうだな。普通の馬で10日程か?」
「そうですか。その報酬ですが例えば別のところでも受け取れますか?ザマゼットとか。」
「あ?ああ、もちろん受け取れるが・・・。」
「不思議ですよね。俺たち、ウスターまで2時間程で行けるので、たぶん報酬はあちらで受け取れないと思うんです。あの、報酬頂く前に解体しても問題はないでしょうか?」
「・・・あ」
「ライアンさん?」
ヤベッ、目を見開いて顎が外れそうなくらい驚いてるよ。俺は両手のひらを合わせて
パチンッ!
「ライアンさん?大丈夫ですか?」
「ああ、すまん。ちょっと驚いちまってな。」
「いえ、それで・・・」
「す、すまん、解体しても構わねえぞ。俺が確認済みと本部に連絡を本日付のこの時刻で上げておくから問題ない。」
「ありがとうございます。では、俺達はもうよろしいですかね?市場を見て行きたいのでそろそろ・・・。」
「そうだな。すまんな。何も渡してやれなくて。」
「いえ、では、失礼します。」
「な、なんだったんだ?あいつら・・・。」
◇ ◇ ◇ ◇
「よーし!織物を見るぞ!!!」
「おい、あれは随分と美しいな。」
「へぇー絨毯か!流石グリだな。良い物を瞬時に発見してくれるな。」
「そうであろう!」
「へぇーぶどうの木と花のデザインかぁ。いいじゃんあれ。」
「すみません。これって床に敷く物ってないですか?」
「お客様?絨毯を敷くなんてとても豪華でいらっしゃいますね?こちらは大変貴重な物の為、王室や教会以外の一般には壁やテーブルを飾るものとしてお使いになる事が多いのですが?」
あっ。しまった。そうでした。まだ、魔道具がそこまで発達してないのか、この世界では絨毯は貴重でかなりの高価な代物。しかも床を覆える程のサイズのものは無いんだった。
「すみません。田舎者なのであまりの美しい代物だったので、つい、願望を言ってしまいました。」
「左様でございましたかお客様。願望ですか。なるほど。たしかにこの美しい絨毯を目の前にすれば、そう言ったお気持ちになられるのもわかる気が致します。」
あぶねえ。誤魔化せたか。
「こちらのタペストリーはとっても素敵な図案ですね。」
「これはお目が高い!こちらは主に我が国で飼育されたバロメッツやダンジョンで採れる羊毛を使い織物スキルの高い工員によって織られた最高品質でございます。見る人を和ませ癒す素晴らしい出来栄え、図案もこのように柔らかい印象ですから書斎などに飾るよりも私個人の意見といたしましては、ぜひ、ご家族や親しいご友人などで囲む晩餐の時にぜひ飾って頂ければ、その晩餐はさらに格式高く穏やかな時の運びとなると存じます。」
「そ、そうですか。ちなみにこちらはさぞ、お高いのでしょうねぇ。」
「良い物はやはり、それ相応の対価が伴いますが、人の感じ方によりこちらは高くもなり、また安価だと、捉える方もおいでと存じます。私からすれば、これだけのお品はとても安価ではありますが、私の日当ではとても手に入れられるものではございません。こちらは選ばれた方のみぞ手にする究極の装飾品であると存じます。」
「そうですか。いや残念だ。参考までに価格を教えて頂けますか?」
「こちら、1500ペニーでございます。」
1500ペニーか。高級レストランに飾るなら良いデザインだよな。ワイバーン解体して魔石が付いてれば5000ペニーが1発で手に入るから問題ないけど、値切ってみるか。
「そうですか。やはり高級品は違いますねぇ。俺は目利きなどはできないので、貴方のようにこれの本当の芸術的価値などは残念な事にわかりませんが、とても素晴らしい物だということはわかりますが、1500ペニーですか。とても気に入ったんですが、ちなみにこの図案でもう少しお手頃価格な商品はありますか?例えばスキルのそこまで高くない方がおられたぶどうの木と花の図案のタペストリーです。」
「お客様〜。こちらは一点ものでございまして、そういう物は当店では取り扱いしておりません。」
「という事は、他のお店に行けばあるという事ですか?」
「え、ええ。まあ、他店にいけば有るやもしれませんが、取り扱いの品質では当店が一番良い物を取り揃えております。」
「なるほど。では、他のお店も当たってみます。」
「お、お客様。失礼ですが、あまり冷やかしで色んなお店をまわるのは紳士のする事とは思えませんが?」
「いえ、冷やかしではないですよ。良い物があれば購入する気満々です。そうだ。商人ギルドに行ってお店を紹介してもらうと良いですよね。そうそう、この辺りの適正価格は高価なタペストリーであっても1000ペニー程だと聞いてますがこちらは随分と質の良いものなんですね。ギルドに行って、ついでにこちらの平均価格も聞いてこないとなぁ。」
「お、お客様?ちなみにその、タペストリーの価格はどちらのどなたにお伺いしたものですか?」
「名前は口にはできませんが、ある爵の高いお貴族に仕える、こちらも爵の高いお貴族のお家の三男だったかな?次男だったかな?まあその方から聞いたんです。何でも貴族でありながら学校で貴族でのコースと商人のコースを両方主席で卒業したという方に教えてもらったのですよ。あの方でも間違う事があるんですね。報告しておかなきゃな。では、俺はこれで。」
「お、お待ちを!お客様!え、えーっとでございますね、こちらの商品はほ、本来ならば1500ペニーですが、お客様は素晴らしい目をお持ちですし、とても大切に扱って下さいそうですので、お客様がよろしければと、特別に1000ペニーでお譲りいたします!」
「え?1500ペニーじゃないんですか?でもなあ、どれだけ高くても1000ペニー位が相場って聞いてたのでそれなら500ペニー 位もしくは100ペニー位で似たような物が買えるかもしれないじゃないですか?だからギルドに行って、こちらのお店の話をさせて頂いてから、他のお店を紹介してもらいますよ。あははは。」
「ちなみにお客様はそ、その、教えて頂いた方とはどのようなご関係でいらっしゃいますか?」
「そうですねぇ?よく、命の恩人って言われて、俺が着ている頭の先から足の先まで身に付けているものは、その方とその仕えている貴族様から頂いた物です。なんせ、俺田舎者なので服とかよくわからなくて、どれでも好きなデザインを選べって言われたので、一番動きやすそうなこれを選んだんですよ〜。」
「さようでございましたか。それ程、お近しい間柄でございましたか。もし、このタペストリーをお買い上げ頂くとそちらの方々も目に・・・」
「ええ、勿論です。今は別行動ですけど、のちに合流しますからね。」
「さ、さようでございますか!あっ!お、お客様!な、何という事でしょう!お客様はこのお店を私が継いでから1万人目のお客様でございました!どうでしょう?本来ならば1500ペニーのタペストリーですが、特別割引で150ペニーでお譲り致します!ですが、これは私のささやかな気持ちでございます。他の方に話が漏れてしまいますとお店が潰れてしまいますので、この値引きサービスはどうかご内密にお願い致します、ど、どうか!」
「わぁ〜150ペニーですか?!嬉しいなぁ!ぜひ購入させて頂きます!ありがとうございます。では、さっそく。」
チロリーーーーン
「あ、ありがとうございます。」
「いえ、こちらがありがとうございます!では!」
「おい、タクミ、アーロンの事を匂わせまくってたな。」
「ああ、もちろんわざとだよ。」
「だろうな。始めあの主人からは嘘を吐いている人族特有の匂いがプンプンしていた」
「へぇーすごいな。嘘を吐いたら匂いでわかるのか?」
「うむ、そういう、独特の匂いがあるのだ。我もお前と行動していて色んな人族と関わる中で、つい最近気がついたのだが、あいつは特にわかりやすかったからな。」
「まあ、何となくボッタクリっぽいなって思ったから揺さぶりをかけてみたんだよ。商人ギルドとアーロンさんでね。」
「どうやら大当たりだったようだ。お前の話を聞いてどんどん、焦りの匂いと嘘の匂いが強くなっていったからな。」
「そっかぁ。でも後半で嘘の匂いが増したっていうのは来客記念って言う事かな?しかも軽く言うなよって口止めされた感じがしたし。」
「うむ、一度わかる奴に見せてみるのが良いかもしれんな。」
「よし、マーガレットさんにみてもらうか。せっかくあの箱作ったしな。」
「好きにしろ。」
「なあ、グリ。俺、いまいち結界の事ってわかってないんだけど、俺の結界を例えば付与魔法でテントに付与してそれを組み立てて使う時に結界は機能するのか?」
「さあなぁ。だが、やってみれば良いのではないか?もしくは結界石とやらを使っても良いのではないか?」
「なるほど、ちなみに俺の結界ってどの程度大丈夫なんだろう?ほら、雨とかしのげるとかさぁ。」
「そう言う事か。お主、面白い奴だ。」
「ん?なんか面白い事言ったか?」
「お主は結界を張る時どんなイメージで魔法を使っておるのだ?」
「そうだなぁ。魔物からの攻撃を防いであとお前に乗る時は風を防いで飛ばされないようにとかかな?」
「結界とは、お前がイメージした通りに薄い膜を張り防御する魔法だ。もっとわかりやすく言えばお前がイメージした物を具現化しているにすぎない。つまりイメージ次第で変化すると言う事だ。それとは逆に結界石の場合はあれは魔物を寄せ付けない。ただそれだけの石であり、その石以上の魔力を持つ魔物には効かない代物だから雨風は防げんぞ。」
「そ、そうなのか?!初めて知った!確かにそうだよな。結界石が埋め込まれてる街は雨も風も吹かない事になるし、そんな事したら作物も育たないもんな!」
「そうだ。例えば魔物から結界を張っていても見られる時もあれば見られない時もあるだろ?」
「ああ、あるある、あれいつも不思議だったんだよ。」
「それはお前のイメージが魔物の攻撃を防いで見つからないようにとイメージして魔法を使っている時は相手からは見えないし、ただ攻撃をされないようにとイメージしている時は攻撃は受けないが見えている状態の結界になるんだ。」
「そっ!そうなのかぁああああ〜!!!知らなかった!だからか!いまいち理解できてなかったんだよ!その辺。」
「おい、タクミ、お主は本当にアホだな。通常スキルが上がるごとに確認するだろ?」
「いや、無意識で使ってたから、俺的にはわぁ!こんな事出来るようになったぁ!便利〜。位しか思ってなかった。」
「この、まぬけめ!」
「じゃあ、それこそ、付与魔法で雨風しのげて対魔物用結界と見えなくする透明結界的なもんを付与すれば別に強度のある布じゃなくてもむしろ、軽くて持ち運びしやすい布を選べばいいんじゃないのか?!」
「まあ、そうだが、それを沢山付与するのはかなりしんどくないか?」
「まあ、そうだなぁ。うーん。せめて水を弾くような糸があればなぁ、それを反物にしてもらってテントを作ればかなり助かるけど。うーん」
「それだと魔物はどうするのだ?」
「魔物は結界石をオプションでつけるなり、旅慣れてる人なら持ってるらしいから、俺としては雨風を防ぐことの方が重要だな。」
「火にも強く水にも強い糸ならば知ってはいるが・・・。」
「なんだよグリ?お前が躊躇うような素材って事は、やっぱり危険な感じ?」
「さあなあ。お前ならいけるかもしれんなぁ。」
「何だよ。全然わかんねぇよ。」
「うむ、ある魔物が作り出す糸がとても細く火にも水にも強く折り重ねれば恐ろしく頑丈になり生半可な武器や魔法では太刀打ちのできない糸があるのだがな、糸だけを手に入れるのであれば、あれのいるダンジョンに潜れば運が良ければ遭遇しわずかばかりの糸を手にすることができるとは思うが、あれを加工できるスキルを持つ者が果たしておるのであろうか?」
「ん?どう言うことだ?」
「うむ、その魔物の糸は間違いなくこの世の糸で一番と言えよう。しかし、最上級の糸ゆえにあの糸を織り成すのは、これまた最上級のスキルが必要になるのだ。もし、スキルが低い者があの糸を織れば、毒糸に変わるだの、途端に糸がベタベタになるだの色々と聞いたことがあってなぁ。我は糸など興味もないし我にとってはダンジョンで出てきても短すぎる為使い道もなく捨てておったがタクミの求める糸としては申し分ないはずだが・・・」
「なるほどなぁ。ちなみにその魔物はなんて言う魔物なんだ?」
「アラクネーと言うメス蜘蛛だ。あれの先祖も元は神落ちでな。バカなメス同士の競い合いで足元をすくわれて地上へと落とされたが、そこにさらに毒を盛られて下半身は蜘蛛、上半身は神の頃の美しいままの姿という哀れな姿にされてしまったそうだ」
「そりゃ、エグいな」
「ああ、だから、つがいとなる同じようなオスはおらぬが、やはり神落ちだからか数年に一度働き蜘蛛の卵を産み落として世話係を作り数百年に一度自分の子孫となる女王蜘蛛を産み落として子孫繁栄をするそうだ」
「へぇー。ちなみに食い物は?」
「うむ、基本、肉食と聞くぞ」
「めっちゃ危険じゃんかよ!」
「まあな。だが、女王蜘蛛は知能が高いからな。我同様、言葉も話せるはずだぞ」
「いや、言葉が話せてもなぁ」
「あやつらは毒を使って料理をする文化があると聞く。旨い料理を出して交渉するのも面白いかもしれぬぞ」
「なに?!料理か?だけど、スペシャルポジティブに考えて仮にそこでうまく糸をもらえたとしても、その糸を織れないんじゃ意味がないよなぁ」
「実はな、その糸を完璧に織れるのはアラクネーなのだ。自分の体から作る糸だからというのもあるが、元々とても素晴らしい織物の腕前を持つ女神であったのだ。まあ、それが発端となり性格も災いして落とされたのだが、あやつらなら良い織物工になると思ってな。」
「お前、それ相当無理がないか?」
「まあ、無理だろうな。ハッハッハッハッだが、もし仮にその話がうまく進めば面白い事になるであろうなぁと思っただけだ」
「うーん。たしかに。物は試しだけど、命がけ。うーん。ちなみにダンジョンにいるのか?そのアラクネーとかいう魔物」
「ダンジョンにもいたりはするが、あれはある意味仮初めだからな。アラクネーであってアラクネーではない。ダンジョンが作り出したアラクネーでは、ダンジョンの外では仕事はできぬ。ダンジョンの物ではなく森に住まうアラクネーの方が良いであろう」
「森か。でも、俺、マーニン島では会わなかったな」
「ああ、あれはジメジメとした薄暗い森のさらに陽の当たらぬところに好んでおるからな」
「ジメジメねぇ。こりゃ誰かに聞くしかないなぁ。とりあえず、ギルドに戻って受付にでも聞いてみるか」
「うむ」
こうして俺達は冒険者ギルドへ転移した。
読んで頂きありがとうございます




