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13.マーニン島〜三ヶ月〜

 マーニンビートの研究を始めてひと月がたった。

 この期間、俺は変わらず川で魚を獲ったり薪や山菜を採りに行きホーンラビットに攻撃されたり、グリーンキャタピラーに糸で巻かれたり、ゴブリンに遭遇してウィンドカッターでやっつけたりと特に変わりのない狩り暮らし。

 そこに日課のマーニンビートの品種改良が加わり、それぞれの経過を見ながらの日々は充実したものだった。


 まずマーニンビートの通常種の成果は通常種は生育期間を本来三ヶ月必要とする。

 それが水魔法の水撒きと光魔法の回復魔法を追加した水。

 そして土に俺の魔力を少し注いだ物は驚くべき事に異常種と同じように、ひと月で三ヶ月かけてできた状態のものと

 同じ大きさに育った。


 まず土に魔力を注いでで育てたものは、まだ成長段階のようでこのままいけば、さらに大きいものが作れそうだ。

 一つ切って食べてみると何もしていない

 既存のものより味が濃厚で旨味が強い。

 栄養価も上がっている。

 一つのプランターの中に4本分育てているので、残りの3本を経過観察していこうと思う。


 次に水魔法での水撒きをしたプランターは、魔力を注いだものと同じような結果だったが、葉のみずみずしさが増し通常の物は、時間経過すると葉にクセが出ていたが、そのクセもなく若葉のように柔らかく美味しくなった。


 最後に回復魔法をかけたものだが、これは驚くべき事に異変種となった。

 見た目の色や形、味は他の魔法をかけた物と特に変わりはなかった。

 だが、この異変種が持つ特有の効果を偶然気づく事になった。


 ある日俺はウォーターメスを使って、調理していた際にあやまって自分の指を傷つけてしまった。

 包丁でたまに指をちょこっと切ったりするあれだ。


 かすり傷程度で特にヒールをかけることもなく、そのままにしていた傷。


 食後にマーニンビートの世話をしている時だった。


 異常種の葉に傷口が触れたら治癒したのだ!


「えっ?! 治った? な、なんで?」


 流石に驚いて鑑定をかけると…


【 名前 】マーニンビート 異変種

  ヒールビート回復野菜


【 用途 】葉は傷薬になり古傷でも治癒できる。

  肥大した根は回復ポーションの原料となる。

  通常、回復ポーション作成は、様々な薬草を混ぜ合わせ作るが、ヒールビートを利用すると他の薬草を必要とせず、一つのヒールビートだけで最上級回復ポーションよりも威力の強いものが神の錬金釜使用で20本分作成可能。

 死亡さえしていなければ魔力、体力、共に全回復する。


 葉はそのままでも使えば傷薬に。

 他の薬草のロカイと混ぜると総合作用で傷だけでなく通常治せない古い火傷や痘痕あばた等の傷あとも綺麗に治す塗り薬となる。


 傷薬としては軟膏と合わせて使うと使いやすく、化粧品としても使用可能。

 皮膚の再生力を使いシワやたるみを解消する。

 シミは傷ではないので効果はない。


 また、葉を使ってポーションを作れば傷薬の飲み薬もできる。

 死亡さえしていなければ、傷口にかけても飲んでも全ての傷口はふさがり骨折なども治癒するが流れた血までは作れず回復はしないため安静が必要。


 と驚くべき成果が出たのだった。

 偶然気がついたが怪我をしなければ、気づかなかったかもしれない。

 その時はまだ成長しきっていなかった為、鑑定だけしてポーションは作っていない。

 この後一本だけ収穫してポーションも作ってみるつもりだ。


 次に元々の異変種の砂糖を作ったビートだ。


 土に魔力を注いだものは、大きさが元の物と比べて三倍デカくなった。

 甘みもさらに増し根中等度が30%と10%甘さがアップしていた。

 葉の味は残念ながら俺にはわからない。


 水魔法の物も同じような結果だ。

 葉はみずみずしくなったのだろうか?

 魔物に聞いてみないとこればかりはわからない。


 最後の回復魔法だが、これも魔力を注いだ物や水魔法の物と大差はなかった。

 鑑定したが人に対しての回復効果なしとでた。

 糖度が上がり大きく成長したくらいで特に効果もないが、また偶然何か起こるかもしれないので続けて観察をしていこうと思う。


 とりあえずこれらは収穫しておこうかな。

 元々、一ヶ月で育つ野菜だから、これ以上大きくはならないだろう。

 根っこの先だけ残して三種類とも収穫した。


 よし。次は新しくできたヒールビートで回復ポーションの作成だ。

 神の錬金釜を使って、肥大した根の方だけ使う。

 葉の方は軟膏になる材料が無いため作れないだろうとヒールビートの根だけ使い神の錬金釜のスイッチを押した。


 待つ事数秒、相変わらずの恐ろしい早さで…。


 ……チーン


「どうかな?」


 中を覗くと…


「あれ???箱?」


 その中にあったのは上等なワインやウィスキーが3本分くらい収められてるいような大きめの木箱だ。


 木箱を持ち上げテーブルに置いて蓋を外すと、出てきたのはエジプト土産定番の一点物の香水ボトルのような、真ん中部分はふっくらと丸みを帯び、下に向かって徐々に細くなった

 美しい曲線で作られた10センチくらいのガラスの小瓶だ。

 蓋は葉っぱのような形をしていて虹色の液体が入っている。

 これが仕切りのついた木箱に40本入っている。


 一本しか使ってないのに40本だ。

 鑑定した時に比べて一本の大きさが2倍ほど大きくなっていたからだろう。

 ポーションとして取れる量が増えたようだ。

 この先さらにヒールビートが成長したらかなりの数でポーションがとれるだろう。


 洒落たガラスの小瓶を一本手に取り鑑定をかけてみる。


【 名前 】神の錬金釜で作ったパーフェクト回復ポーション


【 用途 】死んでいないものなら魔力、体力、共に全回復する。

 最上級ポーションより効果の高い物。

 さらに全回復後20分間攻撃を受けても回復効果が持続されるため実質この間相手からの攻撃は効かなくなる。

 病気についても効果がある。

 大体のものは治せるが結核を治すには、また別の成分ストレプトマイシンが必要になり、これと調合することにより結核薬が作れる。



「なんかすごいものができたな。しかも、この世界にも結核あるのかよ。予防接種受けてるけど、感染したら怖いよな。不潔なゴブリンとか感染してたら、もしかしたらうつるかもしれないし、怖いから一つは持っておきたい薬だな」


 このストレプトマイシンってのも調べてみるか。


 午前の作業を一通り終えて昼食をとった後、今日は湖に行こうと思う。

 実はまだ湖には行ったことがない。


 サルビー川の上流に湖があるのだが少しばかり距離が離れているので今まで足を向けなかったが今日は行ってみようと思う。


 歩いて30分くらいの所だ。

 実はこの湖の水が流れ川となり、島全体に行き渡り海に流れていくようだ。


 海に流れているということは、この湖や川で生まれた魚が

 海から戻ってきて卵を産みつける頃合いでは無いかと思い立った。

 もしかしたらイクラが食えるかもしれない。

 想像したらつい、よだれが。


「いかん、魔魚の生態もよくわからんし卵を産まないかもしれない。時期だって違うかもしれないしよだれを垂らすのは早いな。冷静になろう」


 とか言いつつも締まりのない顔をしている。


 実は最近、仕掛けを作ったのだ。

 魚が住む川の水、今回は湖だな。

 その水を使ってウォーターボールを作る。


 作ったウォーターボールの中には内側に流れこむように水流を作っておき、グリーンキャタピラーを仕込む。


 そしてそのウォーターボールを元の川や湖の中に沈めて少し待ち、魚がグリーンキャタピラーに食いついたらそのままウォーターボールの中だけ一気に温度を下げ氷水にする。


 こうする事で水の中で氷締めも行えるし、取り出すのもウォーターボールを操作するだけで楽チンだ。

 ちなみに小魚が入った後、大物が来たりすることもあるので

 すぐに氷水にしない時もある。


 小魚だけ欲しい時はウォーターボールを小さめに作って大物が入れないサイズにしたりと工夫次第で簡単に漁を行えるようになった。


 一度中に入ったら出られないような水流になっているが、同じ水質で同じ色だからか、捕らえられている魚も捕まってる意識がなく暴れたりすることがないのがメリットだ。


 餌のグリーンキャタピラーは、俺が歩いているといつも上から降ってくるので餌代もかからない。


 森を抜ける時にいくつか捕獲して湖に行こう。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






 ────歩き出して30分まもなく湖のはずだ。


 森の中を木を避けながらズンズン進む。


 すると突然視界がひらけ、そこには光に照らされ澄んだ鏡のような美しい水面の大きな湖が広がっていた。


「思ってたよりデカくて透明度の高い綺麗な湖だな。これなら魚もよく見えそうだ」


 ここからはゆっくりと湖に近づいていく。

 理由は簡単、魔物だ。

 しかも川と違って虫や小動物ではなく、大型の魔物の気配が至るところにある。

 木陰から様子を窺うとみな、この湖の水を飲みに来ているようだ。


 ここの水って美味いのかな?

 それとも魔力が強いとかかな?


 さて、湖に近づけないのは困りものだが作戦はある。


 少し前に、ただ透明化する魔法があることを知った。


 昔から存在する魔法らしいが同じパーティーの人間同士、見えなくて攻撃してしまったりと使い勝手が悪くあまり使われないらしい。

 さらにこの透明化は透明になる以外、攻撃を通さないとかそんなものも一切ない。

 ただ視覚の問題だけだ。

 盗賊防止で大きな街などはこの透明化が使えないようにもなっているためか、今はほとんど使うものはいないそうだ。


 俺としては姿が見えないだけでもかなりありがたい。

 気持ちが違う。

 どれだけ魔法に慣れてきたといっても怖いものは怖い。

 つい、拳を握ってしまう。


 だが、相手から俺は見えてないと分かれば堂々と狩りができる。

 ビビリですから。

 匂いに敏感な魔物には気付かれるが結局、結界があるから問題はない。

 問題はないとはわかっていても何度もしつこく言うが怖いものは怖いのだ。


 さて、まわりもそんなに魔物の気配もないしそろそろ行くか。


 ゴソゴソと草をかき分け湖へと歩く。


 すぐ側までやってくるとさっそくウォーターボールの仕掛けを作り、湖に入れてしばし待つ。


 すると思いのほかすぐに感知スキルに反応があった。

 どうやらグリーンキャタピラーに魔魚が食いついたようだ。


 大きさも問題ないのですぐにウォーターボールの温度を下げ

 氷水にして氷締めする。


 そして感知スキルで生存反応を確認し氷締めが終わったようなのでウォーターボールを陸に上げ魔法を解除する。


 すると今まで見たことのない魔魚が獲れた。

 鑑定は後だ。

 アイテムボックスにしまう。


 清い空気漂う静寂の中、またウォーターボールを湖に静かに入れる。

 そうして数匹獲っていると突然、遠く離れた所からバチャーンと水面を打つ音が響く。

 その後、馬の恐怖の混じった、叫び声のような、いななきが聞こえてきた。


 おい?!なんだよ!何事だ?


 音のした方を見ると…


 そこには25メートルもあろうかという巨大な恐竜? 鳥? ライオン? とにかく巨大な魔物が3メートル程の大きさの馬を今まさに上空から捕食したところだった。


 圧倒的な強さの捕食者の前になんとか足をばたつかせ、抵抗をしているようだがあの様子では誰が見てもすぐ食われるだろうと予想が立つ。


 それほどまでに捕食者の姿は目を圧するほど迫力がある。


 湖畔を覆い尽くすような大きく、息を呑むほど美しい銀の翼と鷲のような顔に金色のクチバシ。

 鋭くどんな物でも容易く引き裂く力を持つであろう翡翠のような澄んだエメラルドグリーンの鋭い爪の前足。

 その、ぞっとするほど美しい爪が馬の体にめり込んでいる。

 下半身と後ろ足は金色の毛並みで太くたくましい、どっしりとした体躯をしている。

 毛で覆われていてよく見えないがきっと後ろ足の爪も恐ろしく美しいのだろう。


 3D映画のスクリーンを見ているかのようなあまりの光景に、ついつい口をポカーンと開けてその様子をじっくりと見ていた俺。


 仕掛けの事も忘れて感知に反応していたウォーターボールを慌てて氷締めしてゆっくりこっそり……。

 とにかく静かに引き上げてその場を転移で去ろうとすると遠くの方からバサッバサッと優雅にこちらの方に降りてくる。


 や、やべえ……みつかったか?


 いや、俺は透明だし見えて……。



 ドシ────────────ン!




 恐竜? 魔獣? の風圧で俺の結界の周りに砂煙がおこり、周りにあった軽い岩が吹き飛ぶ。


 マジかよ、なんだよ、この威力は。

 しかも間近に見ると本当にバカデケェ────。


 怖い、ほんっと────に怖い。

 ちびりそうだ。


 でも今のも耐えれたし結界さえあれば大丈夫だ。

 あっやべ、腰抜けたわ。


 地面にへばりつき動けずにいる俺。


 すると驚く事が起こった。



「ほほぅ、我の風にも飛ばされぬとは、ちっぽけな結界のくせに生意気な」


 しゃ、しゃ、しゃべった────────!!!



 なんだよこいつ、なんで話せるんだよ。


「おい、そこの者、姿を現せ。現さぬなら結界ごとこの爪直々に引き裂いてくれるぞ」


 ば、バレてる。

 ですよね。でなけりゃ、こっちに来ないよね。


 たぶん結界は破られることはまずないと思う。

 話せるって事はもしかしたら食われないかもしれないし、さっき馬を丸呑みしてたから腹は減ってないはず。


 とりあえず腰が治るまで話をして時間を稼ごう。


 俺は意を決して透明の魔法を解いた。


「ほう、人族か。この辺りにいるとは珍しいな。しかも面白い結界を使う」


 普通に話してくれそうだ。


「おい人族よ。高貴な我が話をしておるというのに、なぜ口を開かん恐怖で声も出ないか」


 えーえーそうですよ。

 びびって腰抜けてますしね。


「その高貴な魔物さんが俺に何かようですか?俺、肉も付いてないしあんまり美味くないですよ」


「我は高貴な存在でしかもグルメだ。人族なんぞ骨ばかりで食う気にならん。その辺の下等な者共と一緒にするな」


「そうですか。それは失礼。では何のご用ですか?珍しいだけでしたらお暇させていただきますが」


「そう急くでない。お主何やら良い匂いがする」


 えっ?嘘だろ?結界があるから匂いなんてしないはずだぞ!


 こいつ見た目通り、相当とんでもない魔物なのか?


「何を黙っておる。我はこの世で食した事のない物は少ない。知らん匂いを嗅ぐと食いたくなる。しかもお主からする香りは、まぶたを閉じてうっとりするほど良い香りだ。今すぐそれを我によこせ。さすれば見逃してやろう」


 な、なんの匂いだ?


 魚か?でもアイテムボックスの中だし。


「う────ん。申し訳ないが何の匂いがするのか、俺にもわからない。です」


「隠し立てするならば今すぐこの場で頭から食うぞ」


 キェ────。


 こ、こえぇ。


 俺は頭の中で何を持っているのか、すぐさま考える。


「さ、さっきここで獲った魚ですか?」


「魚などではない。大地になる香りだ。若干、土の匂いがするぞ」


 ん?土?


「あ────っ! もしかして」


 俺は家を出る前にマーニンビートの世話をしていた事を思い出す。


「まだ、実験中の野菜なんですけど体に害はないと思います」


 そういうと、俺はアイテムボックスからマーニンビート異変種品種改良型を取り出した。



 そしてその後予期せぬ事が起こるがそれはまた次のお話。


読んで頂きありがとうございます

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