129.工房商品完成
「こんにちは、ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「あら?タクミさんお帰りなさい。ギルドマスターなら、お部屋で書類の整理されているはずですわよ。よければこのままお部屋へどうぞ。」
「アポ無しですけど、大丈夫でしょうか?」
「はい、タクミさんはいつでもお通しして良いとの事ですから問題ありませんわ。」
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
なんか、随分と信用してもらえた?のかな?俺は階段を昇りギルドマスターの二階の部屋へと向かった。
コンコンコン
「はーい」
中からギルドマスター の声がする。
「タクミです、少しお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「おお!帰ってきたのか?しかし早えなぁ。完遂報告が少し前に入ったばかり・・・まあ、中入れや。」
「はい。」
「んで、報酬はもらったか?」
「いえ、まだです。とりあえず自分の仕事の事で一旦戻ってきたので、報告がてらこちらに顔を出しました。」
「そうか。道中、妨害はなかったか?」
「はい、というか移動は空ですからいたって平和なものでした。」
「そうか。それは良かった。あのおっさんも流石に空じゃ手出しができなかったか。」
「そうなんですか?」
「ああ、実は報告が上がってな。すでに解決はしているんだが、あのおっさんがどうやら途中の村に刺客を忍ばせていたらしく背格好の似た冒険者が襲われてな。」
「え?!そんな事があったんですか?」
「ああ、一応、国のプロジェクトだから、念には念を入れてお前とは別にお前のふりして陸路を冒険者に旅をさせて囮にしたんだ。そしたら案の定囮に食いついてきたんだ。」
「その冒険者に怪我は?」
「あははは、ないない!優秀な奴を送り込んだから、そこは問題ない。逆に関係のない旅人をむやみやたらに襲われることの方が危険と感じていたから狙い通りだったんだが・・・。」
「何かあったんですか?」
「相手もどうやらプロを頼んだらしくてな。あのおっさんとの繋がりをすぐに吐いたんだが、その後、こいつは抵抗しないだろうと思った馬鹿な衛兵が気を抜いた隙に逃げられちまってな。」
「あらら。逃げられたら証人としても出せないし簡単に言い逃れされますね。」
「そうなんだ。逃げられるのが一番厄介でな。あいつらは闇の仕事を請け負うタイプだから失敗しても逃げちまえば、また元の所に戻って違う地域の闇の仕事をするだけで姿も隠せるから何も問題ないんだよ。しかも死体すら無かったら世迷い言やでっち上げと言われるのはこっちだからな。」
「死体ですか。物騒ですね。」
「まあな。もちろん拷問とかじゃないぞ。逃げられない事を悟ると自ら命を絶つんだ。噂じゃ証人として出た方が後々そいつらにとっては恐ろしい仕打ちをされるから自分で死んだ方がよほど楽だと聞く。闇の世界は俺らにはわからんな。」
「闇の世界ですか・・・」
「闇って言っても元は貧困で口減らしにあったものやスラムの奴らだけどな。ドッグタグを持たずに生活する奴らの事だ。そういう奴を一人でも減らす為に冒険者ギルドはあるんだが難しい問題だな。」
「そうですね。俺、そういう事全然分からなくて。」
「すまねえ。つまらねえ話をしたな。せっかくだし報酬受け取ってけや。ほらタグだせ」
「あっ、ありがとうございます。」
俺はメェを送り届けた報酬をもらってギルドを出てバーズレムへと戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
「なんてこった。あいつがまさか被害に遭うとはなぁ。」
「いや、自業自得だぜ。全くあいつは自分じゃ賢いと思ってるふしがあったが、本当に抜けてる奴だったからなあ。」
「だが、気の毒だなぁ。あいつは職人として働けなくなっちまったんだ。」
「何言ってんだ?親方に恩を仇で返して挙げ句の果てにまた迷惑かけてるのに、悪いなんて微塵も感じてねぇ。」
「なあ、今も言ってるのか?親方が追い出さなきゃこんな目に遭わなかったとかよぉ。」
「ああ、そう言ってるそうだ。チッ胸くそ悪りぃ。出て行くって言ったのは自分から言い出した事なのによぉ。何でもかんでも人のせいにすりゃいいってもんじゃねえんだぞ。」
「確かにな。だけどよぉ〜。奥さん、見舞いに行っては世話焼いてるんだろ?」
「ああ、同じ窯の飯食ってる奴は辞めた者とはいえ家族に違いないし困った時はお互い様だってな。」
「同じ窯の飯ってここいらで焼くパンはみんな同じ窯で焼いてるだろ?」
「ああ、つまり奥さんはここいら一帯はみんな家族って事さ。あの人の人の良さには笑っちまうよな。」
「ああ、有り難えこった。ただでさえ、職人なんて奴は偏屈な奴が多いのによ。親方は良いかみさんをもらった者だなぁ。」
「ちげえねぇ。それなのにアイツときたら。」
「おい、お前ら、何うちの嫁が良い女だって話してんだ?」
「お、親方!」
「へっへっへ。お前らには苦労かけるな。アイツもアリシアの温かさが伝われば良いんだけどな。こればっかりはお国柄という奴だ。仕方がねぇ。」
「しかし奥さんが嫌味を言われても尽くしてやってるのにあのバカときたら俺は元同僚として情けねぇよ。」
「お前達の気持ちはアリシアに伝えておくさ。だが、あのバカはどこまでいってもバカだからなぁ。」
「こんばんは!頼んでいた物の確認に来ました!」
「タクミさん、お待ちしていました。出来てますよ。注文の品。さっそくご案内します。」
「はい。お願いします。」
「おお!来たか!出来たぞ!例の品。確認してみてくれ。こっちが言われていたシャワーに、バスタブとシャワールームだ。バスタブはお前さんの物よりはやはり性能はかなり落ちるな。だが、焼き具合と使う土を調整してかなり汚れの付きにくいものにはなっている筈だし排水も上手くできてる。あとは付与を施すなりはそっちの仕事だが付与なしのバスタブとしてはかなり納得のいくものができたぞ。」
「たしかに、ツルツルですし付与がなくても凄くリラックスできると思います!この足を伸ばして入れて更に深すぎないところが、うーーーんたまらなくいい!」
「ああ!それからシャワーは軽量化して持ち手をつけてみた。シャワー本体の裏側を捻るとそこに魔石を取り付けられるようにしてある。あと、言われた通り、シャワー面はここを絞ると水が一直線に流れるようになって、戻せば沢山の穴から水が流れてシャワーとして使えるようにしたぞ。あとは付与魔法をするだけだ。」
「ありがとうございます!これなら使い易いですね。」
「それからシャワールームだが、まあ、中を見てくれ。」
ガチャ
「一応、中から鍵をかけられるようにしてある。簡易だがな。あとは水石で作ったから通常の土や石で作るよりは軽いし、木で作るより水のせいで腐ったりすることもねえから、その辺は問題ねえ。あとはシャワーを引っ掛けるところは三点にしといたぞ。上に二点と下な。一番上は背の高い獣人やら大男用でその次は女性でも使える高さで下はハーフエルフや子供、大人でも座って使える位置に取り付けた。それから角度も自由に変えられるし固定ももちろんできるからハンズフリーでシャワーが浴びられる。もちろん排水もできるようにしたし、注文通りに作れてはいる筈だがどうだろうか?排水も水を流して確認したんで問題はない筈だ。」
「ありがとうございます!完璧です!では、付与魔法をすぐかけますのでテストしましょうか。」
「おう!頼むわ。」
俺は通常業務で忙しい親方のキースさんと交代して作業をしてくれたキース父である大親方とテストを行い文句のない素晴らしい商品ができた。
「すっげえなぁ!こりゃ便利だな!しかしグランド王国では風呂の禁止令があるからなぁ。エルフの国や隣の国とかになら売れる・・・いや、冒険者か?!」
「よくお分かりになりましたね。流石、いろんな土地を回られてますね。」
「おお、そうか、それでなるべく軽くしたいって言ってたんだな。」
「はい。そうなんです。冒険者ってすっごい汚れますから。」
「そうだな。ダンジョンなんて最悪だからな。このシャワーが一つありゃかなり助かるぞ。だが高額な商品になるよな。」
「そうですね。でも、これがあれば水の確保もできるので売れるとは思うんですけどね。」
「たしかにな!それに金持ちには売れるんじゃないか?」
「ええ、あとは魔石無しも販売しようかと思うんですよ。」
「ほう?魔石無しか。」
「ええ、魔石が初めから付いていると高いので魔石無しの本体のみを販売すれば冒険者だったら魔物倒して魔石を手に入れられるかなって思ったんです。」
「いや、お前、それは無理なんじゃないか?」
「え?」
「だってよぉ、魔石付きの魔物って言ったらお前、Bランク以上だろ?いくら小さくても厳しくねえか?」
「そうですかぁ〜。そう言われてみると、そうかもしれませんねぇ。うーん。まあ、価格表を見せてお客さんに選んでもらいますよ。どうせ取り外しできるように作ってもらいますし。他の道具から取り外して使う事も出来ると思うので。」
「まあ、たしかにな。お前、ペニーの儲けが上手いんだか下手なんだかよくわからん奴だな。ハッハッハッハ。」
「そうですね。よく周りに心配されます。」
「だろうな。でもお前はお前の信じる道を進めばいいさ。何も間違った事はしてねえからな。」
「はい。ありがとうございます。」
「そうだ。お前の所は変わった人材募集をかけてるってうちの奴が言ってたが手や足が不自由な奴でも仕事が真面目なら歓迎って、大丈夫なのか?」
「はい、真面目な方なら全く問題ないですよ。」
「だが、そんな奴ばかりじゃ仕事なんてできねえだろ?」
「人によると思いますよ。手や足が不自由であっても出来る事を探し努力して力を尽くしてくださる方は沢山いらっしゃると思います。もちろん、手足が不自由だからといってこちらも特別扱いはしませんし、やるべき事はやってもらいます。もし、手足が不自由なんだからできなくて当然と開き直ったり、出来る事であっても、やる気がなく甘えているような方はこちらも慈善事業ではありませんので採用しませんし、その方次第です。本当に苦しい思いをされている方はきっとそんな態度は取られませんし、それに選り好みする方はそこまで職や生活に困っていない方なんじゃないかなって思います。もちろん、手足が健康であっても職がなくて苦しい思いをしている方もいますし色々ですよね。でも俺にはそういう目利きができませんからぜーんぶ任せてます。」
「甘えか。厳しいが確かにそうだな。プライドが高くても飯は食えねえからな。」
「プライド?ですか?」
「すまん、こっちの話だ。テヘッ」
でた。この人たまに大親方感がぶっ飛ぶ時があるよな。
「もちろん、採用後の契約前にサポートをして、それでも商会で働くかを確認してから契約を結びますが、うちはたぶん他よりやる事も多く覚える事も多いので大変ですが、やりがいのある仕事だと思いますよ。」
「うむ、サポートかぁ。」
「何かお困り事ですか?」
「実はなぁ、俺は面識がねえんだが、ここで働いていた職人がうちを辞めて親方株をとると息巻いて領都に向かう途中にゴブリンに襲われて腕をもがれちまってな。助けられたのが早くて命に別状はねえがまあ、職人としてはダメだな。」
「腕を二本ともやられたんですか?」
「いや、片腕だ。」
「でしたら、もう片腕がありますよね?それに親方株の取得を志せるほどの経験のある方なら今までの経験を活かしてやりようがあるのではないですか?それとも片腕だとそれだけの経験があっても難しいものなんでしょうか?すみません、俺その辺り無知なもので」
「たしかに、稼ぎは減るんだが生きていけねえ程でもねえんだがなぁ。あんたが言うように簡単に言やぁ、甘えだな。働く気がねえんだわ。そいつ。」
「はぁ。でしたら申し訳ないですが、俺の所は雇えませんよ。」
「あっ?わかっちった?テヘッ」
「はい、うちはやる気のある方しか雇いませんので、ごめんなさい。」
「だよなぁ〜。そりゃそうだ。」
「でも、その話からすると、やられた人ってもしかして・・・」
「そうなんだよ。タクミさん。」
「おお、キース。そっちは順調か?」
「ああ、まあな。」
「キースさん。込み入った話を部外者の俺が聞いていいのかわかりませんが、被害に遭った方は、俺の胸ぐらを掴んだあの人ですか?」
「そうなんだよ。あれから領都に向かったそうなんだが、きちんと下調べもせず、旅仕度もろくにせず出かけたようでね。あいつは元々、すごい過信する性格で物凄く抜けてる奴だったんだ。だが、職人として使えないわけではないから働いてもらっていたが今回、大事なお客さんへの暴言にうちの嫁への暴言と態度に私も我慢ができなくなってね。」
「キースはアリシアちゃんに惚れてるからなぁ。だが、大事なことだぞ。ムフフフフ。」
「惚れてると言うよりアリシアはうちの嫁であり職人だ。しかも腕だって飛び抜けて良いんだ。職人としてだけでなく嫁としての家の仕事もしっかりとこなして、さらに腕を磨き男以上の働きをする彼女に対してのあいつの言いぐさには、この工房を預かる身として許せなかったんだよ親父。だけどな、アリシアは今、そんな奴の見舞いに行っては世話を焼いてるんだ。それでもアイツはそれを当たり前だと思ってるから困っていてね。」
「え?なんで当たり前って思うんですか?」
「アイツとしては俺が引き止めて賃金の値上げをしていれば、バーズレムを出る事はなかったんだから、それをせずにこんな体にした工房に責任があるんだから献身的に介抱して今後の日当も出せと言う事らしい。」
「えっ・・・?そこまで図々しいとなんだか笑えますね。」
「あはは、そうだろ?」
「うーん。よし、俺に考えがあります。」
「え?」
「これこれしかじか、ごにょごにょごにょ」
「ほ、本当に可能なのかい?!」
「まあ、物は試しですよ。」
読んで頂きありがとうございます。
誤字報告大変助かります。
ありがとうございます。




