122.邪念
ランチ休憩の後、いろんな土を組み合わせたりして試行錯誤を重ねて試作品がいくつかできた所でキースさんの魔力がだいぶ減ったので魔力切れになる前にポーションで回復。
試作品を作る時はいつもこうなんだとか。
土の組み合わせで強度も変われば色の出方も何もかもが変わるそうなのでいくつも作らなくてはいけないし作り慣れているものとは違うため神経も使いいつもより魔力を多く消費するのだとか。
一か八かの俺とは違い、微調整も細やかだからきっと神経を使うのだろう。
こうしてできたものを並べていき、叩いてみて音を聞いたり、水を流してみたり色をつけた汚れをイメージした液体を流して、汚れの付き具合を確認したりとテストを繰り返している。
この調子ならばきっと良い製品が出来上がるだろう。
そういえばランチの時にあの、悪態をついた職人は居なかったからきっと気を使ってアリシアさんかキースさんが顔を合わせないように時間を調整してくれたのだろう。
そう、お互い水と油。顔を合わせない方がどちらのためにもなる。
「とりあえず、俺の要望は全て伝えましたが、あと何か俺が必要な点ってありますかね?」
「そう言われると、まさかここまでイメージから何から出来上がっているお客様は初めてで、正直打ち合わせることはほぼ無くなってしまったね。あとは私たちの頑張り次第で試作品の完成待ち、その後試作品のチェック、手直し、そして注文という流れになるが、試作品が出来上がるまでは自由にしていただいて構いません」
「じゃあ、俺は今日はこれで失礼します。また、明日の昼過ぎにでもお邪魔しますよ。その頃に試作品はできますか?」
「はい、トイレだけならできると思います。お風呂までは難しいかな」
「では、トイレの確認をしてそれができれば次はお風呂に取り掛かってもらいたいので明日の昼過ぎに来ますよ。俺のランチは用意しなくて結構ですから皆さんが食事を終えたくらいの時間にお邪魔しますね」
「わかりました」
「では、よろしくお願いします」
俺はそう言って工房を出ると、マーニン島に転移した。
俺もやりたい事があるからな。
やりたい事、それはあの転移魔法かのようなテーブルとワゴン作り!
これは誰にも見られたくない画期的な物だし、下手に真似されて事故が起きても大変だから誰かに盗み見される心配のないマーニン島の家が絶好の製作場所だ。
しかも、どれだけ失敗しても木は沢山生えてるしな。
この家、隠れ家的になってきたな。さてと始めるか。
まずはテーブルだよな。
俺のイメージでは八角形の木の幹のようなテーブルにその周りをまた八角形か円形のベンチでぐるっと囲んで椅子にする予定だ。実際に木の幹を使うと重いし大きさだって揃わないから板を張り合わせて作る。
その為にはまず立派な木と板の切り出しが必要だよな。
俺はさっそく森の中へと入り手頃な木をサーチをかけて探した。
しばらくするとタッタッタッタッと音がしてその直後ゴツーンと音がした。振り返るとそこには以前から俺に猛突進するウサギがいた。
「お前、元気にしてたようだな。相変わらず俺に突進とは元気いっぱいで良かったよ!」
話しかけられたウサギは首を傾げてまた、少し後ろに下がり突進。
「フハハハハ。お前って本当根性あるよな」
この突進もなんだか、懐かしくて癒される。ぼーっと眺めているとサーチに反応があった。このさらに奥にお目当ての木があるようだ。
「じゃあな」
別れの挨拶を一応したが、まあ、そんな物関係なしでコツコツくるよね。わかってはいたけど。
「おっ!あれあれ!」
俺の目の前には針葉樹林が広がっていた。
俺が探しているのは杉とパインだ。
針葉樹の中でも杉はとにかく軽くて気密性が低いスギは、家具の反りの原因になる湿気を逃がしやすくて狂いが生じにくい木材として軽さを追求した家具によく使われるし多湿な環境でも安心して使える木材なのが杉だ。
テーブルや椅子は配置換えの時に軽い方がいいだろうし従業員用の本格的な食事をとるスペースは調理場なので湿気も多いはずだ。
なるべく湿気に強い方がいいに越したことはないと考えた。
それと、お片付けするワゴンも軽い方が動きやすいからな。
そしてパインは色は、明るめの白っぽい感じの木で質感はソフトなので、優しい印象の部屋作りに勧められる木材だ。
俺が選んだポイントは実は色ではなくこの木の特徴だ。
木肌が柔らかいパインは、ぶつかった時に衝撃を和らげてくれるから硬い広葉樹のオークとかに比べて安全性が高い。
怪我などのリスクが低くなるからキッズ家具によく使われる木なんだ。
俺としては子供達も使う食事のスペースのテーブルや子供達が待機するというか遊ぶキッズルームはこの木を使って収納であったり赤ちゃん用ベッドやおむつ交換台を作りたい。
ちなみにお客様スペースのテーブルは高級レストランは杉のテーブルにリネンのクロスをかけて高級感を出しつつ誰でも入れる食事処はオークの木を使って簡単にテーブルや椅子が持ち上がらないように作る。
店の中で暴れられてテーブルや椅子を簡単に投げられないようにする作戦だ。
しかも食事処は一階だから重くても大丈夫なのがポイント。
んじゃさっそく、針葉樹から切り出して、加工していくかな。本当に俺、魔法を使えるようにしてもらえて良かったよ。神さま、ありがとう!こうして、各々、異世界商会の物を汗水流しながら一生懸命作っていた。
────その頃
『ちっ、何が従魔だ!ただの魔物じゃねえか?!人族さまが一番偉いんだ!それにアリシアだって女のくせにしゃらくせえ!女なんか男の横でエプロンつけて笑ってりゃいいんだ!だが、ここの稼ぎは他よりいいしな。ちくしょう!親方株さえ手に入れば俺だって良い職人なんだ!こんな店とっとと辞めて独立するのに!うーん。ペニーもまあまあ溜まってきたし、親方株の取得に動く時なのかもしれん。そうだ!そうやって言ってペニーの値上げを要求しよう。これから忙しくなるのは目に見えてる。そこで辞められたら困るのはこの工房だ。そうだ、今が値上げのチャンスかもしれねぇぞ。ケッケッケッ』
「あっ、親方。ちょっと良いですか?少しお話があるんですが」
「そうだね、今、忙しいから夕飯の後に聞いても大丈夫か?」
「へい。それで結構です」
「じゃあ、後で」
こうして各々やる事を一生懸命進める中、一人邪念を抱く者がいた・・・。
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