12.異世界植物の生命力は強かった
昨晩の惨事で魔力を沢山使って疲れたのか、思いのほか、ぐっすりと寝入りいつもより早く目が覚めた。
スマホの時計を見ると5時半。
異世界でも日が昇っている頃合いなので部屋から出て玄関に向かう。
アイテムボックスの部屋なので窓はもちろんなく朝日も入らない。確認するには外に出ないと日が昇っているかどうかはわからないのだ。
扉を開けると、やはり思っていた通りの光景が広がっていた。
「酷いな、これは」
玄関の表側の木は真っ黒に焦げていたり、炭のようになっていたり…結界があるため匂いはしないが、きっと結界から出ると木の焼け焦げた匂いが充満しているのだろう。
「ゴブリンは一体どうやって俺を見つけたんだ? あの気配がした時につけられたにしてもワープしてるからこの家までわからないはずだけど……」
うーん。まさか始めからつけられていたとかか?
家から出る時を見られていたら、突然俺が結界から出てくるから、この辺りに何かあると睨まれてもおかしくない。
そう考えるとこの場所は安全とは言えなくなってきたな。
ゴブリンの頭を潰したとはいえ他のゴブリンはまだ生きてるだろうし。
でもおかしい点はもう一つある。
感知スキルに反応しなかったことだ。
感知スキルは敵となる物を判別し地図のようなイメージの上に赤く点で表示される。
小さい物は小さく。大きいものは大きく。
俺が今まで大きな魔物に遭遇しなかったのは大きな点が近づいてきたらすぐに転移で逃げていたからだ。
この森の中ならいろいろな所に行っているので転移できる場所も近場だが増えた。
始めはすぐに家に飛んで震えてたけどな。
さてどうするかな。
あの時はたしか、ゴブリンサイズの点は無かったはずだが。
もしかすると虫くらいのサイズのやつがゴブリンにいるのか、ゴブリンメイジが従魔を従えていて、そいつの情報か。
又は、魔法で遠くから見る方法があってそれをやつが俺に使っていたか。
可能性があるのは最後だよな。
感知スキルに特定の魔法だけ反応させるようにグレードアップとかできないかなぁ。
流石にそれは無理だよなぁ。
他には俺の留守中に襲われたらそれも困るよな。
結界があるので家は問題ないが森を燃やされるのは正直気分が悪い。
昨日のような悪さをする奴がまた現れるかもしれない。
う────ん。
とりあえず今はどの程度、周りが焼け焦げているのか被害の規模も結界から出てみないことにはわからないし、どうしようもないな。
家に戻って支度してから調査してみよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
顔を洗い朝食を菓子パンで手短に済ませ昼飯を用意する。
もしかすると調査が長引くかもしれないので念のためのお弁当だ。
食パンにドライカレーを挟んだサンドイッチをアイテムボックスに入れ飲み物はコーヒーと水を用意。
コーヒーは土魔法で作ったコーヒー用の水筒に入れて持っていく。
アイスコーヒーならペットボトルの再利用でもいいが、ホットコーヒーだとペットボトルでは飲みにくいのでマイボトルを作ってみた。
水はコップがあればそこに水魔法で注げるというかコップから美味しい飲料水が湧き出てくれるのでボトルは必要ない。
なんなら氷も入れられる。
だが他の飲み物だとそうもいかない。
その為の水筒やら水差しだ。
これで荷物は大丈夫だな。
あとは浄化槽に魔法をかけて処理したら出発するか。
ゴブリンに昨晩燃やされたのは正面方向の木々や草花。
そこから燃え広がりあたりが焦げている感じだ。
俺の消火が早かったのか被害は思っていた程ひどくは無かった。
しかも昨晩に燃やされたばかりなのにここの草花はやはり生命力が強いのだろう。
もう、芽が出ている。
正直信じられなくて自分の目を疑い鑑定をかけたが芽を出して5時間となっていた。
早すぎるだろ。
芽がでるの。
でも、もしかすると俺の水魔法が養分になったのかもしれない。
魔力豊富な土でここの植物は育つので、そう考えると魔力のある水を与えられれば成長が促されるというのはどうだろう?
この状況なら何も手を加えず放置しても良いのかもしれない。
燃えた木々は土魔法を使って穴を掘り埋めた。
こうして土の養分になれば、さらに他の植わっている植物たちがよく育つだろうと仮定したからだ。
もし、あまりにも草木が燃えて焼け野原になっていたら土魔法で水堀を作ろうかと思っていたが、せっかく芽吹いた物を薙ぎ払うのは心が痛むので手を加えずこのまま家に帰ろうと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
家に戻ってきた俺は、もしまた火事があった場合、何か対策は無いものかと考えていた。
「うん。やっぱりこれだな」
ガーゴイルを作ろうと思う。
土魔法で作り火事が起きた時に上空から水をかけ消火するガーゴイル。
やる事はそれだけで敵になる存在を倒したりはしない。
なぜかというと、あまり仕事をもたせすぎて暴走されては困るからだ。
何にでも共通する事だが単純な構造の物ほど壊れにくい。
敵を倒す能力をつけて複雑化したせいで暴走されたら誰彼かまわず傷つけることになる。
だが消火活動だけなら、この森のためになるしそれ以上でもそれ以下でもない。
もしも、暴走しても火を消すガーゴイル。
ただそれだけで人畜無害だ。
よし。作ってみよう。
イメージはお城とかに水瓶を抱えたり後ろに背負っている怖い顔したガーゴイルだ。
家の四方を取り囲むように作るために四体作成する。
『クリエイト、ガーゴイル』
ポンッポンッポンッポン!
「おぉ!できた!なかなかの出来だな!しっかり頼むぞガーゴイル達!」
四つのガーゴイルは見た目が全て異なる。
皆、共通するのは翼と角を持っている事。
一体は顎に手をかけ考え事をしているような物で他には体操座りしたものもあれば両手を地面につけ威嚇するような物、そしてやたら脚が長くてスタイルの良いガーゴイル。
こいつは脚を組んで考え事をしているような。
皆、個性豊かなガーゴイルができた。
鑑定をして上手くできていることを確認しこれらを四方に設置していく。
かなり重量があるので身体魔法を使い持ち上げて設置した。
「ふぅー。これで俺が留守にしていても大丈夫だな。ガーゴイルやゴーレムは魔石がいらないのがありがたいよ」
はっきり言って原理はよくわからないけど、俺の魔力を常に使って今の状態を保ちいざという時に消火活動を行ってくれるようだ。
「これで一安心だな」
よし昼飯にするか。
今日はせっかくだから外で食べよう。
外にはまだ軽く座る椅子しかないので土魔法でテーブルと椅子を作る。
テーブルはラウンドテーブルで、椅子はアームから背もたれまで一体型で体を包み込むようにイメージ。
全体的に丸っこい椅子だ。
「よーし。できたぞ。食べるか」
この場でクリーン魔法をかけて手も洗う。
朝用意した弁当をテーブルに広げ美味しくいただく。
「うん、旨い。カレーは米にもパンにも合うからすごいよな。米がないから最近はスープカレーかドライカレーが多いけど、カレールーはどれでも作るときに確実に味が決まるから便利だよな。自分でスパイスを調合なんて俺には絶対できないよ」
俺はサンドイッチを食べ終え、作ったダンディーライオンの
インスタントコーヒーで一息つき、食後の予定を考える。
食後はマーニンビートの異変種の世話をしようと思う。
襲撃を受けた昨日の今日なのであまり出歩いて留守を狙われても迷惑だからだ。
ガーゴイルを作ったとはいえ、やはり気は抜けない。
それに少し気になることがある。
午前中にみつけた異世界の植物の芽。
魔法の水を与えることで成長するのならそれは肥料になったり品種改良ができるのではないかと思ったのだ。
気になりだすと調べないままでは歯に物が引っかかったように気持ちが悪い。
というわけでマーニンビートの研究をしよう!
食べた物をアイテムボックスに片付け倉庫に向かう。
プランター栽培中のマーニンビートだ。
このマーニンビートにただの水魔法の水撒きと光魔法の回復魔法を追加した水。
そして土に俺の魔力を少し注いだ物と何もしないもの。
四つのプランターで実験してみる。
今まで水は与えていなくても、すくすく育っていたので何もしていなかったがこの四種ののちの成長が楽しみだ。
マーニンビートの異変種も、それぞれ四つプランターを作って同じことをしてみる。
さてこれから毎日楽しみだな。
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