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117.恋の行方

「おはようグリ!」


「うむ、ではやるか。」


いつもの朝の行水だ。旅に来ようとこれだけは変わらない日課だ。きっとヘンリーさんは今も悔しがっておる事だろう。俺にとっては面倒な時間だがヘンリーさんにとっては、かけがえのない素晴らしい心の癒しになる時間らしい。

バチャッ!バチャバチャバチャッ!


「おい、こっちに水が飛ぶからもう少しお行儀よく入ってくれよ!」


「おお、すまんな!」


ビチャッ!


「おい!お前今わざとかけたろ?!このやろー」


「何の事だ?ムフフフフ」


「浴びてた水をかけるなんて子供かよ?!」


「フンッ!我の心はいつでも若々しいからなぁ。」


「あーそういう事な。年取り過ぎてボケが始まっちまったか。これは残念だわ。」


「ボケだと?!失礼な!我はピッチピチぞ!」


「はいはいお爺ちゃん、お背中流しますよぉー」


「タクミごときが生意気な!」


「せっかく風呂上がりの冷たいローズヒップオレンジ用意してるのになぁ。いらないのか?」


「グヌヌ、仕方がない、せっかく用意したのだ。飲んでやらんこともないぞ。」


「はいはい。」


こうして俺たちは賑やかに水浴びを終えて、俺とポヨは今度は食堂へ行き朝食をとることになった。その間、グリは風魔法で体を乾かし俺たちが来るのを待った。


◇ ◇ ◇ ◇


「あいよ、お待ちどうさん。」


「ありがとうございます。」


「あんた、これだけでぶっ倒れやしないかい?もっと食べなくて平気かい?」


「あ!平気です。市場で買い食いしたくて量を減らしたんですよ。」


「なんだ、そうかい。余計なこと言ったね!市場を楽しんでおくれ!」


宿の腕っ節の強そうなウエイトレスさんが朝から景気良くドンっと朝食をテーブルに置いてクルクルと踊るように他のテーブルやら料理の出てくるカウンターを行き来して仕事をこなしている。ここの住人達は皆朝が早いので食堂も大忙しだ。俺は野菜たっぷりのポリッシュを食べて腹半分を満たした。さっきも話したようにこれから市場によってランチの調達と買い食いをしたいからだ。もうこれは俺の完全なる趣味になってきたな。別に食事は売るほどあるが、やはりその土地の料理を食べてみたい。


「ポヨ、あと片付けよろしくな。」


ポヨーン


こいつは本当に美味そうに食べてくれる。ありがたいなぁ。よし、そろそろ行くかな。俺は朝食を食べ終わりカウンターにチェックアウトのため部屋の鍵を返しグリのもとに向かった。


「おう、来たか。」


「待たせたなぁ。すっかり、乾いてるなお前の羽。」


「ああ、では市場とやらへ参ろうか。ジュルッ」


「お前は本当に食い気がすごいな。」


「フンッ。我の楽しみに文句は言わせんぞ。」


「はいはい。美味いもん食って今日も頼むな。」


こうして俺たちは市場へと向かい、相変わらず鼻のいいグリが美味いものの匂いを嗅ぎつけては購入して食べたりランチ用にしたりと一通り買い出しを終えて街を足早に出て本命の目的地であるバーズレムへと羽ばたいた。


その頃リッチモンドでは・・・


「さあ、今日も一日頑張るわよ!」


「あらあらお嬢様、今日も張り切っておられますね。あまり無理をなさいませんようにお願い致しますよ。ばあやの寿命を縮ませないで下さいましね。」


「大丈夫よ!ばあやには、とことん長生きしてもらわないと。」


「いえいえ、ばあやももう歳でございますゆえ、そんなに長くは寿命はございません。ですからばあやの目の黒いうちにお嬢様の晴れ姿を見せて下さいまし。」


「ばあや!そんな事言っても私一人では叶わないのだから、これは相手も伴う事なのよ。そう簡単にはいかないわ。」


「そうでございますねぇ。お嬢様。ところで最近よくその髪飾りをつけていらっしゃいますが、とてもよくお似合いですこと。お嬢様の瞳の色と同じ色の美しい輝きを放つ石に、金の細工がとても見事なバレッタでございますが、どなたかの贈り物でございますか?」


「ば、ばあや。何よ、そのジト目は!」


「いえ、お嬢様があまりにも嬉しそうにバレッタを眺めたり、愛おしそうに微笑まれたりするものですから気になりましてね。」


「そ、そんなことないわ!あら!もうこんな時間!もうお仕事へ行きますわ!」


「はいはい、迎えの馬車は来ておりますよ。」


「行ってくるわ。」


「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」


『んもぅ、ばあやったら。私だっていつかは純白のドレスを着て将来の旦那様とパーティーを主催したいけど、今はそれどころではないし、それに、それに・・・嫌ですわ、私ったら。今から仕事だというのに。主人あるじも留守なわけですし、しっかり致しませんと留守を預かる身として恥ずかしいですわ。』


ーーーー 遡ること七日前


「マーガレット、おつかれさん。」


「ジャック様、今日もよろしくお願いします。」


「ああ、なあマーガレット、お前も知っているとは思うが、数日後に俺は仕事でヘンリー様のお供で城を留守にするから夜道を送ってやる事はできなくなる。タクミもいないから、お前もここに報告をしなくなるわけだが、店からの帰り道なんだが必ず店の馬車を使って帰りは帰って欲しいと伝えろとタクミから言付かってる。くれぐれも夜道に襲われたりすることのないように馬車を使って欲しいって言ってたぞ。」


「それは主人にお断りをしましたが?」


「はっ?なぜ断る?もし、なにかあったらどうするつもりなんだ?もう、馬車も手配していると聞くし主人を少し安心させてはどうだ?」


「いえ、送り迎えしていただくなんて、とても経費が勿体無いと思いまして。」


「勿体無いことはないぞ。マーガレット。お前は主人の代行だ。もしお前に何かあることの方が店として大損害だし不利益だ。さらにタクミの事だ。マーガレットを傷つけてしまったとか言って生まれたての子鹿みたいにプルプル震えながらワンワン泣きそうだぞ。」


「生まれたての子鹿でございますか?」


何とか笑わないようにこらえながら話を聞くマーガレットだが肩が小刻みに震えて我慢してることが一目瞭然だ。


「ああ、だからそんな思いや心配事を少しでも減らしてやれるのもお前の行動次第だと思うぞ。それに、俺としても是非そうしてほしい。」


『え?それはどういう意味なのかしら?何だか私胸がドキドキしてきましたわ。どうしましょう。この鼓動の高鳴りがジャック様に伝わらないかしら!恥ずかしいわ!とにかく落ち着くのよ。マーガレット!今はまずいわ。だって私の背中のすぐ後ろにジャック様の鍛え抜かれた広い胸があるのよ!ただでさえ馬上で密着しているというのに、ここで、これ以上ドキドキしては気がつかれてしまいますわ!』


「マーガレット?」


「は、はい!」


「具合でもわりーのか?」


「いえ、大丈夫ですわ。ジャック様。どうしてジャック様まで馬車をオススメされるのかと考えておりました。」


「それは決まってんだろ?マーガレットが心配だからだよ。いや、違うな。」


「え?」


急にジャックがゆっくりと歩いている馬を止め、ジャックはマーガレットの耳元で囁くように低いいつもよりも優しい声で語りかけてきた。


「なあ、マーガレット。」


「はい?」


ジャックがふいにマーガレットのサラサラと手入れの行き届いた美しい髪をさらりと持ち上げ髪に口づけを落とす。


「えっ?あの?ジャック様?」


「俺さあ、女に元々そんなに興味がねえんだが、何でかマーガレットだけには目が行くんだ。それはお前がどんな辛い境遇であっても前を向き現実から目を逸らさず立ち向かう姿がたくましくもあり頼もしくもあり、危ういとも感じるからだと俺は思ってる。」


「危うい?でございますか?」


「ああ、商売のことや任されたことになるとお前はとても冷静で聡明だがそれ故に困難なことであっても自分一人で解決しようと努力し頑張りすぎてしまうところがある。もちろん、人を育てたりフォローしたり割り振ったりして指揮をとる事については完璧で独りよがりな働き方ではなく他の者達とも協力し合い皆を高めていける素晴らしい女性だという事はよくわかっている。だがな、お前はたくましい冒険者で剣や魔法を使い、身を守れる女性ではないんだ。もし、どこかの悪徳商会がお前の噂を聞きつけたらどうなるかわかるか?」


「はっ!」


「お前ならよく知ってるだろ?拐かされて商品の製造方法を無理矢理しゃべらされたりもしくは脅されて横流しを迫られるかもしれない。商人だっていくらでも危険なことはあるんだ。わかるよな?」


「はい。そうですね。今までは主人もいましたし、そんな事は起こらないと思っていましたが確かに私が拉致などされる事でお店にご迷惑がかかりますわ。」


「そうじゃねえだろ?」


「え?」


「タクミは商品や店なんて別にどうでも良いと言うと思うぞ。俺もそう思う。」


「はい?おっしゃっている事が私、あまりよくわかりませんが。」


「はぁー。俺らが・・・俺が言いたいのはマーガレットの身が心配だと言っているんだ。」


「え?」


「わからないやつだな。この美しい髪にも、この白く透き通る柔らかな肌にも、どんなやつであっても俺以外には触られたくないって事だよ。」


「ジャ、ジャック様・・・んっ!」


「そしてこの唇にもな。お前のこの温もりを独り占めしたい。ただの我儘なのかもしれないが、俺がいない間に他の奴に奪われたくもなければお前を失いたくもないんだ。タクミの馬車の件、了承してくれるな。」


「は、はい・・・、」


「それから、俺がいない間これを付けて外出してくれ。」


「え?なんですの?」


「帰って鏡を見てくれ。この石は一つはお前の瞳の色に合わせた石を選んだが後の二つは魔石で、攻撃魔法と結界魔法が発動するように仕込まれた石が埋め込まれている。きっとお前を守ってくれるだろう。どうだ?」


「は、はい。毎日、身につけますわ。」


「本当か?俺の事うざかったら言えよ?」


「そんな!うざいだなんて!私・・・前から・・・んっ!」


「本当にお前は可愛いな。このまま返したくなくなるような顔するんじゃねぇよ。」


「ジャック様」


「わりいな。俺は今はゆっくり愛を育む時間はあまりない。というのも俺はヘンリー様の護衛であり側近だ。時には盾となり命を捨てる事もある。そんな男が愛しい女を作るのはどうかと思いずっとこの何年もの時を過ごしてきたが、お前を誰かに奪われることの方がどうやら俺は我慢できならしい。はじめから言っておく。俺は我儘だ。ヘンリー様が魔物や外敵にやられそうになれば俺は盾となりこの身を捧げるし、この俺の命は俺のものであって俺のものではないから、お前にやる事もできねえし俺はお前に死なずにお前のところに帰ってくるという約束などは今後もできないだろう。惚れた女には幸せになってほしいと思うのが男かもしれねえが俺はどうもそこまでお人好しにはなれねし良い奴にもなれねぇんだわ。今までは女の影が脳裏を横切れば命を捨てる事を戸惑ってしまうかもしれないと思って特定の女は作らないでいたがお前が他の男の腕に抱かれると思うともう居ても立っても居られねえから俺は我儘を貫くことにした。俺はお前に呆れられないように潔くヘンリー様の盾にもなるし命をかけてお守りするし死んじまうかもしれないが最後の最後まで踏ん張って手が取れても足が取れても内臓が飛び出ても、できうる限り命だけは取り止めてお前の元に帰ってきたいと思っている。それに一緒に居られる間は毎日愛の言葉も囁くし愛情もお前が呆れるほど注ぐ。だからこの旅が終える時までその髪飾りをつけて俺を待っていてはくれないか?」


「・・・はい。喜んで。」


「マーガレット嬉しいぞ。だが、いいのか?正直めちゃくちゃだぞ?」


「ええ。他の女性やメスの魔物に目移りしなければ許して差し上げますわ。」


「そんなに涙を目にためながら言われたら、ますます返したくなくなるじゃねえか。」


「だって死ぬとか言うんですもの。ジャック様は今まで確かに足を斬られたり内臓が飛び出たりと多くの危ない目に遭っていますが死なないで今私の目の前にいらっしゃるのです。これからだってきっと私のそばに居てくれますわ。」


「いや、それは誰にもわからねぇことだ。こんな魔物の世界じゃあよ。」


「いいえ、わかりますわ。だって私達、普通なら死ぬような事故や災難に遭っているのにしぶとく生きて今こうしてピンピンしているのです!これだけ悪運が強い二人はなかなかおりませんわ。それに、私達には最高の医術師が側におりますわ。お人好しですぐに騙されてしまいそうな、でも、誰にでも優しく、人を思いやり大切にしてくれるそんな素晴らしい人が身近にいるのです。私達の命はむしろそう簡単には神々の地に行けないかもしれませんわよ。うふふ」


「そうだな。断っても、きっとあいつの事だから治させろ!とか言いそうだな。つか、あいつのポーションで治らない怪我や病があるのかむしろそっちのが今度は気になってくるな。」


「そうですわよ。あのポーションをいつも持っていますし、そう簡単には死ねませんわよ!うふふ。私はジャック様の悪運と主人のポーションの威力を信じてこの土地でお留守を預かりながら皆様の・・・ジャック様のお帰りをこの髪飾りをつけてお待ちいたしております。」


「じゃあもし帰ってこれたなら正式に父や母に紹介する。婚約者として・・・いいか?」


「もちろんですわ。」


「おいおい、ここは泣くところじゃねぇだろ?」


「だって嬉しいんですもの。」


「本当に俺をこれ以上誘惑するなよ。俺の理性がそのうちぶっ飛んじまうじゃねえか。」


優しく私の頬に伝う涙を拭うジャック様・・・。こんなに早くにお気持ちを示して頂けるなんて思いもしなかった。そしてこうして恋をしたり仕事を普通にする事が出来るようになるなんて事故をおこしたあの頃は全く思っていなかった。これも全て主人のおかげだわ。ありがとうございます主人・・・こんなに幸せな気持ちに満たされたのも全て主人のおかげです。また、主人に恩ができてしまいましたわ。一生かけてもこのご恩が返せなかったらどうしましょう?いいわ。その時は主人の一族に代々使えていけば良いのですわ。そうなると子供が沢山必要ですわね・・・嫌ですわ!私ったら、なんて気の早い事を妄想したのかしら?!


「マーガレット、お前、大丈夫か?顔が真っ赤だぞ?」


「はいっ、ジャック様の色気にあてられてしまいましたわ。」


「ほう、この位であてられたら今後俺と一緒にベットに入る時は失神するかもな。」


「キャー !ジャック様ったら!」


「冗談だよ。怒った顔も可愛いぜ。マーガレット。さあ着いちまった。お嬢様、お手をどうぞ。」


「そ、そうですわね。送ってくださいましてありがとうございました。旅ですがどうぞお気をつけて」


「そんな寂しそうな顔をするなよ。お前の笑顔は俺の元気の源なんだ。いつもの可愛い笑顔を見せてくれよ。」


「んもぅ。ジャック様たらっ!」


「そうそう、その顔だよ。じゃ、待ってろよ。俺の愛しい人。」


「はい、バリバリ仕事してお待ちしていますわ!」


「よし!その意気だ!」


「はい!」


読んで頂きありがとうございます。

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