116.ハートリーフ
次に向かう目的地はここから真南にあるスタッフォードのバーズレム。
そう、ボビーさんの娘さんのいる窯業の街だ!
ここから1日半から二日も行けばある所。
転移で前にいたデンビーまで戻る事も考えたが逆に遠回りになるので、そのまま真っ直ぐ飛んでいく事になった。
途中のレクサムという、わりかし大きな街で宿を取り次の日の朝は市場で買い食いと昼飯用に惣菜的な屋台の食事を買い込んでバーズレムまで行くという日程。
市場での買い食いも旅の醍醐味だからな。
その土地にしかない美味いものと出会えたりするかもしれないし、バーズレムまでは少し余裕があるので楽しまないわけにはいかない!
だが、大きな街とはいえ宿屋に風呂は付いていないから街に入る前に入浴して街の門をくぐる。
旅の要領が少しずつわかってきたぞ。
「おい、タクミ、あの草じゃないか?」
「おっ!あったあった!サンキューグリ」
ちなみに今は昼休憩。見晴らしの良い草原があったので、ここでグリ指定のワイバーンステーキにサラダと米そしてコンソメスープの豪華ランチをとって休憩中なのである。
草原だからね、生えてるのよ。ハートリーフが。
俺に美味しいお茶にしてくれぇ〜って言ってるような気がする。採取してマーニン島で日干しでもしておくか。
ガラスの前に置いておけば室内で日干しできるし夜になっても霜が降りないからあの建物はうってつけだよ。
日干しは三日もすれば水分が蒸発してカリッカリになるらしい。
昔、シソをふりかけにするためにやった事あるけど、本当にパリッパリになるんだよねぇー。
あー天気も良いし、のどかだなぁ〜。
よーし、他にはないかなぁ〜。
あっ!こっちにもあるぞ。ハートリーフは一つ見つけるとその辺りにバサって生えてるから採取が簡単で良いよな。
「おっ!ポヨ!相変わらずよく働くな!お前も取ってきてくれたのか?」
ポヨーン
よしよし、可愛い奴め。これだけ大量にあれば色々試せるな。
「おーい。そろそろ行くぞ。何やら嫌な臭いがする」
「わかったぁー!」
俺はすぐさまアイテムボックスに採取したハートリーフをしまってポヨを抱えてグリの背中に乗せてもらう。
するとグリもすぐさま走り出し空へと飛び立った。
下を見てみるとどうやら風上にゴブリンの巣があったらしい。
俺たちには気づいていないので寄ってこなかった為か俺の感知は反応しなかった。
だが風に乗ってグリの鼻にゴブリンの独特な臭いが届いたようだ。
『グリ、お前流石だな。』
『うむ、あやつらは弱いが臭くて鼻が曲がりそうになるので相手にしたくないのだ。』
ゴブリンの体臭は触れれば何度洗っても落ちずに残ると言われている。ポヨが洗うと綺麗に臭いも落ちるけど確かにグリの毛や羽に臭いがついたらしんどいよな。
『そうだな。相手にしなくて正解だよ。先を急ごう。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
こうして俺たちは西陽が辺りを暁色に染め始めた頃、レクサムという町のすぐそばにたどり着き、いつもながら河原の人気のない場所で結界を張りグリの水浴び後に俺はウォーターボールで風呂に入り、グリはその間に風魔法をドライヤーのようにしながら体を乾かし身綺麗にしてから堅固な城壁の門をくぐり、いつもながらの身元確認を行って街へと到着した。
特に何かに襲われる事もなく街にたどり着けたので一安心。
この足で宿屋まで向かいチェックインだ。
相変わらず宿屋はどこに行っても街の中ではしっかりとした造りのちょっとやそっとでは壊れないような石造りの壁に二階、三階部分は木の枠と漆喰の壁でできていてこの世界では豪華な造りだ。
もちろん従魔や馬用の小屋も中庭の先に備えられていて、中庭で下働きの男性に馬や従魔を預けるが、うちの従魔様は贅沢に育てちゃったから藁の床ではお気に召さないので、小屋までついて行きお布団を敷いて差し上げる。
ああ、こいつ昔は洞窟の洞穴的な所に寝てたって言ってたくせに今はこんな贅沢になっちゃって…。
まあ、贅沢になるのは全て飼い主の責任だよね。与えるから悪いのだ。与えなければ知らぬ物を愛情のあまり……そうです。自業自得です。甘やかしたからには最後まで責任を持って愛してあげるのが飼い主の務めです。でもちょっと贅沢に育てすぎたかも……グリさん。トホホ。
グリと別れて俺とポヨは宿内へと移動。
こちらも一階部分は食堂兼フロント。
宿内の従業員がせわしなくテーブルとカウンターを行き来して食事や飲み物をいそいそと運んでは片付けを繰り返している。
この状況を見るとやはり、あのエルフのマジックアイテムであるテーブルはかなり使える。
あと、途中で食器をさげるためにワゴンもあると良いかもな。ワゴンの上に、ある程度さげたものがたまったら、洗い場にさげた食器が直行する流れを作っておけばいちいち厨房に出入りする必要がない。
それに何人も動き回らなくて済むからバタバタした雰囲気にもならないしお客様にもさらにゆったりしてもらえる。
うん、これはなかなか良い案だ。
「お客さん、飯かい?泊まりかい?」
いかん、ぼーっとしてたよ。俺の悪い癖だ。
「泊まりの予約を入れたタクミです」
「はい、はい、タクミ、タクミ、あったあった。はいよ。タクミさん、あんたの部屋は二階だな」
そう言って宿の女将さんが木の板に記した帳簿のような物を確認した後、俺は部屋代を支払い、彼女の案内のもと部屋へと入った。
見た目、ジャイアンのお母さんだ。強そう。
「よし、ポヨ、ちょっとマーニン島に行くか」
『転移、マーニン島』
ぐにゃーん
俺はすぐさま転移して久方ぶりの我が家に入り日が暮れる前にガラス張りの部屋の日の当たるところにリネンを敷いてその上に採取したハートリーフを平らに敷き詰めていきうまく乾燥してくれる事を祈ってすぐ宿の部屋に転移した。
ちなみに今回の部屋は一人部屋だ。というのも狭い部屋が空いていたのですぐに俺はこの部屋をとった。
やっぱり赤の他人さんとの相部屋より落ち着くからね。
おっといけない、羽ペンと羊皮紙を出しておかないと。
マーガレットさんの定時連絡が入る頃だ。
「言ってるそばから、きたきた。間に合ったよかったぁー」
今日の売り上げも4682ペニーらしい。順調だね。俺はいつも通り返事をして今日の業務は終了だ。
よぉーし今日はゆっくりできるぞ。明日は市場に行って買い物もしたいし早く寝るか。
「ポヨ、とりあえず飯くいにいこうぜ」
ポヨーン
「お前は好き嫌い言わずになんでも食べてくれる子だから良い子だよなぁ。よしよし」
俺は部屋から出て先ほどの食堂に向かい、適当に席に着くとウェイトレスのお姉さんがテーブルまできた。
「はい、メニューね」
「ありがとうございます。あの、おススメは?」
「うちの女将さん特製スープとそうだねぇ、あとは魔肉の串焼きとかかな」
「んじゃ、それで。あと適当にパンもお願いします」
「あいよ。エールはいいのかい?」
「俺、水魔法使えるので大丈夫です」
「そりゃ、羨ましいね」
この世界では清潔な水は、どこへ行っても貴重で例外はなく、水魔法の水が一番うまいとされている。特に俺は氷魔法も使えるから、冷えた水が飲めるのでとても便利だ。
俺はコップを出して水を注ぎ料理が来るのを待つ。
「おい、見ろよ。スライムなんか連れてるぜ」
「はっ!テイマーなりたてのくせに宿に泊まるたぁ豪勢だな!」
あれ?もしかして俺のこと言われてる?チラッと視線を向けると、もしかしなくても酔っ払いのいかついおじさんが俺に向けて指差して笑っていた。
「お?やっと気づいたか?そうだよ。お前の事だよ駆け出しのボウヤ。そんなスライム連れて仕事になるのか!?ハッハッハッハ」
「スライムじゃ、なーんの役にも立たないだろ?なんなら俺たちがテイムの仕方教えてやろうか?ケッケッケ」
「ちょっとあんた達!うちの泊まり客に絡むのはやめな!この、ゴロツキが!」
「うお!メスオークの女将が怒ったぞ!」
「俺はてっきり巨人の出来損ないだと思ってたぜ!」
「ああ、どっちでもかまやしないさ。うちの泊まり客にちょっかい出すなら今からつまみ出すよ!」
「わかったよ。悪かったよ女将」
「ここは、ここいらで安く飲み食いできるからな。仕方がねえ、我慢してやるか」
「何言ってんだい!あんた達に安く飲食が出せるのも泊まり客がいてこそだ!なんならあんたらだけ他の店と同じようなペニーを取るようにするよ!」
「そりゃないぜ!」
「そうだぜ!常連客は大事にするべきだろう?こんなたまにしかこない奴にでかいツラされてたまるかよ」
「ふんっ!そんなもん、払うもんちゃんと払ってからいいな!それに男同士で汗流すなら店の外でやっておくれ!」
「ちっ!」
男達は場が白けたと言って、少し離れた席に移動してまた飲み直していた。
「兄さん、悪かったね。これ、うちからのサービスね」
「あっ、いえ、ありがたく頂きます」
ここの女将がテーブルにデーンと置いていったのはウィンナー。かなり太くてでかい立派な奴だ。それにしてもやっぱり宿での食事は注意が必要なのを改めて感じたよ。正直、これなら魔物退治の方が楽な気がする。人との関わりの方が複雑で面倒だな。
俺はパパッと出てきた食事をさっさと食べ終えて部屋に戻った。
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