表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/199

112.別れは突然に

「メェ〜。」


「お前との旅も今日までだなぁ。これからは仲間達と楽しく暮らすんだ。よかったなぁ〜。」


「メェ〜。」


「とりあえず、お前との最後の飯になるからな。たっぷりマーニンビート用意してるからしっかり食えよ。」


「メェ〜。」


「しっかりも何もそやつは一日中ずっと食いっぱなしではないか。」


「偶蹄類っつうのは、そういう物なんだよ。」


「フンッ、幸せなやつだな。」


「そうとも限らないぞ。飯がある時はいいけど無かったらすぐ餓死だ。お前、どっちがいい?」


「それは困るな。移動で飛んでて餓死したら敵わんな。」


「だろ?こいつらはこいつらで大変な事もあるのさ。人には幸せに見えても蓋を開けたら案外自分より幸せじゃなかったりするもんだぞ。」


「ほぉ。よわい20数年足らずの小僧にしては年寄りじみた事を言うな。やはりお前、ちっとサバ読んでんじゃないのか?え?ムフフフフ」


「なんだよ、その悪そうな疑いの目はよぉ〜。男がサバ読んでどうするんだよ。ましてや最近じゃ年齢はただの数字で関係ないっていうのが世論だぞ。俺のばあちゃんもよく、28歳から歳は取ってないが代わりにプラス経験値が増えてるとか言ってたぞ。」


「前から思っていたがお前のばあちゃんは随分たくましい物知りなばあさんだな。」


「ああ、ばあちゃんはマジで怒らせるといけない人だな。本当に怖いんだからな。」


「フッ。そうか。」


「よーし、飯も食ったし行くか。スノードン山」


「そうだな。あの辺りは雨も多いから晴れてるうちに行かねばな。」


「へぇ〜。そうなのか。雨降ったら視界も悪くなるしまずいな。よし、じゃあ急いで行くか。頼むぞ。グリ。」


「頼まれるまでもないわ。お前こそ、しっかりつかまっとれよ。落ちても拾ってやらぬぞ。」


「そんな、冷たいこと言うなよな。地面に落ちる前に拾いに来てくれ。」


「そうだな。今日の晩飯を日頃の労をねぎらってワイバーンのステーキにしてくれるならば考えなくもないぞ。」


「よし、ワイバーンステーキで手を打とうじゃないか。」


「ムフフフフ、よし、しっかりつかまっとれ!」


「お、おい!いつもより早いし、ゆ、ゆ、ゆれる〜!!!」



ーーー2時間後


『すっげえ眺め!あの山がスノードン山だよな。』


『そうだ。』


『あの、水色のはなんだ?』


『この辺りは湖も多いのだ。遥か古の頃にはこの湖に住まう妖精がアルスルという王をかなり気に入り宝剣を与え、其奴が命の灯火が消え逝く時には神々の住まう地にいざなったと言う伝説も残されておるこの地の人族にとっては神秘的な場所でもあると言う。』


『へぇ〜、お前やけに詳しいな。』


『まあな。神々に選ばれしものは、彼の地にて魂魄となり楽園で暮らしておって、ごく稀に遭遇する事があるのでな。まぁ、あの姿になったらどれが誰かは外見では判別付かぬがな。』


『へぇ〜。いつか俺も楽園じゃないにしろ、どっかに逝くんだな。その時にはたまには会いに来いよ。』


『フンッ、せいぜい善行を行い徳を積む事だな。でなければ、恐ろしい地下深くの底なしの地にある牢獄に入れられる事になるからなぁ。ムフフフフ。』


『底なし!こえぇ。』


『そういえば、この地の湖は底なしと聞くぞ。まかり間違って足を滑らして湖の底で息絶えぬようにな。ほれ、寝ぼけて、用を足しに行って、すってんころりんとかな。ムフフフフ。』


『とか言ってお前が、そうなるかもしれないぞ。』


『我はお前と違い、そのような間抜けではないからなぁ。やりたくても真似できんわ。』


『そうだよ、悪かったな。たしかにこの前寝ぼけてこけたけどってお前見てたのかよ!』


『ムフフフフ』


『そろそろ低空で飛んでくれるか?この高さだと見落としそうだよ。』


『うむ、わかった。』


そうして俺たちは低空飛行してすぐに羊が放牧と言うのか野放しにされている所を発見した。おいおい、本当にこんなんで大丈夫なのかよ?また、ゴブリンにやられないか?俺は少し不安になった。短いとはいえ、家族のように一ヶ月ほど共に過ごしたメェを渡すのだ。安全に育ててもらいたいと思う。


『ほう、面白いな。』


『どうした?』


『あやつら首輪をつけておる。しかも結界石付きのものだ。』


『なるほど、じゃあゴブリンも近寄れないのか?』


『1匹では気休めにしかならんが、あれだけの数が集まって居れば効果はあるだろうな。だがメェと同じ種族はここにはおらんな。』


『とりあえず、カミルさんに教わった場所に行ってみよう。やけにわかりにくい場所にあるから、できれば羊飼いに会いたかったんだけどな。』


『羊飼い?』


『ああ、羊を放牧する時に危ない所に行ったりしないように引率する人だよ。』


『なるほど。たしかに、案内人が居れば手っ取り早いな。』


『見たところ、見当たらないし建物のある所に向かうか。』


『よし、わかった。』


すると、突然グリが体をひるがえして止まった。


「ど、どうした?!」


「うむ、かなり強い結界が空にまであるぞ。我ならばこの結界でも破れなくはないが、これほどの結界だ。一度破れば復旧も大変だろう。ここの者がかけた結界ならば良いが、これだけの結界、一人ではないな。複数で合わせてかけた結界だ。」


「そんなすごいのがこの目の前にあるのかよ。まいったな。どっか入り口探すしかねえか。」


とりあえず、メェのここでの暮らしの安全はグリがここまで言うくらいの結界があると言うんだから大丈夫だろう。さて、これからどうするかな。


「おい、何か来る!」


グリが間一髪のところで地上から放たれた何かを避けるとさらにもう2発、3発と何かが飛んできた。飛んで来た方を見ても位置が高すぎてよく見えない。


『グリ、もう少し下に降りれるか?どうなってるのか確認したい。もちろんお前にも結界はしっかり張るからさ。』


『わかった。だが、あの程度では我には当てられぬがな。ムフフフフ。』


そしてグリがなんと突然いつもの急降下をしやがった!こ、心の準備があ〜!!!!


ピュッピュッ!


流石にグリの急降下のスピードには目がついていかないんだろう。俺らのいた場所あたりに狙いをつけて攻撃してきているようだ。そして地面近くに来るとグリがいつも通り体をひるがえしてバサバサと地面に着陸。そしてすぐに攻撃されていた所を確認すると、そこにはどうやら人らしき者がいるようだ。俺はすぐ、グリから降りてグリの前に立つ。


「すみませーん。怪しい者ではありませーん!攻撃をやめてくださーい!」


俺は大きな声で向こうにいるであろう人に話しかけた。すると、攻撃は止んだが返事はない。近寄るにも結界があるしどうしたものか。結界に手で触れようとしたらバチっと電気が走るイタズラグッズのおもちゃのようなビリビリが俺の手に走った。地味に痛い。これは許可のないものはどうやら入れないらしい。さてさて、攻撃主はこっちにきてくれるかな?すると1匹の羊がこっちに寄ってくる。ん?違うぞ、あれは羊の皮を被った、なんだ?


「おい!お前、ここは立ち入り禁止区域だ!とっとと失せろ!」


めっちゃ甲高い声の小さなエルフ?だよな。羊の皮を被ったチビエルフ?だな?なんでこんな物被ってるんだ?まあいいや。


「すみません、こちらに羊を届けにリッチモンドから来たタクミと言います。ここまで来たのはいいのですがどこに施設があるか分からず、結界でこれ以上進めないので困ってました。」


「とか言いながらここの貴重な羊を狙ってるヤツだろ?わかってるんだぞ!お前なんか入れてやらない!それにどこにも羊を連れてないじゃないか!」


こりゃ、子供のエルフか?めっちゃ怪しまれてるし困ったなぁ。


「では、俺達は結界には入れないのでここで待ってますから、どなたか大人の方を連れてきていただけますか?」


「失礼な!僕はもう大人だ!」


「あっ、そうですね。すみません、では、偉い人を連れてきてくれますか?貴方より偉い人。」


「父ちゃんの事か?父ちゃんは大事な仕事で忙しいんだ!お前ごときに構ってられないんだもん!」


「えっと、じゃあお母さんは?」


「母ちゃんも、忙しいもん!」


「じゃあお兄さんかお姉さん、おじさん、おばさん、なんならおじいちゃん、誰かいませんか?」


「ばあちゃんなら良いぞ。ばあちゃんなら今頃茶を飲んでる頃だからな。」


「では、お願いします。」


「なんで不審者の言う事聞かなきゃいけないんだ!」


「俺はここでお世話になる新しい黒羊を連れてきたんです。黒羊が来ることは聞いてますか?」


「しってるぞ!父ちゃんとじいちゃんが話してたのを聞いたぞ。チッ、仕方がないな!本当にここで待ってるんだぞ!まぁお前ごときじゃこの結界は破れないもん。シッシッシッシッ」


羊の皮を被ったエルフは捨て台詞を吐いて小屋のある方角に走り出した。


「やれやれ。」


「数打ちゃ当たるとはまさにこの事だな。しかしばあちゃんとはな。お前、何故ばあちゃんは出さなかった。」


「あっ?ばあちゃんは、ほら、俺のばあちゃんのイメージがあるからできればじいちゃんの方が扱いやすいと言うか、ばあちゃんって人により怖いばあちゃんとかいるじゃん?」


「まさにお前のばあちゃんだな。」


「まあな。」


「とりあえず戻ってくるまで、お茶にするか。」


俺はテーブルと椅子を出し、グリの好物ローズヒップオレンジをグリとポヨの器に注いでメェも外に出す。もちろん結界を張って。ついでだからリスボンとかも日光浴。さて、いつ来てくれるかな。


ーーー1時間後


「あいつ、俺たちの事忘れてないか?」


「どうだろうな。子供の気は変わりやすいからな。何か美味そうなものでも見つけてつまみ食いして昼寝していてもおかしくないなぁ。」


「あっ!子供って超自由人な事、忘れてた。カミルさんに連絡してもらうのが手っ取り早いかな?マーガレットさんに連絡するのもなぁ。」


メェ〜


おや?


「○×△◇◽︎○△!!!」


とぉ〜くの方から何か騒いでる人がいるが、まーったく聞き取れない。とりあえずメェが人がいることを教えてくれたが、声はね、何言ってるか聞こえないわぁ。まあ、こっちにくるまで待とう。しばらくすると息絶え絶えになりながら走ってくるこれまたイケメンなエルフさん、羊の皮は被ってない人がやってきた。


「おっ、お客人、し、失礼しました。ご到着はもっと先かと思っておりました故、まさかこんなにも早くご到着になるとは、い、今結界に扉をつけます故、しばし待たれよ。ゼェゼェ」


相当急いで来たんだな。めっちゃゼェゼェ言ってるわ。


「あの、呼吸を整えてからでも大丈夫ですよ。」


「いえ!すぐですので!開!」


すると俺たちが通れるサイズの扉が目の前に現れたので早速くぐらせてもらうため、俺は出したものを片付ける。メェやグリを先に通しておいて、俺とポヨは一番最後に入る。


「改めまして、私、ここの責任者をしております、クリス・ウィリアムズです。先程お会いした者は私の息子でトム・ウィリアムズです。まだ、子供でお客人には大変失礼な事を言ったと思います。申し訳ないです。」


「いえ、お子さん、攻撃魔法使えるんですね。」


「ええ、羊飼いには必要な物だと私の父が英才教育を施しまして、もちろん攻撃魔法も必要ですがもっと他の事も・・・あっ、すみません。護送頂いた黒羊はこちらですか?」


「はい、そうです。」


「素晴らしい。ありがとうございます。まず、他にも黒羊のいる所にご案内致します。」


「はい。」


こうしてエルフの、のほほんとしたウィリアムズさんに先導されて黒羊の放たれている草原へとやってきた。そこに入るにはさらに結界をもう一つくぐらなければ入れない場所でこれなら安全面は問題ないと一安心した。そしてメェが突然走り出した!


「メェ!」


「メェ〜。」


「あっ、大丈夫ですよ。多分、同族の匂いを嗅ぎつけたのでしょう。今から目と目が合った瞬間に子作りしますからほっときましょう。」


「え?そうなんですか?早すぎません?」


「あれは中々同族に巡り会えないので、敵が来る前にすぐにやる事やってさっさと子孫繁栄するのですよ。」


「な、なるほど・・・。」


美しい顔で結構、下衆、いやいや大胆な発言するなぁ。まあ、動物の本来のあるべき姿だよな。うんうん。


「別れのタイミング、逃してしまいましたね。」


「え、ええ。」


「とりあえず、中へどうぞ、お茶でも出しますので。」


「は、はい。」


俺は少し、しょんぼりしながら案内された施設へと進んだ。

読んで頂きありがとうございます。

更新ペースが遅くなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ