108.露天風呂は最高です。
「す、すげぇーーーー!!!」
「お気に召されましたか?」
「ええ!最高です!」
────遡ること30分前
案内された部屋は最上階の部屋で、部屋自体も広いがベッドも大きめで、グリ達と雑魚寝できるほどの大きなベッドに、洗い立ての清潔なリネンのシーツに暖かそうな掛け布団、家具も木の風合いを活かした肘掛のついたベンチに沢山のクッションが置かれていて他にもお洒落な猫足のテーブルと椅子のセットがあり、かなりお洒落な内装だが、どこか落ち着ける雰囲気がある。きっと部屋にある暖炉のお陰なんだろう。あの暖炉の光がきっと心地よい部屋の雰囲気作りに、一役かっているんだろう。でも木の中で火を使って大丈夫なのか?不思議そうにみていると
「そちらは実はお部屋の調光の為に用意した暖炉で火ではなく灯だけなのです。木の中は外とは異なり寒い日は暖かく、暑い日は涼しくと木自体が温度調整をしているのです」
「えっ!この木ってまさか生きてる?」
「もちろんです。この公国に生える木なのですが研究で魔石を使ったり魔力を注いでやることで大きくなることがわかり、我らが住めるような、これほどまでの巨木に成長して今では公国の住居に欠かせないものとなっております」
「凄いですね。自然を大切にしているからこそ、共存の道がひらけたんですね。普通なら切って材料にするなり、加工するしか頭に浮かばないのに素晴らしいです」
「恐れ入ります。我らの種族は人生が長いものですから、切るばかりでは資源が枯渇するのです。ですから先人は共存しながら住みやすい環境を模索したのだと思います」
「そうですね。使えばいつかは無くなりますからね。それに資源は限りあるものだし、木が育つのだって土の養分が沢山ないと育たないでしょうから何度も切って植えて、切って植えてを繰り返したら益々、土地が痩せて作物が育たなくなりますね」
「その通りでございます。ですから我らは木の中で生活しながら魔物からも身を守り無駄な争いで命を落とさず済むように、防犯などもしっかりしております。このシステムを導入してからゴブリンに襲われて喰われたり、さらわれたりする子供のエルフや攻撃魔法の苦手なエルフが拉致される事が無くなりました」
「それって凄いことじゃないですか!ここなら安心して旅ができそうです」
「ありがとうございます。さあ、タクミ様。あちらのドアの先がこのお部屋の一番の見せ場でございます」
そういってイケメンエルフ君が手で何かを指している。そちらに向くと、奥にさらにドアがあった。
「あの、あちらの扉は?」
「はい、見てのお楽しみでございます。安全のため鍵がかけてあります。魔力を少し注いでお入りください」
言われた通り、取手に魔力を注いでねじるとガチャっとドアが開いた。すると見えたのは階段。ん?と思いながらも、ニコニコしながら進めと言わんばかりのイケメンエルフ君の表情をくみ取り階段を登って行くと、そこにはまた、俺の想像の斜め上をいく設備があった。それはまさしく日本人が愛してやまない風呂だ!しかも、なんと、露天風呂!!これはたまりませんよ!
「木の浴槽じゃないですか!!しかも、まさか外に出られるなんて!」
「はい。こちらのお部屋は最上階にあり、そこに穴を開けて幹のてっぺんの枝分かれしている所に出られるようになっております」
「穴開けても大丈夫なんですね」
「あまり、多くは開けられませんがこの程度なら問題ないレベルです。例えば我々でも耳にピアスの穴を開けて適切なケアをすれば問題なく、穴が空いたままの状態で過ごしますが、それと同じような事です。そして、この木の幹の中が空洞になっているのはこの木の特性なのですが、木自体をあまり傷つけ過ぎると弱ってしまいますので定期的なメンテナンスと言いますか補修、修復といいますか、定期検査を必ず行なっております。この木は我らの世代だけでなく我らの次の世代にも残していかなければならない大切な木ですので皆で大事にしております」
「じゃあ、慎重に扱わないといけないですね」
「正直それ程、弱い木でもありませんので打撃などについては問題ないのですが虫食いなどにあっていないか、植物特有の病気にかかっていないかなどをチェックしております。強度としましてはちょっとやそっとでは傷はつきませんし、石造りやレンガ作りの建物より、もしかすると強固かもしれません」
「そうなんですね。それは少し安心しました。それにしても辺り一面この木の葉っぱで覆われているから外からの視線も気にせずに露天風呂が楽しめていいですね。ちなみに従魔と一緒に入ってもいいんですか?」
「はい、もちろん構いません。一応水浴びのできるコーナーが横にも併設してありますので宜しければお使い下さい」
「わかりました。ありがとうございます」
「それではお風呂上がりにはマジックベルをお願いします。さて、ご案内は以上となります。もし、この他お困りのことがございましたら、どうぞお気軽にマジックベルにてお知らせ頂きお申し付け下さいませ。それでは私は失礼致します」
「はい、ありがとうございます」
この宿はまた泊まりたくなるな。とにかく風呂に入りたいな、なーんて思ってたらいつの間にやらグリさん、早速水浴びして風呂入ってるし。
「お前、ずるいぞ」
「フンッ、この旅の移動で一番力を尽くしておるのは我だからな。一番風呂はもちろん我であろう?ムフフフフなかなか良い湯加減だぞ」
ズバリ本当の事を言われてぐうの音も出ないよ。俺もさっさと入ろ。風呂上がったらメェもアイテムボックスから出してやろう。あいつ水嫌いだから、ここに出すのは少し可哀想だ。俺は体を洗って早速風呂に入る。
「ああ〜これはたまらん」
「はなたれ小僧も風呂に入る時のその声はすでにオヤジだな」
「うっせ。気持ちが良いんだよ。しかも緑に囲まれて、マイナスイオン出まくりな感じが最高だ」
「マイナスイオン?また訳の分からん事を」
「良い空気が出てるって事かな」
「たしかに、その通りだな。ポヨも気持ちが良いようだ」
「ヤベー指先から疲れという毒素が、どんどん出て行く気がするぅー!あー広い風呂でこんなに伸び伸びと入れるなんて幸せだぁ〜」
俺達三人はのんびり風呂に浸かり旅の汚れと疲れを吹き飛ばして風呂から上がりマジックベルを鳴らした。食事も期待しちゃうな。そしていつもの定時連絡をマーガレットさんから受け、返信をしてグリを猫じゃらしでからかいつつ、夕飯を待っているとトントントンとノックがした。
「はーい、どうぞ」
「失礼致します。お夕食の準備をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです!待ってました!」
「それでは早速失礼致します」
お膳が運ばれてくるのかと思いきや部屋に入り大きなテーブルの所にイケメンエルフ君が進んで何やら魔法を唱えると、なんという事でしょう?!そこには豪勢なお食事の品々がテーブルの上に所狭しと並べられているではありませんか?
「え?凄い!どんな魔法ですか?」
「これは実はマジックアイテムの転送テーブルなのです。厨房に転送する台がございまして、そちらで並べられた物がこちらに届く仕組みとなっております。そして片付けもこちらから送信して厨房に食器が運ばれるようにできております」
「凄いですね!これって建物外でも使えるんですか?」
「いえ、今のところは建物内でしか使えないですが、きっと将来的にはマジックアイテムを発展させ荷物の配達や運送はこれでできるようになるであろうと考えられております」
「これはこの公国でしか無い物なんですか?」
「実を言いますと、公国というより、この店にしか無いマジックアイテムでございます。私どもの宿主の娘がマジックアイテム作りが趣味でこのように店で使える便利グッズを開発しておりまして、使える物は店で活用しております」
「娘さんが?!凄いですね!このテーブル、是非1つ売って欲しいです!」
「はい?!タクミ様?何に使われるのでしょうか?」
「実は俺、飲食店を近々オープンさせる予定なんですが、その際にこちらのテーブルを是非使わせてもらいたいのです。これがあれば従業員の負担がかなり減らせますし、人数も接客の人数を増やしたり、厨房の中の人を増やせる素晴らしいマジックアイテムです!」
「お褒めいただき光栄ですが、なにぶんこちらのマジックアイテムは趣味の延長でできたものですし、何かミスがあってはいけませんのでお売りする事は難しいかと思われますが、お話を頂いた事だけは製作者や宿主にご報告致します」
「わかりました。突然不躾なお願いをして申し訳ないです」
「いえ、しかし、冒険者と商人を兼業されているのですね。是非働きすぎにご注意下さい。こちらのお食事は体に優しい食材ばかりを使用しております。どうぞ、冷める前にお楽しみください」
「そうでした。もう、お腹ぺこぺこ。では早速いただきまーす!」
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