Magic & Dimension 6
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右足を失い転倒したMOB。火だるまになって丘を転がってくる。俺は飛び退って避けた。転んだ俺のすぐ側を、ビーストは滑落していった。
トドメを刺さなきゃ、立ち上がろうとした俺の目の前を、ノースフェイスのパクリブーツが横切った。良かった。コイツに任せよう。アロレじゃ火力不足だ。
「はくっ!」高々とスマホ掲げて、はるゆりは言った。
いちいちスキル名言うとか、厨二病か、コイツは。
丘の下に目をやると、ビーストを包んでいた炎が消え、代わりに白い凍結がその身を包んでいっていた。見る見る白くなってゆく。ビーストはもがくが、もう抵抗する力は残っていない。ビーストの体表を覆った凍結は、秒で浸透し、内部まで凍らせる。最後は液体窒素に浸けられたみたいに固まる。負け惜しみじゃないけれど、ビーストの抵抗力が高ければここまで上手くいかない。
「どうよ?」と得意げな笑み浮かべたはるゆりに。
「俺が削ったからだろ」と答えた。息が切れて、それだけ言うのが精一杯だった。
「まあ、頑張ったのは認めてやろう。もっとも。一番頑張ったのは豆さんで、一番の功労者はユウキだけどね」
どうしてこんな上から目線なんだ、コイツは。
俺ははるゆりの真似してスマホ掲げ、スキルアイコン、タップした。アローレイン。矢の雨が白く固まったビーストを襲う。ビーストは粉々に砕け散った。
「あ、ちょっと! なんか、あんたが倒したみたいじゃん」
「へいへい」
丘を登り、俺とはるゆりは豆さんユウキちゃんと合流した。強風が俺たち全員の髪を、上着を、なびかせる。時折、立っていられないほど強く吹く。
「危なかったな」豆さんは言った。
「皆んなはぐれちゃって、一時はもうダメかと思いました」とユウキちゃん。
「九重でコレとか……」俺は溜息を吐いた。
「そうだな」豆さんが受けて言った。「高千穂はどうなってるんだろうな」
天孫降臨の地、高千穂。今回の厄災の中心地。その昔神様が降りて来た伝承の地で、今は地獄の蓋が開いている。神が降り立った、そんな伝承が残ってるという事は、その地が異界と繋がりやすいのかも知れない。今回は変なトコロと繋がってしまった、本来繋がってはいけない世界と。そんな風に考えるのは安直だろうか。
「とにかく。いったん引き返そう。湯布院まで戻れば安全だろう。湯布院に一泊して作戦会議としよう。それぞれのオプション構成や装備を見直す必要がある」
豆さんのいう通りだと思った。湯布院湯布院とはるゆりがはしゃいだ。コイツまだ観光気分なのかよ、俺は心の中で毒づいた。