Magic & Dimension 5
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ワークマンでの買い物は結構楽しかった。はるゆりはノースフェイスの防寒靴そっくりでジェネリックノースフェイスと呼ばれているブーツを買った。「よくコレ在庫あったな。俺も買おうと思ってネット見たんだけど、ネットは完売で在庫ゼロだった」豆さんが感心していた。
「ツナギ可愛いー」はるゆりはツナギが気に入った様子だった。薄水色のカモフラツナギを買って「ユウキとお揃いだねー」と喜んでいた。豆さんはランクルに積んでいた自分のMA1を出してきて「山の上は冷えるからコレをはおるといい。フェローズのだからまあまあ良いヤツだよ」とはるゆりに渡した。
はるゆりはオーバーサイズのMA1をはおり、
「うふふ。なんかぁ、豆さんの彼女になった感じ」とご満悦な様子だった。そういえばコイツ、豆さんが五十一だって知らない。きっと三十代か四十代前半って思ってるんだろうな。まあ、もう少し夢見させといてやろう、と俺は思った。
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東九州自動車道って、まったく高速道路とは呼べないシロモノだと認識した。中央分離帯ないし、一車線だし、対面通行だし。
上り車線は避難車両で超渋滞していたけれど、下りはガラガラだった。ただ、自衛隊の検問が一定間隔であり、その都度足止めされた。豆さんはその度に『非常事態指定緊急車両』と書かれた証明書を見せていた。それは今朝警察署で発行してもらったそうだ。
日出ジャンクションから大分自動車道に入り、湯布院パーキングエリアで休憩した。
「湯布院行きたい」連発するはるゆりに、豆さんは「多分行くことになると思うよ」と答えた。
「この付近のホテルや旅館は、マジック&ディメンションのプレイヤーに解放されてるんだ。自治体が宿泊費を肩代わりしてくれる。ただ、もう避難しちゃってる施設がほとんどだから泊まれるホテルは少ないけど」と付け加えた。
湯布院の時点で空は翳っていて所々紫色や緑色に光っていた。
湯布院パーキングエリアを出て一キロも行かない場所で、自衛隊が道路を完全封鎖していた。俺たちは全員ゲーム画面を開いて見せて、プレイヤーであることを証明した。自衛隊の人は敬礼して通してくれた。おかしな気分だった。
九重で俺たちは自動車道を降りて阿蘇に向かった。空は重い曇天垂れ込めていて玉虫色の稲光走っていた。暴風域のように強風吹き荒れていた。既に異世界。
「どうだよ? 観光気分吹き飛んだんじゃねぇか?」俺が聞くと、
「これはこれで非日常感たっぷりね。映画の中にいるみたい」はるゆりは能天気にほざいた。