表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

Magic & Dimension 3

 豆さんの車のBGMは古いレゲェオンリーだった。

「1980年代のDJレゲェなんだ」豆さんは説明してくれた。

 始めは耳新しくて新鮮に感じて格好いいなと思ったけれど、同じメロディが延々続く。どの曲も結局同じパターンの繰り返し。一時間もしないうちに辟易とした。


 福岡都市高速から九州自動車道に入り、北九州都市高速に乗った。「FM聴きませんか?」そのセリフが喉まで出かかった頃、豆さんは都市高ランプを降りた。降りてすぐがJR小倉駅だった。

 駅裏のパーキングにランクルを停めて、俺と豆さんは新幹線口へ向かった。駅裏側の階段登った所が新幹線の改札口だった。

「時間は? 何時の新幹線で着くんですか?」

 電光掲示板を見ながら豆さんは言った。

「ん。ちょうどピッタリ。のぞみ○○号って言ってたから、今着いたヤツだ」


 俺はライン送ろうと思ってグループチャットを開いた。開くと同時にユウキちゃんからのライン届いた。

『今着きました。改札へ向かってます』


『改札口で待ってるから。豆さんは砂色のモッズコート。俺はフェイクレザーのジャケット』と返信した。


 ユウキちゃんも勿論初めて会う。ギルチャでの彼女はいつも明るくて、ムードメイカー。うちのギルドのマドンナ的存在。一緒にプレイしてても、よく気のつく頭が良い子だった。俺と同い年だし、当然俺の期待も高まった。


「あ。あれじゃないかな?」豆さんが言った。


 改札へ向かってくる人の中に若い女の子は一人しかいなかった。俺の期待は、半分は期待どおりで、半分は裏切られた。美形で可愛くてKポップのアイドルにいそうな顔立ち。けれど雰囲気は地味で暗く、陰キャぽかった。まあ中学高校とあれだけゲームにインしてて、クラスのセンターキャラな訳ないけど。その点は俺も人のこと言えない。ただ。看護学校へ進学したと聞いていたけれど、どうやらその看護学校の制服を着てきたみたいだ。豆さんも苦笑いしていた。


 改札を出た彼女へ歩み寄ると、すぐにこちらに気づいた。


「はじめまして。君がユウキちゃん?」

 豆さんが言うと。

「は、はじめまして。豆さんとよるおす君ですか」はにかみながら答えた。笑顔は愛らしく明るかった。


「制服で来たの?」豆さんが聞くと。


「合宿って嘘ついて出てきたので」さもありなんの答えが返ってきた。確かに、女の子が阿蘇にビースト退治に行くって言って、頑張って行ってこいと言う親はいないと思った。


「着替え持ってきてる?」俺が聞くと。


「高校の時のジャージを」と恥ずかしそうに答えた。


 豆さんが苦笑いして言った。「近くにサバゲショップがある。そこでBDUとブーツを買おう」


「え、でもお金が」と言うユウキちゃんに、豆さんは「いいから、いいから」と言った。


 サバゲショップで雪色のデジタルカモの迷彩服上下とコンバットブーツを買って貰って、ユウキちゃんは着替えた。肌寒い季節なので中にパーカーを着て上着をはおって、ユウキちゃんは試着室から出てきた。パーカーは寝間着がわりに持ってきていたらしい。


「山の上はきっと寒いから防寒着も買っとこう」豆さんが言うと、ユウキちゃんは恐縮して何度も断った。けれど豆さんは「若い子がお年寄りに遠慮しちゃいけない」そう言ってファー付きのフライトジャケットを買った。


 そして再びレゲェタイム。


「格好いいですね。これ誰の歌なんですか?」ユウキちゃんが言って、豆さんが嬉々として答えた。一時間後も同じセリフが言える? 俺はそのセリフをかろうじて飲み込んだ。


 豆さんと二人きりの時は多少他人行儀だったが、ユウキちゃんが加わったことで一気に雰囲気が和んだ。いつものギルチャの雰囲気、それに似てきた。ユウキちゃんが俺に言った。


「よるおす君はギルチャと印象違いますね」


「そりゃ現実にあのテンションで会話するヤツいたらヤバいでしょ」ギルチャの俺はふざけまくっている。すぐ下ネタに持ってくし。現実世界で初対面の同世代の女の子前にして、面と向かって下ネタ連発するヤツいたらそいつアウトだろ。


 道中話題になるのはやっぱり今回の厄災のこと。

「何がなんだかさっぱりで……」ユウキちゃんが言うと。

「運営もサッパリだろ。運営も何も分かってない。便乗して課金アイテム連発してるけどね。何か知ってるとしたら開発者だろうな」豆さんが答えた。

「開発者って誰なんですか?」俺は聞いた。ひょっとして豆さんは知っているのかと思い。けれど。

「ググって調べたけどよく分からない。物理学者の人が混じっていたらしい。その人は今は運営にいない、分かったのはそれくらい」豆さんも知らなかった。


「どうしてゲームの魔法が効くんでしょうか?」不思議そうにユウキちゃんは言った。それはユウキちゃんに限らず俺も不思議。多分、じゃなくて絶対誰もが不思議に思ってるだろう。自衛隊のどんな兵器も効かないのに、ゲーム内のスキルが通る。ビーストにダメージを与える。

「それは俺も聞きたいトコ」と豆さんは答えた。


「放っておくと日本中に広がるんでしょうか?」不安げにユウキちゃん。

 豆さんはシブい笑みを浮かべた。

「日本だけで済めばいいけど……」



 北九州空港は海の上にあった。海の真っ只中の橋を渡った。「この海はカブトガニがいるんだ。カブトガニがいるのは日本全国でも数箇所だけなんだ」豆さんは自慢げに言った。


 そんな場所を埋め立てて空港作るってどうなの? 俺は思った。普通に最低な市だ。


 はるゆりからラインが来た。

『着いたぞお。思ったんだけど、よるおす、お前期待させといてもしも豆さんがイタリアかぶれのちょいワル系オヤジだったらテメェをぶっ殺すからな』


 この女は普通に最低だった。

『全然ちげぇよ。普通にイケメンオヤジだから期待しろ。もっともお前の好みかどうかは全然知らねぇけどよ。あと、今は運転してるけど、このライン後で豆さんも見るだろ。分かってんのか』と返信した。

『うげげ』と返ってきた。

 やっぱりポンコツ低脳だと思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ