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Magic & Dimension 2

 六時間前。


 俺は福岡空港に降り立った。荷物はスマホとリュックサックひとつ。リュックの中には数日分の着替えと、必要最低限の身の回りの物、そしてポケットワイファイとモバイルバッテリー三個。


 出迎えの人を探した。互いに顔を知らない。俺はゲームにログインした。相手もログインして俺を探していた。ギルチャで話した。

『今どこ』

『土産物屋のトコ。柱の前に立ってる』

『あ、見つけた』


 近づいてきたのは全く予想していなかった人だった。その人が言った。


「君がよるおす君?」


 びっくりしている俺の様子をニヤッと笑い、その人は続けた。


「はじめまして。俺が豆大福天です」


 豆さんとは四年前からの付き合いで、同じギルドに所属している。大人だとは知っていたけど、二十代だと思っていた。現れた人は三十代、いやもっと、四十過ぎてるかも知れない。けれど見た目も服装も全然おっさん臭くない。三十代向けメンズファッション誌のコーディネイト例、休日のハリウッドスター、みたいな感じ。


「ビックリしました。豆さんっていくつなんですか?」


 返ってきた答えは、俺をさらに仰天させた。


「今年で五十一になった」


「ふぁっ!」

 歩きながら話していた俺の足が止まった。五十一? 五十一って、五十歳超えて、五十一歳ってこと? 俺の親父が四十五だけど、全然違う。別の生き物。


「わ、若いって言われません?」

「よく言われるけど、ブラピもトムクルーズも俺より歳上だろ?」


 どこと比べてんだよ、というツッコミは飲み込んだ。そもそもあっちは整形とかしてるだろうし。


「整形してるんですか」

「してるわけないだろ」豆さんは笑いとばした。「一般人だぞ」

「仕事、何してるんですか?」

「ちっちゃい警備会社の保安・ストーカー対策部門部長」

「ほぇ。部長? 偉いんですね」

「ちっとも。小さい会社だから営業所は俺含めて三人だし、一人は経理だし、残る一人は営業所長だし。保安部門はGメンさん十人くらい契約してるけど、ストーカーの方は俺と営業所長の二人でやってるし」

「へぇ……。なんか、ストーカー対策って格好良さそうなんですけど……」興味深い仕事だと思った。

「うーん……、難しい局面多いし、単に格好いいってことも無いと思う……。実際はDV事案多いし、風俗嬢関係とかもあるし」

「なんか、怖そうですね」

「うん。怒鳴り合いとかしょっちゅうだし」豆さんは手の平を顔に見立てて、自分の顔ギリギリのトコに持ってきて、ガーガーと言った。どうやら怒鳴り合いの様子を再現して見せてくれたらしい。まるでヤクザ同士の威嚇。

「ヤバい人とかいそうですね……」

「大丈夫。営業所長は半グレだから。ヤバい時はそっち方面の伝手で」


 大丈夫か、その会社、と思った。


「こっちは法律に沿ってやってるから。殺されない限り勝てる喧嘩だから」


 笑っていいのかどうか分からなかった。


 豆さんの車は古いランドクルーザーだった。どのくらい古いのか俺には見当もつかない。


「これは昭和六十三年製のロクマル」

 豆さんの説明を聞いて俺が目を丸くすると。豆さんは笑って言った。

「大丈夫。俺とランドクルーザーは年寄りでも信用して良いから」


 笑っていいのかどうか分からない。


「乗らないの?」戸惑っていると促された。


 今までのところ、豆さんは俺の知ってるどんな大人とも違っていた。


「これからどうするんですか?」他のギルメンとはどこで合流するのか、その事を聞くと。


「三重県四日市のユウキちゃんは新幹線で来るそうだ。博多駅よりも小倉で降りてもらった方が都合いいから、小倉で降りてもらうことにした。今から小倉駅へ向かう。はるゆりは東京から北九州空港へ来る。小倉駅でユウキちゃんを拾って、北九州空港ではるゆり拾って東九州自動車道で被災地へ向かう」最後の方は真面目な顔になった。

 俺もいよいよと思い、真剣な顔で頷いた。それにしてもやはりメンバーが少ないのが気になる。


「やっぱり四人しかいないんですか……」


「過疎ギルドだからなぁ」豆さんは苦笑いした。


 元々ガラケーMMOだったマジック&ディメンションがスマホに移植されたのは五年前。当時はスマホMMOってあまり無かったから結構人気だった。俺もその頃始めて、のめり込み過ぎ、高校受験大学受験を失敗した。今は専門学校生。その経緯はギルチャで話したから豆さんも知っている。その後は、いわゆるガチャゲー人気に押されてマジック&ディメンションは過疎った。ここ一年くらいは俺たちのギルドも誰もインしなくなっていた。今回の件があるまでは。


 福岡都市高速に乗ってすぐ、道路に黒いシミがあった。小さなシミ。あっという間に通り過ぎたが、何故だか目に焼きついた。豆さんも気づいていた。


「あれ、子猫だよ。多分」そう言って、何か聞き取れない言葉を呟いた。


 俺が怪訝そうな顔をすると。


「地蔵菩薩の真言を唱えたんだ」豆さんは説明してくれて「成仏するといいね」そう言った。


「そうですね」俺は答えてスマホ弄った。俺たちのギルドのライングループがある。教えてやった。『豆さん見てビックリするなよ。ブラピ似の超イケメンおじさんだった』


 すぐに既読が付いてスタンプと共に『え⁉︎ 二十歳くらいだと思ってました』とユウキちゃん。『マジ⁉︎ 超期待すんだけど‼︎ おじさま萌え〜』とはるゆりん。ちなみに『はるゆり』こと『はるゆりん』が俺たちのギルマス。ポンコツだけど。ただ、火力だけは高い。色んな意味で。


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