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Magic & Dimension 11

「さて、方針も決まったところで」豆さんがニヤッと笑って割って入った。

「欲しいオプションと装備を書き出してみた」俺たちにメモを渡した。


 俺たちが借りた部屋は、モダン和室というのだろうか、ベッドスペースの隣に畳のスペースがある。全員そこへ移動した。


「どれどれ」二本目の缶ビールを開けながらはるゆりはメモを覗きこんだ。「これ全部揃える気? そもそもボス泥オーブとか何時間やっても出ないのに?」


 ボスを倒した後に小さな光が浮かんでいることがある。とても低い確率で。それがネームドオーブ。


「オーブ取れなくてもいいんだ。杖が必要かなと思って」

「ますます確率低いじゃない。部位破壊でしか泥しないよ」

「シナリオボスを中心に連戦しよう。時間見計らって降臨ボスも狙いに行くけど。金オプは雑魚MOBからでも出るから運テイマpt組んで狩りまくろう。ホテルに缶詰してゲームするなんて夢みたいだろ」


「確かに……」

「お腹空いたらバイキングあるし、温泉入り放題だし。人生一寸先は薔薇色ね」

「はるゆり、お前言葉の使い方おかしい」

「悲観的になるなってことよ。特にお前だ、よるおす。今にも死にそうな顔しやがって」

「そんな顔してねぇよ」

「んじゃなんだ? まさかそのツラでハードボイルド気取ってるのか」

「気取ってねぇよ」

「年季が足りないぞ。三十年早い」

「ちっ、べつに気取ってないけど、その計算だと俺の人生は四十後半からスタートかよ」

「いぶし銀ってのはちっとやそっとじゃ身につかないってぇこった。にしても豆さん若いな。今、お前の四十代想像したんだけど、メタボ・ハゲ・加齢臭の三重苦だったぞ」

「それはお前の勝手な想像だろ。豆さん若いは驚異的だけど」

「ですよね……。本当にビックリしました」ユウキちゃんも割って入った。「まだ信じられなくて……」


 全員から一斉に疑惑の目を向けられて豆さんは困惑してた。


「いや……、歳サバ読んでも俺何も得しないし……」


「小学生の頃流行ってたテレビとマンガは?」はるゆりに聞かれて。


「8時だよ全員集合と……がきデカ」豆さんは答えたけれど。


「合ってる?」

「そもそも、検証する知識がないです」

「だよな」

「ネット検索してみる? 豆さんが小学生の頃って……1970年代?」

 銘々スマホ取り出してネット開いた俺たちに、


「そんな暇があったらゲームしよう」豆さんは苦い笑みを浮かべて言った。




 ログインすると驚くほどの混雑だった。古都マピ。まるで最盛期の様相。ワールドチャットも飛び交ってる。九州情報。ビースト攻略情報。そして、時折、訃報も……。亡くなった人が苦しまずにただ普通に亡くなったことを祈る。


「うげげっ、降臨ポイントにワプしてみたんだけど、何コレ。全部湧き待ち?」はるゆりが悲鳴あげた。はるゆりのゲーム画面覗き込むとすごい人混みだった。


「この人たち皆んな九州に来てるんでしょうか」ユウキちゃんが嬉しそうな笑み浮かべたけれど。

「いや、そうとは限らないんじゃないかな。オーブ採って露店売り」豆さんは冷静だった。「資金欲しい組にとっては願っても無い機会だから。きっと値段も高騰してるんだろうな」


 俺は露店を覗いてみた。

「あはは。クリプト13億だって」クリプトという人気オーブは値段が五倍になっていた。


「降臨ボスのオーブ出すなんて夢のまた夢だな」豆さんが無念そうに唸った。


「クリプトなら皆んな持ってるでしょ」

「いや、ほら。運営がオーブ装填数増やす課金アイテム販売するらしいから。そしたらクリプト2個挿せる」

「あなる。私の杖は2スロだから3スロになるわね。クリプト3個挿しかぁ。やってみたいわね。でもどうする? 13億なんて貧乏人の私たちには到底買えっこないわ」

「いざとなれば○○○○がある」

「リアルマネートレードは垢バンされるわよ」

「事態が収拾すれば垢バンあり得るけど、今九州で戦ってるレベルカンスト組を垢バンしないだろ」

「甘いわ。M&Dの運営は馬鹿よ」


「あ、ギルドの人たくさんインしてます」ユウキちゃんがギルド画面を開いて目を丸くした。

 俺も慌ててギルド画面を開いて驚いた。


 俺たちのギルドは総勢三十人程度だけれど、半数以上がインしていた。こんなの何年ぶりだろう。

 俺たち四人がインしてることに気づいてチャットが飛んできた。質問攻めにされた。もうビーストと戦ったのか、九州の状況はどう、はるゆりんは本当に女だったのか、等々。最後のにはるゆりは目を尖らせたが、その疑問は当然っちゃ当然。俺も思ってた。実際に会うまで。


 豆さんは「俺の歳は内緒だぞ」こっちで言った。


「ええー」真っ先にその話題でド肝抜いてやろうと目論んでいた俺たちは、一斉にブーイングして不平の目を豆さんに向けた。豆さんは目を伏せてゲーム画面に向けた。「この歳でゲーマーなんて恥ずかしいだろ……」


 その気持ちはわかるが。


 ネット民はその棲息地に従い使用する言語がある。


 豆さんの名前がギルチャに入ってきて『こん』『おk、よろ』『タヒる寸前だた』などと表示されると、目の前にその人が居るだけに違和感ありすぎて困惑する。

『豆ー、ばんちゃーおひさー九州行ったのかー』

『いや、俺福岡住みだから』呼び捨てにされても普通に返す。これで俺たちは勝手に勘違いしていた。豆さんは言動が大人っぽいけれど、きっと二十代だろうと。


 今いるのは総勢二十名ほど。キノぽん、やこたん、ピグノズ達は300レベ超えてる。そこそこのボスは行ける。はるゆりが、それぞれパーティ組んでボス連戦するよう頼んだ。

『で、今回だけのお願いだけど、オーブや杖が出たら私達に譲って欲しい』

 自分勝手な頼みにもメンバーは快く了諾してくれた。

『九州から無事帰ったら必ず返すからね』はるゆりは付け加えた。

『皆んなは明日も仕事や学校だろ? 適当なトコで切り上げてくれ』豆さんも付け加えた。『オーブ出るまで粘ったりしなくていいから』

 狙うボスを豆さんが伝えた。全てシナリオボスで『チェクチェク』『ポゴシケ』『ヌンバ』の三体。

『おけ、じゃ俺がヌンバ行こう』とピグノズ。

『んじゃ俺チェクチェク取ろう』と、キノぽん。

『ん。私がポゴシケね』やこたん。『じゃあ、私のパーティ入ってくれる人ー』

 パーティ編成が始まった。バランスが悪くならないように俺たちも口を挟んだ。はるゆりのキャラクターのせいか、うちのギルドは女子が多い。すぐに仲良しでかたまりたがる。

『杖泥も狙って欲しいからディメは必ず各ptに』豆さんも口を添えた。


 それぞれが討伐に出立した後、俺たちはログイン画面に戻りキャラを切り替えた。サブキャラの運テイマ。運テイマというのは、ステをLukに全て振ったテイマ。ペットに戦わせるテイマだからできる。


「さて。どこで狩る?」俺が聞くと。

「ローブの良オプが出るケナダの森、指輪の良オプが出るツェリジュの塔、ブーツの良オプが出るジャオウエ海岸。とりあえずそこから」豆さんは決めていたようだ。狙いは分かる。スキルLv+オプだ。例えばスピアLv+1が出れば、スピアLvが8になる。複数付ければ9も10も可能。スピアはレベルが高いほど出現する槍が大きくなる。ぜひ欲しい。ヒールLv+も凍結波動Lv+も部位破壊クラッシュLv+も。これらはそのオプションが出る可能性がある場所。


 かくして俺たちは延々雑魚MOB狩り。三十分も経たないうちに俺たちは畳に座ってゲームするのが辛くなり、俺は畳に寝そべり、豆さんは座椅子に深く腰掛け、はるゆりとユウキちゃんは同じベッドにくっついて寝て、でもゲームは一時も休まず続けた。


 森の中で延々、木のお化けを狩る。片っ端から。凄い勢いで。バラバラとアイテムが落ちて散らばる。ゴールドオプション付きは金色に光っている。金色アイテムだけ拾い上げオプション確認する。欲しいオプションは落ちる気配さえない。


「まあね。なかなか狙って出るもんじゃないわ」

「あ、と思ったらヒール量+20%か。要らないな」

「店売り店売り。ヒーラーなら超欲しいでしょ。結構ふっかけても売れるはずよ」

「スキルLv+って出ませんよねぇ」


「うん……。まあ、分かっていたけれど。さてと。ちょっと休憩しよう。コンビニ行ってくるよ」豆さんは立ち上がった。「眠気覚ましドリンクとアイスクリーム買ってくる。他に欲しいものある?」


「ビール」と、はるゆり。

「ビール以外だ」と、豆さん。

「じゃあエナジードリンク」

「あと熱さまシート」

「あと、目の疲れを取る蒸気のアイマスクの奴」

「うん。りょ」眠そうな声で言い残して豆さんは出て行った。


 途端にはるゆりが身を乗り出した。


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