前奏曲
暑い。
今夜八十三回目の寝返りを打つ。あぁあ〜どうしよ、明日テストなのに・・・。
眠くて問題間違えるとか情けなさ過ぎるし。
でも眠ろうとすればするほど頭は冴えていく。
しょうがない、腹をくくってそっと布団を出て、バルコニーへ足を踏み出す。
ただいま深夜二時。夏の夜風が、気持ち良い・・・
私、山崎恵美。16歳。私立の有名女学校に通っている。中学校からのエスカレーターで、有名大学にたくさん人を送り込む、いわゆる進学校。
それだけに、高校になってからはみんなテスト期間となると、ちょっと話しかけるのもためらわれるようなぴりぴりした雰囲気で勉強をしている。
馬鹿みたい。
せっかくの青春、がりがり勉強ばっかしてつぶしちゃうなんて。
・・・そう思いつつも誰よりも勉強して成績優秀なのはこの私。
平均に近い点を取っただけで鬼のように怒る両親が怖くて、必死に必死に満点を取ってきた。
本当に心を許せる友達もいなくって。
一人で勉強机に向かう日々・・・。
あああ〜馬鹿みたい。
ふっと自嘲気味に笑うと綺麗な三日月が目に入った。
儚げだけど、煌々と輝くこの細い月が私は大好き。
満月みたいに豪華じゃないけど、新月みたいに冷たくもなくって。
自分に嘘をついて、がりがりとペンを走らせる私をそっと見守っていてくれる気がして。
このまま『おとぎの国』に行けたらいいのに・・・。
身長170cmで、さえない眼鏡顔の私がこんなこと思ってるなんてだれも考えないと思うけど、常々私が願っていることは『おとぎの国』に行くこと。
我ながらアホくさいと思うんだけど、
私はこの世界から逃げ出したかった。
もう一度三日月に眼をやると、月はきらっと輝いて・・・
私の足元が消えた。