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「あ、そうだ……。せっかくローザがお茶を入れてくれたんだからケーキも食べる? ケーキと一緒に頂くならお茶に砂糖を入れなくても良いし」


「そうね。どれにしようかしら?」


 私が樹皮で編まれた箱を開けると、中にはみずみずしいブドウやナシ、オレンジなど季節の果物がたっぷり乗ったフルーツケーキや黄金色のチーズケーキにアップルパイ、栗のケーキ。そして真っ赤なクランベリータルトなどが宝石のように輝いている。


 ローザが箱の中から、どれを選ぶか迷っているとき。ローザの肩越しに、遠くから三人の侍女を従えた銀髪の美しい令嬢がバラ園を歩いて来るのが見えた。薄紅色のドレスを着た令嬢の銀髪には黄金のティアラが燦然と輝いている。


 正式な式典用で使うティアラというよりは、アクセサリーとしての意味合いの方が強そうな小振りで繊細な意匠のティアラだが、銀髪の令嬢が相応の身分がある王侯貴族であると察するに充分な装飾品だ。


「あれは?」


「私も初めて見る方だわ……。あ、でも」


「でも?」


「今日、他国の姫が金獅子国を訪問するって女官長が言ってたわね……。どうやら物見遊山で訪れた姫君が、こちらに足を伸ばしたついでにレオン陛下に挨拶するだけらしいって聞いてたんだけど……」


「それだわ!」


 ローザと話している間にも、銀髪の姫は私たちがいる白大理石造りのあずま屋へ近づいてきた。そして、私とローザの顔を見るとにっこりと微笑んだ。


「ごきげんよう。こちらのバラ園は素晴らしいですわね……。あら、お茶を楽しまれていたのね」


「はい。よろしければ、一杯いかがでしょうか?」


「ケーキもあります。よかったら、お一ついかがでしょう?」


 銀髪の姫君に話しかけられたローザがお茶をすすめたので、私も樹皮で編まれた箱に入っているケーキを見せると、姫君は濃いピンクトルマリン色の瞳を見開いた。


「あら、変わった容器にケーキが入っているのね。金獅子国の王宮では野外で食べる時、そのような容器に入れるの?」


「いえ。私がケーキを作って王宮に持ってきたので、この容器に詰めてきたんですよ」


「あなたが、そのケーキを作ったの?」


「はい。ぜひ、お一ついかがでしょう?」


 私がケーキの入った箱を傾けて中身を見せながら微笑むと、銀髪の姫君は口角を上げて冷たく目を細めた。


「うふふ……。結構よ」


「え?」


「私、王宮お抱えの一流料理人が作った物しか食べたことないから、貴族令嬢が道楽で作ったケーキを頂いても口には合わないと思うの。ご厚意だけ頂いておくわ」

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