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今日は王宮へケーキを届けに行く日だったので、いつも通り店頭で販売するケーキを作った後、樹皮で編み込んだ箱に複数のケーキをつめた。
「じゃあ、後はよろしくね。ケーキの在庫が売り切れ次第、店じまいしておいて」
「了解しました!」
「おまかせください!」
こうして猫耳の双子メイドに店番をお願いして馬車に乗り、私は王宮へと向かった。青い屋根の尖塔が二つ連なる王宮の門を抜け馬車から降りると、建物の前で見覚えのある黒髪の女官長が二人の侍女を従えて待ち構えていた。
「あれ? ミランダさん?」
「はい。お待ちしておりました」
にっこりと微笑む黒髪の女官長に私は少し驚いた。いつもなら、ローザに付きそっているはずなのに肝心のローザは影も形も見えないからだ。
「あの、ローザはどちらでしょうか?」
「今日は第二の庭に……」
「第二の庭?」
いつもローザと会って話をしているのは第一の庭と呼ばれる場所で、位置的には外部へと繋がる正門に一番近い庭園であると同時に、面会室も隣接している。
外部の人間が王宮で働く者と会う場所と言えば基本的に第一の庭で、私のような外部の人間が王宮の奥に立ち入ることは通常、許されない。
「もしかして、今日はローザがこっちに来ることが出来なくて会えないんでしょうか? だったら、このケーキはミランダさんからローザに……」
「いえ。直接、お渡し下さい」
「え?」
私が小首を傾げればミランダさんが背後に控えている二人の侍女に目配せした。
「お連れしなさい」
「はい」
「へ?」
意味が分からず呆然としていると二人の侍女が私の横に立ち、ガッと腕を組まれた。
「こちらでございます。セリナ様」
「ご案内いたしますわ」
「は、はい?」
両腕を拘束される形となった私に逃げる術は無い。とても良い笑顔のミランダさんと侍女に連行される形で、私は王宮の中へと拉致された。
「本っ当! 心臓に悪いわよ! 何事かと思ったわよ!」
「女官長ったら……。私はセリナをここへ案内してって言っただけなんだけど……」
苦笑するローザは薄青のドレスに身を包み、淡いピンクローズの絵付けがされている白磁器のティーカップに鮮やかな赤色の花茶を入れてくれている。
王宮に到着して黒髪の女官長ミランダさんと侍女に拉致された私は、王宮の一室でドレスに着替えさせられ現在いる第二の庭にある白大理石で造られた、あずま屋に案内された。
そして、そこには私と共に屋外でお茶を飲もうと用意を整えて待ち構えていたローザがいたのだ。




