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黒髪の女官長に促され謁見の間に入ればザワついていた重臣たちが私の姿を見た瞬間、息を呑むのを感じた。その中には薄水色のドレスを着た寵姫ローザと共に、王立学園時代のクラスメイトである元子爵令嬢セリナもライトグリーンのドレスを着て、さながら貴族令嬢のような出で立ちで私を見つめていた。
王立学園時代は分不相応にも侯爵家の子息と婚約していて気に入らなかったけど、子爵家の領地を失って没落貴族となったからには二度と姿を見ることも無いと思っていたのに寵姫御用達の菓子職人として王宮に出入りするようになったばかりか、このような場にまでノコノコとドレスで着飾って顔を出すなんて、まるでコバエのような女だと内心、毒づきながらも表面上はおくびにも出さずにハイヒールの靴音を響かせながら優雅に歩く。
一段高い玉座には金髪金眼のリオネーラ王太后とレオン陛下が腰かけ、その側には国王の侍従がひかえている。私は真っすぐに進んでレオン陛下の御前で赤いドレスのスカートをつまみ頭を垂れた。
「レオン陛下、リオネーラ王太后様。ただ今、フルオライト伯爵家より戻りました」
「フルオライト伯爵夫人の具合はどうでしたか?」
「はい。倒れたと聞き心配しておりましたが、私が見舞いで一緒に過ごす内にずいぶんと顔色もよくなりました」
「それは良かったこと」
リオネーラ王太后が微笑し、鷹揚に頷いた。その横で無言のまま私を見すえるレオン陛下と視線が交錯する。
「ところで、今日はレオン陛下が私に話があると聞いたのですが」
「うむ。そなたの魔力についてだ」
「私の魔力?」
「重臣の中にはそなたが魔法を使う所を見たことが無い者も多い。今日はそなたの実力をここで披露してもらおうと皆に集まってもらったのだ」
「ずいぶんと急なことですね。皆様の前で魔法を披露するなど聞いていなかったので、何も準備が出来ておりませんわ。一度、後宮に戻って支度をしてから改めて、こちらに参ってもよろしいですか?」
「いや、何も難しいことをして欲しい訳ではないのだ。ただ、そなたの魔力の高さを示してくれればそれで良い」
「では少し、失礼いたします」
私は一度、振り向き国王陛下とリオネーラ王太后に背を向けた。そしてドレスのポケットに手を入れ、手の中に小瓶を忍ばせる。ガラス瓶のフタを素早く開けて紫色の液体を一気に飲み干そうとした瞬間、何者かが私の右手首をつかんだ。
「いけませんわ。フローラ様」
「何を!? 無礼な! 手を離しなさい!」
私の手首をつかんだのは黒髪の女官長ミランダだった。




