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「国王陛下がお呼びなの」
「レオン陛下が?」
「ローザと晩餐を共にしたいと……。準備が出来次第、国王陛下の所に向かってちょうだい」
「晩餐会ということですか?」
きちんとした場なら、相応の身支度をしなければならない。そう思いながら尋ねれば女官長は首を横に振った。
「正式な晩餐会という訳では無いわ。二人だけで、国王陛下の居室でささやかな晩餐を楽しみたいそうよ」
「国王陛下の居室?」
今までレオン様と会った時は、陛下が私の部屋に訪ねて来るという形ばかりだった。晩餐とはいえ、国王陛下の私室を訪ねるということに躊躇を感じずにはいられなかった。しかし、女官長は私の胸中を知ってか、知らずか事も無げにうなずく。
「ええ、だから浴場に行って支度して」
「浴場ですか……」
「ローザ。寵妃が夕刻以降に国王陛下の私室を訪ねるなら、浴場で身体を清めてから行くのは当然のことよ。深く考えなくて良いわ」
「ミランダ様」
「あなたも今日は昼間、外を歩いたりして動き回ったのですから浴場でさっぱりしてから身支度を整えましょう」
「はい……」
黒髪の女官長に薦められるまま、浴場へ行き側女の手を借りながら身体を清め、長い金髪をクシで結い整え、用意された薄水色のドレスに袖を通した。
着てみると胸元から腰、ヒザにかけてピッタリと身体のラインに沿ったデザインで、ヒザ下からはフレアで魚の尾びれのように広がっている美しいマーメイドラインのドレスだった。私がドレスを身に着けたのを確認した黒髪の女官長は満足げな表情を見せた。
「用意が出来たわね。とても綺麗よローザ」
「ありがとうございます……」
女官長ミランダに先導され、茶髪の侍女ジョアンナに付き添われながら後宮から長い通路を歩いて王宮にある国王陛下の居室へ向かった。
国王陛下の居室前では、大きな扉の左右で槍を持った二人の屈強な近衛兵が警護していた。女官長ミランダは警備の近衛兵に軽く会釈した。
「寵妃ローザをお連れしました。国王陛下にお取次ぎを」
「少々、お待ちを」
近衛兵の内、一人が国王陛下の居室に入ると、ほどなく再び姿を現した。
「寵妃ローザ様。どうぞ、お入りください」
近衛兵に国王陛下の居室のドアを開けられ、中に入るよう促される。女官長ミランダと侍女ジョアンナの顔を見ると二人とも、私と共に国王陛下の居室へ入室する気は無いらしく「がんばって!」と言わんばかりの微笑をたたえていた。
国王陛下の居室に入るのを許可されたのは寵妃だけだから、女官長と侍女は廊下で待機ということか……。そう思いながら、私は国王陛下の居室に足を踏み入れた。




