続編の幕開け
「先日編入してきた方に、『貴女、悪役令嬢なんだからしっかり役割を果たしなさいよ。』と言われたのですが、何のことなのかわからず、困っていますの。お母様、この意味わかりますでしょうか?」
夕食の時間、一通り家族が食事を終えた頃を見計らって、編入生様に言われた事を質問してみた。
あれは、講義が終わり、幼馴染のアラン様とお話をしていた時だった。
突然編入生様に呼び出され、先程の言葉をぶつけられたのだ。
全くもって意味がわからなかった。
悪役令嬢とは何でしょうか?
役割って?
全てがわからずキョトンとしていたら、アラン様が私を呼びにきてしまったので、詳しい話が聞けなかった。
アラン様を見るなり、編入生様は「と、とにかくちゃんとやってよね!」と私に言ってそのまま逃げるように場を離れてしまったから。
アラン様に、「どうした?」と聞かれたので、言われた事をそのまま伝えてみた。
「何だそれ?」と最初は首をひねってから。
そう言えば…と一言加えて。
「お前の母君が自分のことを昔『悪役令嬢』と言って俺の母親を『ヒロイン』って呼んでたと、聞いたことがあるけど…」
と、教えてくれた。
なら何か知ってそうなお母様に聞いてみましょうと思い、夕食の時間に相談を持ちかけたのだ。
お母様は「そう…あれって続編出たのね…そして、やはり悪役の娘は悪役なのね…。」と悲しそうに呟いた。
その様子を伺っていたお父様が「大丈夫か?」と本当に心配そうにお母様の顔を覗き込む。
ゆっくりと顔を上げたお母様は儚げに微笑んで「ごめんなさい、大丈夫よ…。本当は私とあの子みたいに、お友達になれたら一番ですけど、それは無理そうね。アンナに悪役をやらせようとしてるのなら。それなら…。」
そう、呟いてから真っ直ぐと私をみつめた。
「アンナ、よく聞きなさい。そして、これだけは絶対に、覚えておいて。」
いつになく真剣な表情のお母様に、自然と背筋が伸びる。
「はい、お母様。」
「この世界は、現実です。」
「…はい?」
何当たり前のことを言うのだろうか?お母様は…。
実際、お父様も、6歳年下の弟もみんなキョトンとしている。
だけど、お母様は真剣な表情でさらに言葉を紡いだ。
「その編入生の方は今後も貴女に接触してくるでしょう。そして、理不尽な事を言うかもしれません。ですが、その言葉に惑わされる必要はありません。貴女は貴女の思うままに行動しなさい。」
お母様が言い終わると同時に食後のお茶がテーブルの上にセットされた。
お母様はそのカップを手に取ると香りを楽しんで、ニッコリと微笑む。
「…お母様?ますます意味がわからなくなりました。そしてこのまま、何もわからず編入生様の言葉を無視するのは失礼かと。お願いです。せめて悪役令嬢の役割だけは教えていただきたいです。お母様は悪役令嬢だったのでしょう?お母様はどんな事を行ってたのですか?」
話はもうこれで終わりと告げそうだったので、食い下がってみた。
すると、「そうね…それだけなら…。」とお母様は視線を私ではなくお父様にうつして。
「悪役令嬢の役割は、好きな殿方を色気で落とす事ですわ。」
ね、旦那様。
と、お母様がお父様に今度は妖艶に微笑んだ。
弟はもううんざりと言わんばかりの顔をして。
お父様はお茶を吹き出して。
そして、私はーーーーー。
アラン様ではなく、大好きな、伯父様を思い浮かべてた。