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邪神さまの玩具  作者: 黒夜沙耶
士官学校編
49/52

宮殿への呼び出し

間があきましてすみません。

 私は午後の訓練を抜け出して、自室の机に向かっていた。

「来てしまった」

 私の目の前には陛下の封印が押された手紙が一通。午後の訓練が始まろうかというタイミングでベレニケさんが届けてくれたのだ。まさか昨日の今日で回答の手紙が届けられるなんて予想外すぎる。

 いや、届けに来たベレニケさんが何とも言い難い表情だっただけで、航空部隊についての回答とは限らない。わずかながら、前に提案していたクリスとセレナの音楽をベアトに聞かせることについてのお話の可能性もあるはず。きっとそうだといいな。

 自分でもありえないと思うことに逃避しながら手紙を取り出すと、一思いに目を通した。

「た、助かった?」

 書いてあったのは、直接話をしたいから今週の土日に宮殿へ来るようにという呼び出しと、セレナとクリスもその時に連れてこれるなら一緒に来て欲しいという二点だけ。航空部隊については一言も触れられていない。

 うん。きっと私の手紙が届く前に陛下が下さったお手紙だね。良かった。直接お話しする機会が得られたのだから、お会いした時に航空部隊構想とかは間違って送ったと謝っておこう。

 あー良かった。これで少し心が軽くなった。後は二人に週末の予定を確認すれば問題ないね。そうして足取り軽く訓練へ戻ったのだった。



 訓練終わりにセレナとクリスに週末の予定を確認したところ、二人とも空いていたそうで公演を快く承諾してくれた。私が前に妹分に聞かせてあげたいと言っていたからという理由で承諾してくれたのは素直にうれしい。きっとベアトも喜んでくれるだろう。

「さて、返事をしておかないと。今回は二人がいるなら送迎付きになるっていうし、連絡は早い方がいいよね」

 さらさらと手紙を書き終えると、封をするべく蝋を溶かす。手紙の便箋や封筒だけでなく封印を押すための機材一式もベアト、というか陛下からの贈り物だ。

 それで封をすると、ベアトの紋章に狼を組み込んだような私専用の図柄が赤い蝋に浮かぶ。

「信頼されているからだろうけど、普通はありえないよね」

「間違いなく取り込まれているからな。お前は後ろ盾を得て、あちらはお前で国民人気を得る。ウインウインだろ」

 蝋が固まったのを確認して触っていると、背後で手紙を届けるために待っていたリリィが呆れた様な声で言ってきた。私はそんな打算でベアトと仲良くしている訳ではないのだけれど、確かに事実だけ見ればそうだろう。

「ほら、そんなこと言ってないで手紙を届けて」

「分かった。行ってくるが、場合によっては戻りは朝だからな」

「はいはい。分かってますよ」

 私の言葉に満足したのか、リリィは手紙を咥えて窓から飛び出していった。普通に郵便として送ってもいいのだけれど、リリィがどうしても届けると言ってきかなかったのだ。騒ぎになりそうだけれど、街中では不可視化して宮殿の前で現れるから問題にはなっていないらしい。実際のところリリィがやたらと手紙を届けたがるのは、私からの手紙を届けるとお駄賃代わりに肉を貰えるからだ。私の魔力だけで生きられると言っていた時期より飼い犬化が進んでいるようだ。

 封印に使った道具を片付けてもリリィは戻ってこなくて、翌朝訓練を始める時間になってから肉でお腹を膨らませて帰ってきたのだった。



 そして問題の土曜になった。訓練が終わって午後からどう過ごすか楽しみになっている班員を横目に、クリスとセレナに話しかける。

「訓練の汗と汚れを落としてね。宿舎まで迎えが来てくれることになっているから、あまり遅くならないように」

「宿舎まで迎え?」

 二人とも怪訝な表情だ。まあ、宿舎に迎えがくるなんてあまりないことだろう。私だってここから宮殿に行くときに迎えに来てもらったことなんてないし。

「そうそう。だから、荷物を準備したら玄関に集合してね」

 荷物というのは、結局泊まりになったからだ。私が泊まるから一緒にどうか誘ったら、そっちもOKされたのだ。宮殿に泊まるとアナベルさんはじめメイドさんにいたせりつくせりのご奉仕をされるから、一度経験しておくと人生経験として美味しいだろう。

 二人の答えを待たずに私は部屋に戻ると、身を清めて制服に着替えた。私の場合、着替えの一部は宮殿に置いてもらっているし、影の中にも収納しているので手ぶらだ。そしてリリィは朝から宮殿に先行しているので、文字通り身一つという状態である。

「……最近、リリィとベアトが何か悪巧みをしているような気もするけど、肉目当てと餌付け目当てでしかないからなぁ」

 リリィの最近の行いにちょっと愚痴が出てしまったが、きりかえて玄関へと向かう。外出するオティーリエやラウラを見送りながら待っていると、私と同じように制服に着替えた二人がやってきた。鞄一つに荷物をまとめているあたり余計な物は入れていないようだ。

「遅れましたか?」

「ううん、ちょうどいいくらいかな」

 心配した様子のセレナに対して、銀時計で確認して答える。目に見えてほっとした様子の二人を連れて外に出ると、聞き覚えのある音が近づいてきた。

 音の聞こえる方に視線をむけると、私が駅から宮殿まで乗せてもらったことのある馬車がこちらへ向かってきていた。

「「馬車?」」

 二人の声がはもった。

「ユリアさん、お聞きしたいのですけど、妹分というのは馬車を迎えに来させることのできるようなご身分の方なのですか?」

「ん? ああ、言ってなかった? 私がこっちに出てきた時も馬車で迎えを出してくれたんだよね」

 若干震えたセレナの声にうっかりしていたと答えてあげる。しかし、私の答えを聞いて二人の顔が青ざめた。

「わ、私、作法とか分からないんですけど、大丈夫ですか?」

「私だって、どんな言葉遣いで話せばいいのか」

 そんなに気にしなくてもいいと思うんだけど、二人は慌てて素が出ている。

 前からうすうすと思っていたけれど、クリスはいいとこの娘さんなんだろうね。普段の言葉遣いと態度がアレだけど、今みたいな状況では育ちの良さが見えるよ。そして、セレナも普段は落ち着いているのに年相応に慌てている。なんとなくだけど、この二人は一緒にしておいた方がいろんな意味でよさそうだ。

「まあ、そんなに気にしなくてもいいと思うけどね。公式行事ならともかく、私的な事柄だし」

 そんなことを言っていると、横に止まった馬車からアルフレードさんが声をかけてくれた。

「ユリアさん、お迎えにあがりました。そちらのお嬢様方が本日のゲストですかな」

「アルフレードさんが来て下さるなんて、ありがとうございます。うちの班のセレナとクリスです。二人ですごい公演をきかせてくれますよ」

「それは楽しみですな。お嬢様方、アルフレードと申します。短い時間ではありますが、私がエスコートさせていただきます」

 イケオジなアルフレードさんにエスコートされて馬車に乗る二人だったけれど、動きが硬くて下手なマリオネットでも見ているようだった。



 馬車で移動している間も二人はがちがちに緊張しているのが分かる状況だった。せっかく馬車を出してもらったんだから楽しめばいいのに。

「せっかくの馬車なんだから、楽しんだら?」

「無理ですよ。だって、この馬車って帝国紋章が入っているってことは、上級貴族とかが使う奴ですよね? 下手に汚したり、壊したりしたら……」

 おっかなびっくりという感じのセレナに同意して、普段と全く雰囲気が変わってしまったクリスがこくこくと頷いた。送迎に出された馬車の中で普通にしていたできる傷なんかは問題にならないと思うんだけどな。

「……この間、ニーナから聞いたことを思いだした」

 ぼそっとクリスが口にした。しかも、私の方をちらちらと見ながら続きを言うか迷っていたようだったので、視線で続きを促した。

「宮殿の上を飛んじゃった時、青くなったけどユリアさんは問題になったら謝ればいいって笑ってたって。だから、帝国の上の方に顔がきくか、偉い人の隠し子なんじゃないかって言ってたんだけど、皆銀翼の聖女だからって気にしてなかった。でも、今日のこの状況は……」

 最後の方は私の顔を見ながら震え声になってた。まあ、状況だけ見ればそういう風にも取れなくはないか。事実、顔がきく状況なのは本当だし。

「んー。私が居た孤児院があった基地に来た訓練兵とは仲良くなって、お姉ちゃんと呼ばせてもらうようになったね。で、その縁から妹分もできたんだよね。詳しくは守秘義務があるから言えないけど、お姉ちゃんも貴族だから、そういうところとは、ね」

 私の言葉に今度こそ二人は彫像のように固まってしまったのだった。

ちょっと体調を崩しています。

治癒魔法が本当にあればいいのに。

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