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邪神さまの玩具  作者: 黒夜沙耶
士官学校編
41/52

士官学校の生活

間があいて申し訳ありませんでした。

3月の繁忙期に加えて、今年も転居付き異動を命じられてネットから切り離されていました。

 宿舎の休憩室にアップライトピアノがあった。調律なんていつされたか分からないような代物だけれど、私にかかれば問題なく調律できる。そして、その調律の結果が目の前で繰り広げられる芸術祭である。

「アップライトピアノでこれだけ綺麗に弾けるのってすごいよね。それに合わせられるクリスの声も綺麗だし」

 セレナはピアニストとして伴奏を担当し、クリスがしなやかに歌っている。どちらも日本で聞いたコンサートに劣らないハイレベルなもので、これで音楽院に落ちたというのが本気で理解できないレベルだった。

「ああ、本当に心地いい……」

 こんな感想を持ったのは私だけではないようで、私の足元で伏せているリリィも尻尾を穏やかに動かしている。そして、他の班員も思い思いの姿勢でこの音楽に聞き入っていた。

「「ありがとうございました」」

 二人が終演の挨拶をすると、皆が盛大な拍手をした。かけられる言葉に二人が笑顔で答えてながら間を進む。私の前に来た二人に私も拍手をしながら笑いかけた。

「とても良かった。良かったから妹分にも聞かせてあげたいくらいなんだけど、どうかな?」

 私の言葉にクリスが少し怪訝そうな表情を浮かべる。そして口を開きかけたけれど、それを遮るようにセレナが慌てた様子で先に口を開いた。

「褒めていただいて嬉しいです。私たちの音楽で楽しんでいただけるなら、喜んで」

「それじゃあ、いつにするかはまた後で詰めていこう」

 私の言葉にセレナが微妙な笑みを浮かべて礼をすると、クリスの腕をひきながら私の視界から消えていった。

「ユリアさんが孤児なのは有名な話だけど、だからこそ妹みたいな子がいてもおかしくないんだから、ちゃんと考えてから行動に移しなさい」

「ごめん。つい……」

 セレナがクリスと注意しているのが聞こえた。普段の関係からはあまり想像できないけれど、お互い補い合っているようだ。私に聞こえてしまっているのが減点対象だけど、今回は聞こえていないことにしようか。

 まだ十代の子供だ。いくら士官学校の生徒とはいえ、まだ失敗が許される、いや、失敗して学ぶべき年齢なのだからね。

「さて、ベアトに手紙を書くとして、聞かせるのはいつがいいかな。ベアトのスケジュールを把握してないけど、週末なら私と会うために確保されてるはずだから……」

 頭の中でスケジュールを整理しながら、どんな手紙を書こうか考えながら部屋へと歩きだした。



 消灯前の自由時間。もう誰かの部屋を訪問する必要がないので、真の意味での自由になった時間を使ってベアトへの手紙を書き終えて、リリィに宮殿への使い走りを頼んでゆっくりとしていた。すると、控えめに扉がノックされた。

「はい。こんな時間に誰かしら」

「あの、私たちです」

「はぁ。とりあえず、入って」

 扉を開けてみれば、妙に薄着のセレナとクリスが居た。仕方ないのでとりあえず室内に入れてみた。

「今日は服を着ているからいいけどさ、何しに来たの?」

「いや、私たちだって脱ぐのは寝る時だけだって。寝てる時に締め付けられるの嫌だし」

 二人が全裸だった理由は、寝る時には全裸になる派だったかららしい。それで寝る時は香水だけとか言われたらどうしようと思ったけれど、さすがに香水はふっていないそうだ。

「ならさ、なんで私の部屋に来て当然のように脱いでるのかな?」

「え?」

「だって、この間は一緒に寝れませんでしたし、一緒に寝たかったんです」

 不思議そうにこちらを見つめるクリスと楽しそうに笑うセレナ。そういう顔をされると強く拒否できない。

 私は孤児院育ちでこの世界の女子の流行りを理解していないから、もしかしたらこういうのが普通なのかもしれないし。そうでなくとも、そもそも中身が成人男性で擬態しているのだから明らかにおかしいこと以外は笑って受け入れるべきかもしれない。

「……はぁ。わかりました。でも、私のベッドも狭いんですから、そこは我慢してください。そして、見てるこっちが寒いので何か着なさい」

 私の言葉に二人はしぶしぶといった感じに脱ぎ掛けた服を着なおした。そして私に抱き着くようにしてベッドに潜り込んでくる。

「まったく、明日も訓練なんだからちゃんと寝なさい……」

 二人の体温のせいで一気に眠気に襲われた。抵抗することなく意識が沈んでいく。そのままま眠りに落ちかける時、二人の話し声が聞こえた。

「私たちが言えたことじゃないけれど、ちょっと危なすぎない?」

「ええ。こうも簡単に言いくるできると、そのうちにあちこちから手出しされそう」

「私たちが守らないと」

 二人の声とは認識したけれど、言葉を認識できずに眠りに落ちていった。


 宮殿。夜となっても皇帝執務室の灯りはともったままだった。大きな机に向かい、提出される書類に向かっているチェザーレであったが、最後の書類にサインを終えると大きく息を吐いて今日の仕事を終えた。

「お疲れ様です、あなた」

 声に視線を動かすと、薄い黄金色の液体の入ったグラスを持った妻の姿があった。

「何、視察だ、外交だ、と執務室に居られなくても仕事は待ってくれないというだけだ。皇帝は国のために一番に働かなければならないのだからな」

 チェザーレは差し出されたグラスを受け取ると、カランと氷を鳴らしてゆっくりと口に含んだ。アルコールの熱さが喉を伝っていくのを感じながらグラスを置くと、思い出したように小さく笑った。

「しかし、あの子に施術してもらってから体が軽くてな。本当にあの子は優しい、いい子だ」

 チェザーレの言葉にイザベラは何かを思い出したように口元に手を当てて笑うと、楽しそうに口を開いた。

「先ほど、リリィちゃんがビーチェに手紙を持ってきてくれたのよ。どうも士官学校のお友達に音楽院に入れなかったけれどとても上手な子がいて、ビーチェに聞かせたいから宮殿に連れてこれる時に連れてきてくれるみたいなの。ビーチェはもう楽しみでしょうがないみたい」

 楽しそうに笑うイザベラにつられるようにチェザーレも笑った。

「本当に、ビーチェのことを夜半まで話し合ったことも今となっては信じられないな。病が再発した気配も全くないし、そんな年相応の生き方ができるとは……」

「そうね。あの頃は私とあなたもビーチェのことでケンカばかりしていて、こんなゆっくりとした時間を持とうとなんてしなかったもの」

 イザベラの言葉にチェザーレは妻の顔を見た。そして、視線があうと二人はゆっくりとほほ笑み合った。

「何があっても私たちはあの子の味方でいよう。私たちに幸せを運んできた二人目の娘なのだから」

「もしかしたら、そのうちに本当に娘になってしまうかもね」

 妻の言葉にチェザーレは苦笑を深めて一口の酒で唇を湿らせた。

「残念だが、翁がそれを許さないだろう。皇帝家の養女となってしまえば後継には指名できぬのだからな」

「あら。そうかしら。ビーチェの気持ち次第だと私は思っているのだけれどね」

 妻の言葉には何か含みがある。そう思ったチェザーレであったが、その含みが何かを考えても仕方ないと思った。アルコールと愛する妻とで彩られた夜を楽しむことにしたのだった。


毎年引っ越しさせられて補助もないので貯金がガンガン減ります。転職とか考えるべきかもと本気で思い始めました。本当に時間とお金が欲しいです。



先日、引っ越し途中に福島県浪江町の桜を見てきました。夜桜と花火の組み合わせは綺麗でした。

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