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邪神さまの玩具  作者: 黒夜沙耶
士官学校編
39/52

休日とどうでもいい相談

忙しさと体調を崩したりで中々続きが書けない状態でした。申し訳ありません。

 ベッドの上、半分眠ったままの状態ながら、夢の世界から引きずり戻された。

 その理由は簡単だ。強い視線を感じているのだ。私を害そうとする気配を感じないからか気付くのが遅れてしまったけれど、間違いなく私を見つめている。

 幽霊や妖怪のたぐいではないことを祈りながら、意を決して目を開く。

「ひぃぃぃぃぃっ!」

「おはようございます」

 視界いっぱいに映ったアイスブルーの瞳に一気に眠気が吹き飛ばされる。外聞も何もかも投げ捨てて、悲鳴を上げながら逃げてしまった。しかし、そんな私にアイスブルーの瞳の持ち主は淡々と朝の挨拶をしてくる。

 離れてみれば、アイスブルーの瞳の持ち主は昨晩お世話になったメイドさんだった。メイドさんだと分かったからと言って、恐怖が消える訳ではないんだけどね。クール系の美人さんがじっとこっちを見ているという状況は、そういう性癖が無ければ恐怖しか感じないし。しかも、自分の行動に疑問を持っていないっぽいのがさらに恐怖を煽っている。

 急上昇している心拍数で息苦しくなりながらも、問いたださない訳にはいかない。

「ど、どうしてそんな至近距離で私を見ていたのですか?」

「ユリアさまの寝顔がとても可愛らしかったからですが」

 何か問題があるのかと言わんばかりの態度で首を傾げられると、絶句するしかなくなる。それだけでじっと私の顔を見て平然としていられるのか。何か言おうとしても舌が縺れてしまう。それでも何か言わなくてはという思いで口を開くことには成功した。

「ええと……」

「アナベルです。よろしくお願いいたします」

 名前が出てこない。昨日きいたはずなんだけれど、人の名前を覚えるのは苦手だ。そんな私の態度で察したのか、名前を名乗ってくれた。この辺りの機微への気配りは宮殿のメイドなのだと感心する。

 僅かにほほ笑んだアナベルさんがぺろりと唇を舐めた。その仕草は、リリィが肉を前にした時の様子に似ていて、自分が獲物にされたような気分になる。

「お着替えをお手伝いします」

「いえ。一人で大丈夫です。士官学校の生徒として振る舞う必要がありますので」

「そうですか。朝食の準備はできておりますので、身支度が済みましたら食堂へお越しください」

 そんな状態だったので即答で断ってしまった。無理くりな理由だったけれど、アナベルさんは追求せずに引いてくれた。ただ、ほんの数秒ほど残念そうな表情を浮かべたのを見逃さなかった。

「それでは失礼します」

 アナベルさんが部屋を出て扉が閉まった瞬間、久しぶりに防音用結界を発生させた。これで室内の音は外に漏れない。

「リリィ! 来て!」

「何だ。朝っぱらから騒々しい」

 ぶつくさ言いながら出てきたリリィに有無も言わせずとびついた。

「こわいこわいこわい。ちょっと安心させて」

 リリィに抱き着いていると、ゆっくりと気分が落ち着いてくる。動物のセラピー効果も侮れないものだ。体感で十分くらいもふもふして、何とか精神力が回復した。

「……本当にお前は何かあると抱き着いてくるな。そんなにいいのか?」

「うん。もふもふに癒される」

 少し呆れたような声でリリィが話しかけてくるけれど、私にとってはもふもふに癒されるのは大正義なのだ。生返事をしていたら、リリィの言葉が優しくなった。

「ふふ。本当に可愛らしいな。母性というやつはこういう気持ちなのかもな」

 いつもはただ撫でられるだけのリリィが首を擦りつけるようにしてきた。リリィとのつながりが強くなったみたいで嬉しい。そのままもうしばらくリリィのもふもふと温もりで癒されてから、流石に身だしなみを整えて食堂へ向かった。



 朝食を食べ終わって部屋でもう一度身だしなみを整えると、さっさと宮殿をあとにした。ベアトがいないのに長居をしても迷惑をかけてしまうからだ。

 ……アナベルさん以外のメイドさんからも飛んできた視線が怖くて逃げだした訳では断じてない。

「学校に戻って射撃訓練でもしようかな」

 士官学校の規則では、学校内で、かつ弾を自前で用意し、教官が指導するという条件で拳銃の射撃練習をすることが認められているのだ。帝国では弾の規格化が進んでいたお陰で父の遺品の拳銃に使える弾も市販されていた。なので、私は事実上好きな時に訓練できる状態なのだ。

「せっかく外に出ているのだから、菓子など買って帰ってもいいのではないか?」

「はいはい。少しだけね」

「おお。楽しみにしているぞ」

 リリィが影の中からそわそわと声をかけてきた。朝の件もあったので認めてあげると、喜んだ声が聞こえた。きっと尻尾をふっているんだろう。

 まだお店が開いてなんじゃないかと思ったけれど、意外に出店のようなお店が営業している。近くにあった飴を売っているお店を覗いてみたけれど、すぐ逃げた。

「アニスの飴か。ちょっと苦手なんだよね」

 飴系カテゴリで一番苦手なのはサルミアッキだけどね。大学時代、後輩のお土産を食べて悶絶した記憶がある。生が変わってもこの苦手感は消えないよ。

「……日曜だからお祭りみたいなのかな」

 日曜は商業も休むという宗教観がこの世界にはないのだろう。今まで日曜に外出なんてしたことが無かったから気付いていなかったけれど、やっぱり私が知るヨーロッパとこの帝国はだいぶ違いがある。その大本はあの女神なんだろうけどさ。

 そのままぶらぶらとして、日持ちしそうなチョコレートや砂糖菓子を買い込んだ。私が着ている服で士官学校の生徒と分かるとおまけしてくれるお店もあって中々に楽しいものだった。

「これが休日の醍醐味よね」

 見つからないように買ったものを影に仕舞いこむと、何も持ち込んでいないということにして事務室に帰還申請を書きに行く。帰っても申請を出さないと帰ってきていないことになるのでちゃんと出さないと、教官扱いの私でも怒られてしまう。

「さて、次は射撃練習場に行こうかな。でも、先に訓練着に着替えるのが先か」

 今は制服だけれど、汚れるから訓練着に着替えるべきだよね。事務室から出て廊下を歩きながら行動を決めると、着替えるべく宿舎の方へ方向を変えた。

「あの、ユリアさん。もうお戻りになられたのですか?」

 宿舎の廊下を歩いていると背後から声をかけられた。

 振り返ればラヴィーの加護持ちの班員であるニーナがいた。服装からして外出せずずっと宿舎にいたのだろう。思い出すと、私がまとめて提出するからって書類を集めた時も休日外出の申請を一人だけ出していなかったな。後から出すとか言っていたけれど、やっぱり出していなかったか。

 いつも私の視線を気にしているくせに、視線があうとすぐそらす。そんな何がしたいのかよく分からないこだ。しかし、そんな子が自発的に声をかけてきたのだ。ちゃんと対応してあげよう。

「はい。ちょっと予定が変更になって。これから射撃練習でもしようかなと思っていたところで」

「じゃあ、少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」

「ええ。構いません。ここでですか? それとも談話室へ行きますか?」

 私の言葉にニーナはここで構わないと言う。まあ、休日で誰もいないからどこで話そうと大して差もなくて気分の問題でしかないので、ここでいいなら立ち話で終わらせよう。

「兄が大変失礼なことをしでかして申し訳ありませんでした」

「兄? 班員の家族なんて誰とも会ったことないはずだけど」

 急に謝罪されても私には心当たりなどありはしない。書類を見るまで誰とも接触なんてしたことがないし、孤児院のあった基地に勤務した親族が誰かにいたという話も聞いたことがない。私には理解できない事柄で考え込むと、ニーナは説明するように言葉を続けてくれた。

「私の兄、ジョージ・マッケンジーは技術局配属の技術者でした。あのフォンターナ姉妹の研究室に新人で配置されたということで図に乗っていたのだと思います。しかし、そのせいで帝国と女神様の関係を壊しかけた張本人なのです」

 そう言われて思い出した。私とラヴィーが手を入れた設計図を台無しにした大馬鹿がいたということを。

 はっきり言って、もうどうでもいい過去の出来事なので頭から消えていた。覚えていても何の利益にもならないし、イラつくだけなので記憶にとどめておく必要皆無だからね。

「ああ、そういえば、設計図ダメにした技術者もいたね。もはや興味がないから忘れてたよ。そもそも名前知らなかったし」

 私の言葉にニーナの表情が陰った。まあ、自分が気にしていたのに相手がその程度にしか思っていなかったというのは思うところもあるだろう。

「兄がしでかしたことで技術学校の主席が技術局採用になるという枠も取り消され、家族全員が地域で白眼視されるようになりました。兄が主席というのも実力ではないのではないかという声も出てくるくらいで。私も技術学校へ入学を志望していたのですけど、認められなくて。少しだけ魔法への適性があったので何とか受験申込が間に合った士官学校へ入学しました」

「そうなんだ」

 この自分語りはなんだろう。大変だったねとか言って貰いたいというあの流れなのだろうか。でも、表情からはそんな感じには思えないし、もしかすると私に言うことで謝ったという赦しが欲しいのだろうか。もしそうならしっかりと言っておいた方がいいのだろう。まあ、そういう流れの説明だったとしても、私にとっては赦すとか赦さないとかそういうものではないのだけれどさ。

「教官があのユリアさんと聞いて、しっかりと謝りたいと思っていたのですが、遅くなって申し訳ありません」

「はっきり言って、どうでもいい。そんなことを気にするくらいなら、もうちょっと訓練に身を入れてもらった方が助かる」

 私の言葉にニーナが驚いた表情になった。でも、私からすれば本当にそうなのだ。昔のどうでもいいことを気にされるより、訓練に集中して成績を上げてもらった方が何倍も嬉しい。私の評定が上がるし、班の能力も上がるで一石二鳥だからね。

「でも、女神様が私達家族をお赦しになるはずが……」

「私、そのラヴィーから加護のある子がいるからよろしくと頼まれているのだけれどね」

 私の言葉を聞いてもでもでもだってでうじうじと悩んでいるニーナにいらいらとしてきた。こうなれば、射撃練習はキャンセルで、しっかりと女神の考えを分からせてやる。

「来なさい。私とラヴィーがどう思っているかしっかりと分からせてあげる」

「は、はいっ!」

 手首をつかむと有無を言わせず連行した。行きつく先は私の部屋だ。押し込むようにニーナを部屋に入れると、後ろ手に扉を閉めた。

「あ、あの、一体何を?」

 何故か怯えた様子のニーナに首をかしげてしまう。私とラヴィーがどう思っているか分からせると言ったのだから、ラヴィーに会わせる以外はないと思うのだけれど。

 あ、その手段があると分かっていなければ困惑するか。

「ラヴィーに会わせてあげるだけだから気にしないで」

 流石にお昼寝程度にしておく予定だけれど、外行きの服を着たままで寝る訳にはいかないので脱いでハンガーにかけながら説明する。私が服を脱いでいることにニーナがさらに困ったような表情になっているのはどうしてだろうか。

「さ、来て」

 先にベッドに横になって隣をぽんぽんと示しながらニーナを呼ぶ。しかし、ニーナは相変わらず困ったような表情で動かない。

「ああ、もうめんどくさい」

「ひぃっ」

 腕をつかんで引きずり込むと小さく悲鳴を上げられた。解せぬ。

「ほら、すぐ終わるんだから大人しくしなさい」

 そのまま暴れられそうだったので、魔法を使ってすぐに眠りに落とした。そして、私も追いかけるように眠りに落ちる。

 その後、ラヴィーに会わせていろいろと分かってもらえた。けれど、私が立場を使って手籠めにしようとしているのだと思ったと言われたので、ニーナの目に私はどのように映っていたのだろう。周りへの影響がないといいんだけど。


今回の作中の名前について:日本では男性名として有名ですが、女性名です。


今週末も休出で更新できるか未定です。

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