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邪神さまの玩具  作者: 黒夜沙耶
士官学校編
35/52

準備と初対面

あけましておめでとうございます。

12月は更新できず申し訳ありませんでした。

「それで、明日から私はどこで訓練を行えばいいのですか?」

「うむ。この士官学校本校舎を使って訓練を行いなさい。半年間は新入生がいない状態だからな。どこをどう使っても問題ない」

 私の疑問に閣下は大盤振る舞いに近い回答をくれた。半年間は新入生がいないとは言っても、逆に言えば卒業する学年がまだ残っている時期ということだ。新入生用の教室に空きがあるとは思えないし、敷地内で自由に使える場所が多くあるとも思えない。

「この時期にそんなに空きがあるのですか?」

「今年だけだがね。ヨムラの事件の影響で軍も忙しくなってね。半人前といえ、貴重な魔法使いを投入しなければならなくなって卒業間近の学生を実地訓練という名目で引っ張り出したところだ。だから、その分のスペースが空いたのさ」

「そ、そうですか。それは何というか、先輩は大変ですね」

 私の言葉に閣下は苦笑いとも微笑みともとれる微妙な表情を浮かべた。

「そういえば、私の宿舎はあるのですか? 今は宮殿に泊まっているので、通うことになると宮殿からになりますが」

「そこは大丈夫よ。宿舎はいつでも空きがあるから」

 私の言葉にベレニケさんが笑顔で答えてくれた。内心胸をなでおろした。流石に通える距離でも宮殿から通うとあまりよろしくない気がするからね。

「……なら、訓練課程の最初だけわがままを言ってもいいですか?」

 悪いことを思いついた私はベレニケさんにちょっとしたお願いをした。できなくても問題ないけれど、できれば少し楽になる。その程度の仕掛けだ。



 宮殿に戻るとベアトが不在となっていたので、留守番のメイドさんに挨拶して荷物を回収してから宿舎に向かう。今晩まで宮殿に居てもよかったのだけれど、書類仕事をして訓練の準備をするには宿舎に来た方が何かと都合が良かったのだ。

 渡された資料に目を通すと、なかなかに扱いにくそうな相手だということが分かった。

 一番分かりやすく目を引いたのは、士官学校の受験年齢制限の上限に達している者。大抵は私の様に下限で入るため、この年齢で初受験して合格という話は聞いたことがない。ここまでわかりやすくはないが、他の人の資料にも何かしら問題のあることが示唆されている。

「……成果が出なくても不問にされる訳だ」

 成果が出ればそれはそれでよし。出なければ、成績不良で放逐できる。どっちに転んでも軍にとっては悪い話ではないだろう。

「政治的に問題になりそうな相手は最初から除けられているはずだよね。そうなると、この子たちは一般市民の出か」

 同期の入学生が教導して成果がでなかったので放逐しますという対象に政治的な問題を入れようとはしないはずだしね。

 こうなれば私も全力を出そう。何か思いがあって士官学校を志望したはずだ。ならば私はそれを助けようと思う。

「私のせいで放逐となったら申し訳なさすぎるしね」

資料から分かることだけでも把握しておけば訓練を決めるのに役立つかと思ったけれど、調査書の内容は私見が入っていたりして人となりを理解するくらいで止めておかないと変にバイアスが入りそうだ。

「うん。年齢が高いからマイナスに書かれているけれど、内容を読む限りではどこにでも居る年齢相応の女の子としか思えないね」

 年齢が上限に達しているだけで他は問題なさそうだ。学力も年齢相応だし、魔力操作も私のような例外を除けばうまい方だ。

「やっぱり、写真がないとイメージしにくい」

 資料は文字だけで証明写真のようなバストアップ写真はついていない。先入観を持たせないためになのだろうけれど、やりにくいのは否定できない。

 それでも仕事なので次の資料に目を通していく。

 ふむ。音楽家を志望していたけれど、音楽院へ入学できず士官学校へ入学したのか。変わり種で成績はあまり良くないけれど、性格は前向き。育てがいのある子だな。あ、同じ境遇がもう一人いた。こっちの子は成績も悪くはないけど、魔力量が少ないと。うん。魔力量なんて増やせるから問題ないね。

 この書類の子は、学業成績は上位だけれど体力が低く疾病の可能性あり、か。適切に治療して鍛えてやれば問題ないかな。

 ここまでの四人は不安なく指導できそうだ。

「うん? 特に問題なさそうなんだけど」

 残り三人のうち二人は親族に犯罪歴があるというもの。しかし、大叔父の娘の夫の兄とか大叔母の息子の嫁の妹とか、それは他人と言っていいレベルじゃないかな。士官学校だからそういうのに注意が必要になるのも分からなくはないけれど、やりすぎだと思わなくもない。それ以外は学力魔力ともに平均より少し上。性格が分からないけれど、合格になっているから悪くはないだろう。

 最後の一人は評価に困った。学科試験は理系分野が完璧で文系は平均より良い程度。魔力は並。問題になるような記述は一切見つからない。

「まあ、会ってから判断してもいいか。それにしても、個性的なメンバーの班ができたものだね」

 士官学校では生徒は八人一組の班を形成して学業だけでなく生活まで共にする。大体は訓練課程で決まった班をそのまま持ち越すけれど、脱落者が出た場合は適宜に組み替えられる。つまり、私が意図しない限りはこの班員で過ごしていくことになる。

「最初は魔力量の拡大と治癒魔法からかな」

 アンジュの訓練内容を思い出しながら促成教育には何が必要か考えてベッドに入ると、すとんと意識が落ちて行った。



「随分と久しぶりな気がする」

 気が付くと神々の世界に立っていた。しかも、リリィがいない。一人だけで呼ばれたのなんて何年ぶりか思い出せない。

「来ましたか。急に呼んでもうわけありません」

「明日になる前に伝えたいことがありましたから」

 ラヴィーとユキという珍しい組み合わせだ。ユキはいつもと同じ和装だけれど、ラヴィーはリリィが来た日の時のように武装している。手持ち式ガトリングは口径三〇ミリの対物版で、腰から左右の太ももの後ろにぶら下げるようにミサイルパックを一本ずつ着けている。対戦車仕様かな?

 それに加えて、目を引くようにラヴィーの両肩の近くに輝きながら浮かぶ結晶のようなものがあった。

「何、それ」

「私の戦闘支援AIのベルーガと演算支援AIのティグリスです。ただお話をするだけでは申し訳ないので、限定的に制限解除した私の戦闘能力で訓練もしておこうと思いまして」

 話をするだけでもいいので、物騒すぎる兵装での訓練は止めてください。そう言えればいいのだけれど、女神の考えることだし拒否はできないだろうなという諦めがある。

「私には拳銃しかないみたいですけど?」

「ええ。それで狙撃するか接近して撃つかの二択ですね」

 私が装備を確認して言ったことに対してもラヴィーは笑顔だ。ユキも微笑みを崩さない。

 全体的に女神は好戦的な気がしてならない。

「射程が違いすぎません?」

「訓練ですから」

 暖簾に腕押し。糠に釘。何を言っても無駄そうだ。諦めてため息を漏らすと、ラヴィーのガトリングの銃身が回転し始めていた。

『ミンチにしてハンバーグだ!』

 結晶の物騒な声と共に発射された弾丸が私をかすめるようにして地面を耕した。確かにこの直撃を受けたら人体なんてミンチより酷い状態だろう。

「さあ、訓練開始です」

「洒落にならないんですけど!」

 ラヴィーの姿が瞬いたと思うと、二百メートルほど離れた位置に移動していた。これでは一方的に撃たれてしまう。回避しつつ接近しないとこちらの攻撃が届かない。

「とりあえず、一発は……」

 銃身の精度的にギリギリ狙える距離なのでとりあえず狙撃してみる。ラヴィーは銃口をこちらに向けていないので、初手はくれるということだろう。

『右に三、後ろに一です』

 引き金に力を入れた瞬間、結晶のもう一つが何かを言ったのが微かに聞こえた。抑揚が薄いせいで特に気にもせずにそのまま引き金をひき、弾丸が発射される。

「嘘でしょ」

 数歩動いただけで、ラヴィーは私の狙いが分かっていたかのように銃弾を回避した。いや、動き始めが私が引き金をひくより早かった。となると、未来予測に近い精度でシミュレートしたということか。

「流石は実戦経験済みの神様。相手にとって不足はないか」

 口ではカッコいいことを言いつつも、実際は銃撃を避けるので手一杯なのだが。どんどん壁際に誘導されているし、多分壁までたどり着いてしまったら負けが確定する。

 手持ち式の三連装ガトリングを軽々と振り回しながらこちらを追い詰めてくる姿はある意味悪夢に近い。しかも時折ペットボトルくらいの小型ミサイルが飛んでくる。囮だったり、信管を抜いて打撃用だったり、瞬時の対応が求められるので気を抜くこともできない。

技術神のはずなのに戦闘経験の差なのか、手も足も出ずに追い詰められる。

「っ! しまった!」

「チェックですね」

 対応の選択ミスで注意がそれた瞬間、ラヴィーが一気に距離を詰めて大型ナイフを私の喉元に突きつけた。

「いくら体を鍛えてスキルを磨こうとも、最後に動きを決めるのは自分自身。正しい判断ができなければ戦場では死が待っています。軍人になるのであれば忘れないでいてください」

 ナイフをしまいながらラヴィーが諭すように言う。実戦経験のせいか、非常に重い言葉に感じる。確かに私は割と無茶をしながら切り抜けてきた自覚がある。そんな私が教官になってしまうことへのアドバイスなのだろう。

「ふぅ。これで訓練終了です。お疲れ様でした」

「最後になりますが、話したいことは私とラヴィーが加護を与えている人間がいるということです。よろしくお願いしますね」

「だから、タイミングおかしいって! 主目的忘れてたよね?」

 ラヴィーに送還される直前、ユキが思い出したように目的を伝えてきた。半分送還されながら言った言葉にラヴィーもユキもバツの悪そうな表情になったけれど、それだけだ。

 完全に忘れていた自分に言う権利があるか微妙だけど、戦闘訓練だけで終わった気になるって女神達は戦闘狂の気があるのではないかと本気で思う。



「準備はいいかね?」

「はい。問題ありません」

 閣下と一緒に集合場所となっている教室に入ると既に七人全員が揃っていた。集合時間として指定された時間ちょうどに入ったのだから当然か。そのまま一緒に教壇のあたりに進んでいく。

 制服を着た私が校長と一緒に前に立ったことに疑問をぶつけるような視線が向けられる。それに対抗するようにゆっくりと全員の顔を見回しながら、後で名前と一致させやすいように容貌を確認する。

 全員規則通りに肩より下に髪を伸ばしているけれど、胸までだったり腰までだったり長さはまちまちだ。私としては万が一の手当ての時の衛生面等を考えて短く統一したいのだけれど、大昔に決められた古い規則が生きているためにどうしようもない。それに、女神達の趣味で私が一番伸ばしているので何も言えない。

「まずは入学試験合格おめでとう。君たちは今日から入学のため訓練課程を開始してもらうことになる。……隣にいるのはユリア・フィーニス君だ。同期生だが今回の訓練課程で教官を務める」

「ユリア・フィーニスです。同期ですが、今回の訓練教官を命じられました。……信じられないと思いますが、私の指示に従っていただけるなら成果は保証します」

 閣下の紹介に合わせて名乗って自信があるように堂々と胸を張った。実際は自信なんてなくておどおどとしているけれど、自信ない人に従おうなんて思わないだろうからはったりをきかせるのも大切だ。

 顔色を窺うと納得したような表情と訝しむような表情に分かれたけれど、五対二で大勢は納得してもらえたようだ。

「何か言いたいことがあるものはいるかね?」

「よろしいでしょうか」

 閣下の言葉に手を挙げたのは、金髪碧眼のヨーロッパ人と聞いてイメージする典型的な容姿の子だった。納得側に居たはずなのに何を言おうとするのか内心ビクビクする。

「何かね? ああ、まだ自己紹介すらまだなのだ、一応名乗ってから言うように」

「オティーリエです。あの、教官は『名誉の記憶』を授与されたあのユリア・フィーニスなのでしょうか?」

「そうです。今は式典でもないので略章しかつけていませんが、これが証拠です」

 私が制服に着けている略章を示すと訝しむ側だった二人も納得の表情になっていた。こういう時に権威というのは非常に役に立つ。これを分かって質問したなら、オティーリエは私を手助けする意図で質問してくれたのだろう。いつかお礼をしなくてはいけないな。

 そして、オティーリエは受験年限上限で合格した人物だ。このような気配りができるなら何か理由があって今まで受験できなかっただけなのだろう。病気療養が終わってやっと受験できたとか。

 私の視線に気づいたのか、オティーリエはうっすらと笑みを浮かべて頷いてから着席した。やっぱりいい人だ。

「……他に言いたいことがあるものはいるかね?」

 閣下が教室を見ても誰も手を上げない。これで私への疑問がなくなったと判断したのか、閣下は私を見て一言言い置いてから退室した。

「では、あとは同期の諸君に任せよう」

 なんとなくお見合いの仲人さんの様な言葉だ。前も今も人生でそんな経験はないんだけどさ。

「さて、では話を始めましょう。ここにいる八名が士官学校に居る間の班になります。ですから、まずは自己紹介から始めましょうか」

できるだけ優しい笑顔を浮かべたつもりで友好的に話しかけた。

12月は心が折られていました。やっと回復してきました。


写真が多い、ある2019年カレンダーをいただきました。

艦これをプレイしている人としては非常に嬉しいものでした。

私はまだ冬イベに出撃すらしていないんですけどね。

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