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邪神さまの玩具  作者: 黒夜沙耶
士官学校編
33/52

一日目の夜

 しっかりと手入れのされた街路を馬車が進む。馬車から外を見ると、数階建ての建物や商店が立ち並び活気に満ちているのが見えた。

「前回はばたばたとしていて街を見る余裕がありませんでしたけど、やはり活気に満ちていますね」

「ええ。ここは一番の大通りですからね」

 アルフレードさんが私の疑問に答えてくれるので、そのまま窓から見える物でよく分からないものについて質問しながら馬車を楽しんだ。

 しばらくすると、馬車は宮殿の正門から敷地内へ入っていった。正門が開いて馬車が入っていくという光景を見て観光客らしい人が盛り上がっているのがちらりと見える。

「正面につけます。ベアトリーチェ様もこの馬車にお気づきになられればすぐにいらっしゃると思いますよ」

「いえ、もうこちらに向かっているようですよ」

 ベアトの気配は覚えているので、この距離まで来れば間違えようがない。本当は術式で探知をすればより正確なのだけれど、探知の術式はどうしても使用者の位置も気づかれてしまうのでどうしても必要な時を除いて使わないようにしている。宮殿で探知とかスパイ行為一歩手前くらいの危険な行為らしいし。実はこの気配探知も魔力で感知しているらしいのである意味では魔法で感知しているようなものなのだけれど、それを知っているのはアンジュと弟子の私くらいのものなので感覚が鋭敏で押し通せる。

 馬車が止まり、扉が開かれても私はすぐに降りることはせずに時間調整をしながらタイミングを見計らっていた。なぜなら、室内をおもいっきり走ってくるベアトが扉を開けた瞬間に一番劇的に会えるシチュエーションを準備するのも悪くはないと思ったからだ。

 あと数秒で扉にたどり着くというタイミングで馬車から降り、ベアトが開いた扉からこちらを見る瞬間に魔力操作で風を吹かせて自分の髪をなびかせる。今の光の具合と合わせてとてつもなく印象的な光景が出来上がったはずだ。

 うん。こんな悪乗りをしてしまうようになったのも、邪神に弄ばれているからだな。

 自分のやったことに開き直ると、こちらに驚いた表情を向けているベアトに優しく笑いかける。

「元気そうで良かった」

「お姉さまっ!」

 走ってきたベアトが思いっきり跳んで私に抱き着こうとしたのが理解できた。

 普段は魔法で自分の体を防護しているのだけれど、その状態で突っ込んでくるベアトを受け止めると怪我をさせかねないため魔法を解除して自分の体の性能のみで受け止める。

 膝をうまく使って衝撃を逃がしたものの、右足が半歩下がってしまった。

「式典の後に宮殿を出てから一月も経っていないのに、随分と久しぶりの再会のようなありさまね」

「だって、お姉さまに会いたかったのですもの」

 私が言った通りの呼び方にしているので、頭を撫でてやる。ほとんど身長が同じだから何とも言えない気分だけれど、ベアトの要求するご褒美なので仕方ない。

「ちゃんと私が言った通り、人前では年齢相応の呼び方にしているのですね。偉いですよ」

「えへへ」

 十を超えてからも私を「お姉ちゃん」と呼ぶ癖をつけているといつかやらかすかもしれないと思ったので、せめて人前では「お姉さま」と呼んで貰うことにしていた。

「今日はずっと一緒なんですからね!」

「はいはい。まだ日は出ているのですから落ち着いてください」

 私の手を引くベアトに笑いながらついていく。こういうやり取りは私が言葉遣いに気を付けて淑女らしくしているものの、子供のいる親の休日のようで微笑ましく感じる。

「今日はお父様もお母様もいないの」

「そうなの? じゃあ、私がしっかりしないとね」

 そういう言葉は前世の学生時代に聞いてみたかったなと思いつつ、保護者としてちゃんとしないといけないと気を引き締めた。



 まあ、気を引き締めてもベアトが一人で居ても大丈夫な宮殿ですから、使用人の皆さんのおかげですることは特には無かったんですけどね。

 ティータイムから食事までいたせりつくせりで歓待されていただけでした。その間やったことといえばベアトと遊びながら勉強をみたくらいで、非常に申し訳ない気持ちになる。

 しかし、この歓待のされ具合からすると、なんとなく陛下は私にベアトの近くにいてもらいたいように感じる。私が居れば病気になっても治療できるし、年齢の近い同性なので護衛役にも使えて便利だろう。

 問題は私が所属するのが軍で、護衛官は警察の管轄ということだろうか。

 アルフレードさんとモンティさんからは軍の特殊部隊のような気配を感じるけれど、役職的に所属は警察だろうと思う。

 うん。こんなことを考えて現実逃避するのは止めよう。

 私の目前には浴場へ続く扉があり、そこへ私を引っ張っていくベアトがいる。前回は病み上がりとかいろいろ理由をつけて一緒に入浴だけは避けていたものの、今回は逃げられそうにない。

 わくわくと瞳を輝かせるベアトを悲しませることもしなくないし。とか考えていたら、もう下着まで脱いだ全裸になっていた。女神の加護があることを祈っていくしかないかな。

 ……もしかして邪神の呪いとか発動していないよね?

「お姉ちゃん、早く早く!」

「湯船に入る前に体を洗うところからですよ」

「はーい」

 元気なベアトが湯船に入る前に体を洗わせる。サウナとかいろいろあるけれど、私はまずは体を洗うことを習慣にしているのでベアトにもやらせるのだ。反発されるかと思ったけれど、素直に体を洗ってくれて安心する。

 体を洗うベアトを横目に、思わず体を洗う振りをして自分の胸をぺたぺたと触ってしまった。体の全てをさらけ出す浴場という空間が如実に成長を比べてしまうのだ。ベアトの胸にはわずかながらも膨らみがあるのに、私の胸はまったいらのままだ。肉がついているから洗濯板ではないけれど、それが逆に悔しい。私より年下のベアトの方が女の子らしい体になっているのはどういうことだろうか。

 私の筋肉量は筋肉をつけすぎると身長が伸びないという理由で瑞穂とユキに管理されている。何事も適度がよいということで、訓練に支障がない程度についてはいるものの、鋼みたいな筋肉はつけていない。

 なので、体は女性らしい形になるはずなのだけれど、ベアトと比べてしまうと微塵も見えやしない。身長だってブランに子供形態にされる前の夢では高身長の部類だったのに、今は同年齢では小さいほうだ。

 確かに、元男としては性別を感じない方がありがたいはありがたいのだけれど、せめて身長は伸びて欲しい。それ以外でも私はペン先が擦り減らない環境に優しい仕様だ。髪だけ伸びて他の毛が生えてこないってのも気になるものなのだ。

「お姉ちゃん?」

「いえ、何でもないの」

 私の態度に気付いたらしいベアトをごまかすように体と髪を洗うと、髪をまとめてから温浴の浴槽に身を沈める。すると、ベアトも私を追いかけるように浴槽に入ってきた。

 これだけ広いのに私の体に身を預けるようにして入るのは甘えられているのだろうか。スキンシップの範疇の判断基準が瑞穂とユキしかない私としては判断に困る。

 前世に妹でもいればまた違ったかもしれないけれど、次元を一個下にしないといなかったからそれもどうにもならないんだよね。

 そんなことを考えながら水面に漂い始めたベアトの髪をちゃんとまとめてあげる。温泉じゃないからそんなに痛まないとは思うけれど、こう面倒を見てあげるのはお姉さんっぽいかな。

 どことなく猫っぽくすり寄ってくるベアトに構っていると、二人とものぼせかけたので慌てて外にでたのだった。


「やっぱりクイーンサイズって大きいわ」

 魔力の熱変換で一気に髪を乾かして、メイドさんたちに身だしなみを整えられているベアトの恨みがましい視線に気づかないふりをしながら先に部屋に戻ってきたけれど、寝室の感想はそれだった。

 同じ部屋どころか同じベッドで寝ることになったのでベアトのいない間に日課を済ませてしまいたかったのだけれど、やはりこの巨大さには慣れない。

「ま、それでもベアトが来るまでに終わらせておかないと」

 ベッドの端に腰かけると、ヨムラ以降入浴後眠る前に行っている習慣を行う。瞑想して私の中に入った銀色の存在に話しかけるのだけれど、今まで一度も返事がない。まだ胸の奥にいることは感じられるので消滅したとか出て行ったとかではないことは分かる。

「今日も返事なしか」

 ちょっとがっかりしながら立ち上がると、ちょうどばたばたと足音がしたと同時に扉を開けてベアトが飛び込んできた。

「お姉ちゃん! 置いていくなんてひどい!」

「ごめんなさい。ちょっと、やることがあったから」

 私にとびついてきたベアトに押し倒されるようにベッドに倒れ込む。柔らかいので痛くはないし、ベアトも軽いのでダメージはない。

「今夜はずっと一緒なんですから!」

「はいはい。一緒に寝ますから落ち着きなさい」

 ベアトに抱き着かれながら同じベッドに入っていると、ベアトをこの先どう扱うかを悩んでしまう。

 私の腕の中で寝息をたてるベアトはとてつもなく可愛らしく、慕ってくれるのも悪い気はしない。むしろ妹ができたようでうれしい。

 しかし、なんとなくだけれどベアトは私にべったりとし過ぎていて依存しているのではないかと思う時がある。姉として慕ってくれる分には何の問題もないのだけれど、もし私を一番に置いてしまうなら距離を置くべき時が来るのかもしれない。

 そんなことを考えていると、スーッと眠りに落ちていた。


寒暖のせいか体の調子が低空飛行しています。こんな時治癒魔法が現実にあればいいなって思いますね。


気付いている方は多いと思いますが、アルフレードを英語にするとアルフレッドです。

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