神々の座にて
神々の座。そこにあるとある場所に、かの世界に玩具を送り込んだ七柱の神々が集まっていた。
もっとも、集まっていたのは半分の4柱だけであったが。
「まあ、半分しかいないのはこっちの仕事優先だから仕方ない。でも、期待はしてなかったけど、もうちょっと何とかならないのかね」
集まった神々の体たらくを見て、自称邪神は顔をしかめた。
長い髪を緩く結った少女の外見をした1柱は一心不乱にアイスを口に運び、妖艶な美女の見た目をした1柱は椅子に身を預けるようにしながら涎をたらして眠っていた。聖女のような見た目の1柱だけは、紅茶を穏やかに啜っていて比較的まともに見えた。
「僕にそういうのを求められても困る。一番若いんだからさ」
「まず、破壊神なら破壊神らしくしろ」
「大丈夫だって。最近は破壊神ってより、商売繁盛なんかの神様にされてるから問題ない」
アイスを口に運ぶ手を止めて不服そうな表情を向けた神に苦言を呈すも暖簾に腕押しである。しかし、邪神は深いため息を吐いた。
「クロちゃんさぁ、零落しかけってわかってる?」
クロと呼ばれた少女神が不服そうにスプーンを噛んだのを見て邪神は頭が痛くなった。
「こっちの世界はすでにハイテクの機械任せの戦争で、あっちの世界もそろそろ物量戦争の時代よ? 何もしないでも戦士が信仰をくれる時代じゃないの。商売繁盛ってのも、古くからいるそっちのが強いのは分かってるでしょ」
視線で示した先には涎を垂らして寝ていた女神がいた。
「ん。でも、私だって最初は繁栄と戦の女神だったしねぇ。いつの間にやら私の気質にあったものに変えてもらえたから助かっただけだしねぇ」
いつから起きていたのか、涎を袖で拭うと話の中心になった瞬間目を開けて話し始めた。
そして、話し終わると、持っていた一升瓶をラッパ飲みする。一気に半分ほどを胃袋に落とすと、酒臭いげっぷをした。
「酒の女神、商売繁栄の女神、あとは孤児の母たる守護の女神だったっけ?」
「そうそう。お酒は飲むの大好きだから、美味しいお酒を造ってくれる人にありがとーって言いに行ってたらいつの間にか貰ってて、孤児の子たちが震えてるの見るたびにうちの子にしに行ってたらそう言われてたんだよね。商売繁盛はもとからだからあんまりわかってないけど」
「ブラン、お前はクロをもうちょっと面倒見てやって。あと普段もしゃっきりしてくれ」
のほほんとしながら再び酒をあおる女神-ブランに、邪神は頭が痛くなった。
四六時中酔っているような女神であるが、あっちの世界での行いは7柱の中でも善性と言い切れるものだ。遊び場でも止まり木でも好きにしてよいというルールの中で、好き勝手した結果として実利を得ているだけに何も言えないのだが、せめて仕事場ではまともにしてもらいたいというのが邪神の心境である。
大御所の神々から7柱のまとめ役として小言をネチネチと言われるのは邪神なのだ。
「それはソレとしてさぁ。最近、邪神ムーブしてないみたいだねぇ。どっちかって言うと私寄り?」
酔っ払い特有の話題が飛ぶ会話により、ブランが話題に挙げたのは邪神であった。
「な、なんのことでしょう」
「ほらー。目が泳いでる。邪神なんて自称しても、本質的に善良な女神なんだから無理だって分かってたじゃない」
けらけらと笑うブランに対し、目が泳いで挙動不審な邪神。われ関せずとずっとティータイムを楽しんでいた最後の1柱がそれを見て楽しげに嗤う。
「我らが総統たるアンジュさんが邪神なんて名乗るのも、優等生が不良に憧れるみたいなものでしょう? 少し真似たぐらいで本質は変わりませんよ」
「ディラエ、私はそんな優等生じゃないんだ。下手な風評はやめてくれ」
外見通り聖女じみた笑顔で笑うディラエに邪神、アンジュは胃を押さえて恨みがましい視線を向ける。
しかし、その言葉に反応したのは、溶けかけたアイスを食べることに熱中していたクロであった。
「でも、ブランみたいな聖母ムーブをしてるんでしょ? 僕たちに一度も会わせもしないくらい囲ってるみたいだし」
「そのようですね。私は送り込んだ時に助力しただけですが、その時も玩具と言っていたわりに深入りしていましたよ」
アンジュはしれっと秘密をばらしたディラエをにらみつけるが、先に口を開いたのはブランだった。
「やっぱりアンジュちゃんは、TSさせた女の子に光源氏してるの? 自分の好みに調教して、どこぞの男にがぶっと食べさせるとか」
「……ていっ」
「痛いっ」
無言のデコピンに涙目になっておでこを押さえるはめになった。ブランがアンジュを涙目で見ると、しぶしぶアンジュも口を開いた。
「私がそんなつまらないことをする訳ないでしょうが。養殖行為をして得られたものほどつまらないものはないと思うしね」
「じゃあ、私達も会わせてくれるんだよね?」
「そ、それは……」
胸を張って答えたことへのどうにもならない切り返しにアンジュも口ごもる。しかし、ディラエがにやにやしているのに気が付くとやけ気味になる。
「分かった。誰でも連れていく。でも、連れてくからには、私と同じことをしてもらうからな」
「分かったよ~。アンジュちゃんなら悪いことはしてないだろうしねぇ」
「……ありがと」
邪神としての信頼のなさにアンジュは内心複雑となったが、他の神格の協力があればあの子の母親との盟約を果たすに十分だとの思いから微笑みを浮かべた。
「あなたがそう言われてそんな反応をするなんて珍しいこともあるものですね」
「私にも思うところがあるってだけよ。で、ブランは分かったけれど、クロとディラエはどうする? 一緒に行く?」
「ブランが行くから僕も行くよ」
アイスを食べ終わってスプーンをくわえていたクロは元気よく即答した。その姿はとても子供っぽい。一方ディラエは静かに紅茶を味わってから楽しげに口を開いた。
「私もいずれお会いしようと思います。でも、それは今ではありません。ブランとクロだけでも初対面の人間には辛いでしょうから」
気遣いのできるまともな対応に他3柱も納得の表情を浮かべた。
「そうか。じゃあ、この二人だけ連れてくね」
「はい。ここの片づけは私がしておきますから」
3柱が出て行き、一人残った場所でディラエは嬉しそうにほほ笑んでいた。
「アンジュさんがあそこまで正直になるなんて。昔に戻ったみたい。私が言うのもおかしいけれど、運命の巡り合わせに感謝かしら」
残っている紅茶を味わう間、表情が微笑みが消えることはなかった。
痛み止めのおかげでした。次は週末を目標です。