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邪神さまの玩具  作者: 黒夜沙耶
幼少期編
25/52

後始末

短めになります。

「落下かぁ。この高さなら怪我もしないけど、どうにかならなかったのかなぁ」

 雑に神域から送り返された先は建物の屋根より高い位置だった。移動する前にいた建物の外に放り出されるとさすがにびっくりする。

 四肢を強化して衝撃に備えようとすると、視界の端で私の影が建物に落ちたのが見えた。

 次の瞬間、私は柔らかい何かに包まれていた。

「大丈夫か?」

「うん。大丈夫。ありがとう」

 私を拾い上げて背中に乗せたのはリリィだった。今いる場所から考えて、建物に落ちた影から跳んで、私を受け止めながら隣の建物の屋根に着地したのだろう。

「でも、どうやって来たの? ラヴィーに連れていかれる前は影に入ってなかったよね?」

 リリィはラヴィーにもふられてから設計図を見に行くまで私から付かず離れずで歩いていたし、ラヴィーに連れていかれた時は部屋の前でしっぽを振っていたはずだ。

「短距離であれば影から影へと渡ることができる。お前が外にいると感じた途端に影へ飛び込み出るタイミングを計っていたのだ」

「ありがとう」

 背中から頭を撫でるとリリィは気持ちよさげな声を漏らした。

「それじゃあ、ソフィアのところに行こうか。多分、ひどいことになってるだろうし」

 女神にあそこまで言われて落ち着いていたら、それはそれで恐ろしい。とりあえずはとりなして裁定待ちに持って行けたことを伝えないといけない。



「うわぁ……。空気最悪だ」

 淑女っぽい口調を意識してもどうにもならないぐらい、部屋の中の様子は最悪だった。

 あちらにいた時間と外からの移動時間を合わせて10分にもならないのに、予想以上にギスギスとした空気になっている。

 バカは自分が何をやったのか理解したくないのか愚かなことになっているし、ソフィア達まともな技術者はいらいらした様子で設計図の復元に取り組んでいた。

 できることなら見なかったことにして、今すぐ引き返したい。そして陛下に手紙を書いて自分の手から離したい。

「でも、そうもいかないのですから仕方ない」

 大丈夫なのかと目で訴えてくるリリィに苦笑いで答えると、意を決して部屋の中へ踏み込んだ。

「皆さん、ただいま戻りました。ご心配をおかけして申し訳ありません」

 ユキに仕込まれている礼法で令嬢のように優雅に礼をした。ソフィアは数秒ぽかんと呆けた表情を浮かべてから、私だと気付いて安堵の表情で駆け寄ってきた。

「ユリアちゃん大丈夫でしたか?」

「ええ、大丈夫です。アレについても、ひとまずはラヴィーに判断を待ってもらえるようにお願いできましたから大丈夫ですよ」

 後半はソフィアだけでなく部屋の中の技術者に聞こえるように少し大きめの声で話す。それでほっとした空気が流れたけれど、バカが妙な動きをしかけたので笑顔に黒いものが混じるようにしながら追撃する。

「ラヴィーも本当に人間に手を貸すのを止めていいのか悩んでいたので、私が陛下にお手紙を書いてその返事次第にしてくれたのです。ええ。それまではこのペルセウスのサンダルへ手を貸さないだけで他は今のままですが、陛下のお答え次第で人間と神の縁は切れます」

「ユ、ユリアちゃん、それは……」

「本当の事です。ラヴィーもできれば縁を切りたくはないけれど、帝国の意思がそうであるなら仕方ないと」

 私の言葉にソフィアだけでなく、老技術者達もざわざわとした

「神々の認識としては、帝国に雇われている官職の技術者があそこまでの態度で言ったのだから帝国の意思なのだろうという認識です」

 ちょっとだけ盛って話を伝える。完全に間違ったことは言っていないし問題はないはずだ。これでバカの風当たりが強くなっても自業自得なので別に構わないし。

「た、確かに帝国はラヴィー様の信仰の中心だけど、そこまでの判断を……」

「いや、帝国の初期には皇帝陛下が信仰の中心でもあった。神々はその時代と同じく今の時代を見ているのだろう。だから、帝国の判断であるなら信仰についての決断と思われたはずだ」

 ソフィアが狼狽して口にしたことを老技術者が遠くを懐かしむようにしながら否定した。

 しかし、やっぱり知れば知るほどローマだな。ポンティフィクス・マクシムスとして宗教にも最高の役職でいたのがローマ皇帝だし。

 そんなことを考えていると、ソフィアと老技術者が目配せで何か意思疎通をしていた。老技術者が小さく頷いたのを見てソフィアが口を開く。

「私たちは準備ができ次第帝都に戻ろうと思います。当事者として報告しなければならないですし、このままここに居ると更に悪いことになりそうな気もしますので」

「分かりました。できれば空を飛ぶところを近くで見せてもらいたかったですけど、残念です」

 ソフィアの視線からあのバカが追加でやらかす心配をしているのが分かったので、私としては実際に飛ぶところを見れなかったのが残念だと伝えるくらいしかできることはない。実際、私の術式に変更しただけでも機能は向上しただろうし。

「私も残念です。ユリアちゃんが居てくれればもう何回か飛行実験ができたのに」

 ソフィアの言葉に一瞬うるっときたけれど、後半を聞いてがくっときた。当然と言えば当然かもしれないけれど、もうちょっと言い方に気を付けてほしい。

 そう思った時、ちょっとした悪戯心がわくわくした。少しくらい意趣返ししても罰は当たらないと思うんだ。

「あの、ちょっと内緒話してもいいですか?」

「いいけれど、どうしたの?」

 ソフィアを少し前かがみにさせて耳元に口を近づけると老技術者には聞こえないように囁いた。

「隅の余白に書いた術式は私が組んだものですから、大事に使ってくださいね」

 驚いた様子のソフィアに対して口の前で指をたてて悪戯っぽく笑って見せると、陛下に手紙を書くために足早に退室したのだった。


私の夏休みは9月最終週です。つまり、そこまでは夏。


という理屈は通りませんよね……。

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