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邪神さまの玩具  作者: 黒夜沙耶
幼少期編
23/52

工房訪問後

更新の間があいて申し訳ありません。

言い訳はしません。

「でも、この設計って最適解ではないよね?」

「そうですね。ある物を改良した訳なので、根本的なブレイクスルーは仕込んでいませんから」

 赤くなった設計図を見ながら思ったことを口にするとラヴィーは即答してくれた。妥当といえば妥当である。

 航空史を見ればレシプロのプロペラ機からターボプロップへ換装した機体はあるけれど、ターボプロップはジェットエンジンの一種なのだ。レシプロからジェットへ変わる以外でも複葉機から単葉機へ進化したように形状すら求められる機能と技術力向上で変化するものだ。現在の設計を手直ししたとしても、それが数年先でも通用する完成形とは限らないのである。

「私としても見たものに即座に最適解を提示できるようなものではないので、発展形を提示するには少し時間をいただかないといけませんね」

「そうなんだ。神様ってなるともっと超常的になるのかと思ってたよ」

 私の言葉にラヴィーは苦笑いを浮かべるだけで何も言わなかった。

「でも、これで改良したってソフィアに胸を張って言えるようにはなったかな」

「性能を向上させたのは事実ですから。これを理解して自分たちの技術として取り込めるかは別ですけどね」

 ラヴィーの言葉でソフィアを呼ぼうとしかけて、あることに気付いて動きを止めた。

「……今回は飛行用の脚部装置だった訳だけど、もしかしてやろうとすれば陸上用とか水上用とかも設計できるかな?」

「多分できると思いますよ。基本設計を流用して強度調整と術式の交換をすればすぐに動くものはできるでしょう。性能はお察しですけど」

「じゃあ、専用に開発すればいい性能のも作れる?」

「それは当然です」

 それは良かった。これで陸海空揃ったフェニックスオーダーの設立も夢じゃない。目標、いや野望が一つできたな。

「士官学校に入学したら研究してみようかな」

「もうすぐそんな歳になるんですね。でも、それより先に私が完成させると思いますけどね」

 ムキになったようなラヴィーの態度が微笑ましい。

「私が研究するより先に完成してたら、その時は運用を考えるよ」

「ふっふん。最初から運用を考えていいんですよ?」

 子供っぽく胸を張るラヴィーにはいはいと軽く返事をしながら、今度こそソフィアたち技術者を呼ぶべく結界を解除する。

 偽装していたから私たちの動きと会話は理解されておらず、ただ設計図を見て遊んでいたように見えているだろう。それが解除に合わせて技術者の方を向いている姿になれば驚きもするようで、少し離れているにも関わらず息をのんだ気配が伝わってきた。

「終わりました。少しばかりお礼として手を入れさせていただきました。どうぞ、役立ててください」

 ラヴィーの言葉に技師たちがざわざわとしたのち、ソフィアと老紳士が進み出て深々と頭を下げた。

「ラヴィー様、御慈悲に感謝いたします」

「変わらぬ信仰を捧げることを誓います」

 敬意を捧げられたけれどラヴィーは気にすることなく微笑んだだけだった。しかも、今まで見た中で一番いい笑顔だ。

「そんなに堅苦しくしなくていいです。もっと技術の発展のために頑張ってくださいね」

 その言葉に二人はさらに頭を下げる。ラヴィーは諦めたのか少しだけ笑顔が曇ったけれど、頑張る孫を見る高齢者のような視線になっていた。きっと技術者が頑張る姿が好きなのだろう。そう思うとラヴィーが代用の体を準備してまで技術者の居る場所に来ることに納得できる。

 まあ、生まれを考えれば郷愁があるのかもしれないけれど。

「もうすぐ昼になります。よろしければご一緒にお食事などはいかがでしょうか?」

 ソフィアの申し出にラヴィーは確認するように私を見た。特に問題だとは思わなかったので小さく頷く。それを見てラヴィーは穏やかな声で答えてくれた。

「では、その言葉に甘えるとします。普段はユキが作ってくれる食事ばかりですから、外の食事というものも楽しみです」

「女神さまの料理には敵いませんが、心は込めさせていただきます」

 ユキに勝つのは無理だろう。現代日本基準で目指す味を理解していて、技術を直々に学んでいる私でも足元に及ばない師匠なのだ。

 でも、心を込めてという部分で嬉しそうにしているから楽しみというのは本当だろう。

「技術より心を尽くしたものの方が良い時もあるのです」

 ラヴィーの言葉でソフィアが涙ぐんでいた。あの返しならしかたない。

「で、では、ご案内いたします」

 設計図を精査しようともせずに食事に行こうとする技術者たちに素朴な疑問が浮かんだ。近くにいた老紳士の袖を引いて問いかける。

「精査しなくていいの?」

「ええ。ぱっと見ただけでも私達では理解するのに時間がかかると分かる代物です。じっくりと時間をかけて理解させていただきますよ」

 笑いながら言われたことに納得する。確かに技術を解析して理解するには時間がかかる。表面上の模倣なら簡単だが、意図や理由を理解するのは難しい。そして、その理解ができなければ技術を自分のものにしたとはいえないのだ。

「ん? あれは……」

 会話の流れから設計図の置かれた方を何気なく見ると、若い男性技術者が設計図を手に取ろうとしているところだった。それに妙な違和感を覚えて注意を向けると、その男は設計図に細工をし始めた。

「アレは何やってるの?」

 私の言葉に全員の視線が設計図に向く。視線に気づいた男は設計図の表面を思いっきりこすりあげた。

「な、何をしているか!」

 老紳士が声を荒げた。当然だ。設計図へ書き込むのに使ったのは鉛筆なのだ。力を込めて擦れば見えなくなる部分も出てくる。

「こんなでまかせなど信じるか! こんな子供が設計図なんて読めるはずがない!」

 出てきた言葉から感じられるのは嫉妬。もしくは、自分を特別だと思っている人の見下しだろうか。

 要は自分ができないのに子供ができるはずがないという考えだ。

 ラヴィーが女神と言われていながらそう思えるのはたいしたものだ。本当にたいした馬鹿だ。大馬鹿だ。

 女神を騙っていると思っても、工房に来る少女を大事にするという伝統があるならこの対応は顰蹙をかうだけで何の利点もない。いや、この非難する冷え冷えとした視線に気づかずに自分の正しさを主張している馬鹿には理解できていないのだろう。

「もう私の助力は必要ないと?」

 冷え冷えとしたラヴィーの言葉。感情を制御しているというあっちでも聞いたことのない平坦な声が感情のない表情から紡がれる。

 それは完全に怒りを通り越した状態だと誰にでも理解できた。馬鹿一人を除いて。

「そうだ! 栄光ある技術者の仕事に子供が入る余裕などない!」

「そうですか。分かりました。私は二度と力を貸しません。自分たちで頑張りなさい」

 それは明確な最後通牒だった。裏付けるようにラヴィーの背後では魔力が渦を描き始めている。

 ラヴィーの背後の空間が来た時と同じように割れると、ラヴィーに引き込まれるように私もそちらに連れていかれた。

 空間が閉じる前に見えたのは、愕然とする人たちの表情。その中でも馬鹿の表情は見ていて滑稽どころか気の毒に思うくらい魂の抜けた表情になっていた。


晩夏の間に士官学校入学編まで行くのを目標に。

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