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邪神さまの玩具  作者: 黒夜沙耶
幼少期編
2/52

新しい生活のはじまり

 黒い髪の女性。その人の乳房から授乳されているところで意識が覚醒した。そこで自分が転生したのだと理解できた。何も説明なくこの状況になっていたら混乱で泣き叫ぶしかできなかっただろう。事前説明の大事さが実感できる。

「あら、もうお腹いっぱいなのかしら。私の赤ちゃん」

 黒い瞳に色白のきめ細かい肌。元の世界の東洋系という顔立ちの女性がこちらを見てほほ笑んだ。言葉の内容からしてこの人が母なのだろう。少しやつれているような様子が気になるが、美人といっていい。すると、この体の将来に期待が持てるというものである。自称邪神の言っていた最高の素材の身体というのも誇張ではなかったらしい。

 ただ、気になるのは母が若いことである。多分二十前だろう。この年齢での出産が普通であるなら、現代からは程遠いのだなと理解してしまった。

「おや、今日は随分とご機嫌なのだな」

「あら、あなた。今日はお早いのですね。演習の準備はよろしいのですか?」

「ああ。一士官にできることも限りがある。それに大尉殿から早く家に帰って子守を手伝えとの命令もいただいて、な」

軍装に身を包んだ父は金髪碧眼。絵に描いたような美男子である。時代が時代ならスターになれる逸材だろう。ただし、今は一山いくらの軍人のようだ。しかも話を盗み聞くと前線部隊の士官らしい。

 どうやら、この世界での家族生活は明るい生活を送れそうだと安堵してしまった。



 けれど、この世界での家族生活は長く続かなかった。

 冬になって、あっさりと母が逝った。出産からの回復が遅く、体調を崩しがちだったところに例年を上回る寒波が襲来。風邪から肺炎を発症して、入院先で眠るように死んでしまった。救いといえるなら、闘病が長引かなかった分、楽に逝けたということだけだろう。

「大丈夫だ。私はいるのだから」

 幼児が母親を探していると思ってか、声にならない声を出す私に父はそういいながら頭をなでてくれた。

 その父も次の春、私が一歳になる前に殉職した。

 父は私のこともあり、本来なら危険な軍務からは外れていたはずだった。しかし、国内で無政府主義者による武装テロが発生し、近隣の士官や予備役で即応が求められた。

 ちょうどそこに私を軍の託児所に預けて出張中の父がいて、一部隊を任された。そして、避難する市民の誘導と護衛をしていた時に、逃げ遅れた市民を守ろうとして無政府主義者の凶弾に倒れたらしい。守ろうとした市民が、母と同じくらいの年齢で生まれたばかりの幼児を抱いていたというのだから納得はした。

 きっと父は母と私の姿を見てしまったのだろう。だからと言って、実子である幼子を残して逝くことを肯定したくはないが。

 そして、私はこの世界で遺児となった。


「や、久しぶり。元気してた?」

「身体的には元気でしょうね」

 父の葬儀が終わり、軍の遺族向け孤児院に入った日の夜。眠ると邪神が現れた。

 初回と同じように足元には眠っている幼児の姿が見える。しかし、自分の体は幼児ではなく大人の物だった。しかも、下を見るのに工夫が必要になるものが胸にくっついている。

「こんな体を用意して、このタイミングで会いに来るというのはそういうことだと思ってよい、と?」

 その言葉に対して邪神が浮かべた表情は、苦虫を噛み潰したような、もしくは、バツの悪さをごまかすような渋面だった。そして、切り替えて聖女のようなまじめな表情を作る。

「まず、言っておく。私たちは何の干渉もしていない。この一年は、君のことを見ているだけだった」

「なら、この世界の両親が亡くなったのは偶然か何かとでも?」

「ああ。私たちは直接的に誰かを殺そうとしたことはないし、それはルール違反だ。……寧ろ私はルール違反ギリギリのところで助けようとした。信じてはもらえないかもしれないけどね」

 邪神を自称するくせに、あまりにも真摯な言葉に何も言えなかった。なんとなく、それが事実だと思えてしまったから。

「本来出産というのは非常に危険なものなのさ。平和で、医療が進んだ日本にいれば忘れてしまうことだけどね。出産時に出血で母子共に死亡の場合もあるし、産後に体力が戻らずに……っていう場合もある。命を繋ぐっていうのはそこまでのものなんだ」

 偽りない言葉を紡ぐ姿は邪神というより、女神というのが正しいような神々しさを持っていた。

「そして、今回に限って言うなら、彼女は愛が強すぎた。そう。自分の持つ命と才覚のすべてを捨てても良いと思うほどに」

「どういうことだ?」

「彼女は魔法使いとして超一流といってよい才覚を持っていた。だから、自分の胎に宿った命が自分を超える才覚を持っていると気付いた時には喜びと恐れを抱いた。大きな才能を持った子供は生まれる前に流れることが多いとされているからね」

「それがどうつながるんだ?」

 質問に邪神は答えない。ただ、呆れたような、ほほ笑んだような微妙な笑顔を浮かべてこちらを見ていた。

「彼女は自分の才覚を君に渡すことにしたのさ。すべての力を生まれてくる子のために胎に入れ、守りの加護をかけ続けた。だから、子供は無事に生まれた。その代償は、魔法を失うこと。魔法の才覚と命はほぼ同義だ。私が加護を与えても根本的な延命は無理だった。消えかけた炎は再び燃え上がることなく消えてしまった」

「つまり、自分の命を使って子供を生きながらえさせることを選んだと?」

「親とはそういうものさ。君にはまだわからないだろうけどね」

 慈愛の表情で邪神は笑った。やっぱり、目の前の存在は邪神というより女神という方が正しいような気がする。

「彼女は自分の命を燃やして君を守った。そして、最後の瞬間、君の将来を案じて神に祈った。だから、私は再び君の前に現れた」

「ますますもって、邪神というより女神そのものだな」

「最初の計画では母親から魔法の手ほどきを受けるはずだったが、私が直接教えてあげよう。しばらくは幼児の身体で寝ているだけで、できることもすることもないだろうからね」

 私の言葉を無視するように邪神は話し始めた。しかし、頬に赤みがあるのは照れているのかもしれない。そう思うと、目の前の存在が邪な存在であるとは全く思えなくなった。

「話を聞いているのかな?」

「はい。よろしくお願いしますね」

「気味の悪い奴め。そんな笑顔になるんじゃない」

 渋面を浮かべた邪神に尊いという気持ちが湧いてきた。身の上は幸福ではないのかもしれないが、頑張って生きてやるという気持ちが持てたのは間違いなくこの神様のおかげだ。

「まあ、いい。とにかく、私が教えるんだから計画以上に頑張ってもらうからな」

 邪神のその言葉とともに、こちらの世界での本格的な生活が始まったのだった。


 結論から言えば、孤児院での生活は悪くはなかった。 

 まず、軍の施設だけに幼児期の世話役はつきっきりで世話をしてくれた。これは軍というシステム上、市民を命を賭して守った軍人の遺児を粗雑に扱うことを許さなかったということと、軍人の遺児が孤児となって孤児院に入るような状況は早々起きないからであった。配偶者が先立ち、両親ともに親族がいないというのはレアケースで、軍務で寡婦となった者や遺児を引き受けた親族は国の手厚い支援と社会の支援で子供を扶養して生活するくらいは問題ないのである。

 どちらにしろ、国のために命を捧げた人物へ敬意を払い、残された者を支えるのが当然であるという考えがあるらしい。それで生活が支えられるのだから、受益者としてはいうことはない。

 そして、孤児院とはいえ軍施設である以上、軍基地に存在している。基地内で遊びまわってもそうそう怒られなかったし、代々の基地司令は『おじさま』と呼んで甘えさせてもらっている。基地司令や将校ともなると若くても初老といっていい年齢で、実の子供か孫のように可愛がってくれた。

「とは言っても、ここがどんな国で、ここがどこかも分かっていないんだけどね」

 片手で数え切れる年齢の子供に詳しいことを教えてくれる訳もなく、現在は文字の読み書きを教えられているくらいである。国名は帝国という名称は分かったけれど、何帝国なのかわからない。この基地があるのが、ダルケという都市だというのも分かったけれど、帝国のどのあたりにある、どれくらいの規模の都市なのか予想もつかない。

 母の容姿から多民族国家なのかと思いきや、基地で見かける人達は出入りする業者の人を含めても東洋系の見た目の人はいなかった。

「まぁ、この容姿はかなりお得だよねぇ」

 鏡に映る自分の姿を見る。母譲りの翠の黒髪と夜空のような瞳。美男と美少女であった両親の顔立ちを受け継いだ顔は幼児ながら人形のような美しさとなっている。

 時折ねっとりした嫌な視線を感じる時もあるが、基地司令に可愛がられている子供に手を出そうという馬鹿は出てきていない。いたとしても、手を出される前に熨せるから問題ないのだけれど。

 そんなことを考えていると、ノックもなしに扉が開けられた。その先にいるのは世話係の一人であるアディさんだ。三十歳くらいに見える人で、私より年上のお子さんがいるらしい。

「いつまで起きているつもりですか。もう9時ですよ」

「はい。もう眠ります」

 そう答えてベッドに潜り込むが、中身はいい年した大人なのである。眠れる訳がない。

 そのためこの時間は個人授業の時間に充てられる。



「それじゃあ、今日も始めますか」

「よろしくお願いします」

 目の前にいるのは自称邪神。最近ではめんどくさいので、心の中でも暫定名称を女神にしている。実際、ここまで毎夜個人事業を受けていると人となりが分かってくるものだが、付き合いが深まるほど目の前の神格は邪神とは程遠いとしか思えない。

「それじゃ、今日は身体強化の魔法の基礎。魔力循環の強化です」

「やっとフィジカル強化……」

 この数年、魔法の基礎である魔力の扱い方から術式の描き方、事象干渉系の魔法と女神が手取り足取り教えてくれた。どこも分からなければ分かるように指摘してくれる優しさ付で、極めて分かりやすい。なんとなく、バブみを感じてしまいそうなくらい優しい教え方で、教わっているこちらが戦慄したものである。

 しかし、それでも魔法で炎だとかを出すと騒ぎになるので、一回も現実で使ったことがない。でも、バフなら、現実でも使えるはず。

「でも、これに関しては簡単。四六時中、魔力を全力で循環させ続けろ。以上」

「は?」

 想定外で理解が及ばないというか、予想していた魔法的強化というより訓練なソレにぽかんとしてしまう。

「魔力が通る道も筋肉なんかと同じで、鍛えないと細くて弱い。そんな状態で急に身体強化の魔法なんて使ったら、ピザデブがフルマラソン出るよりも結果が見えるよ?」

 言われたことに納得せざるをえない。座学とトレーニングで知識と技量はある程度あると思うが、実際の身体はさほど鍛えていない。それを鍛える段階がスタート地点なら、それに従うしかない。トレーナーの指示を無視して良いことはないのだ。

「じゃ、そういうことで、寝てる間も循環できるようになるまで頑張ってね」

 言うだけ言って女神は消えた。いつもなら指導込みでつきっきりで居てくれるのだが、トレーニングだからだろうか。

「やるしかないか」

 そうして始めた数分後には、やっぱりあれは邪神なのかと悩むくらい全身が痛むのだった。


親不知抜いたのが痛くて集中できないため、次まで少し空きます。

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