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邪神さまの玩具  作者: 黒夜沙耶
幼少期編
13/52

治癒魔法の覚え方

 構造解析が出来るようになって、ユキとDが用意してくれたお菓子とお茶で休憩すると次は瑞穂の治癒魔法講座だった。まあ、準備をしていた間の会話でDが怯えていたのはいつものことと思うことにしよう。

「基礎はブランの奴に教えさせた。まあ、知識を転写しただけだけどな」

「それだけでも十分です。さて、治癒魔法の使い方と言っても重要なことは一点だけです。何だと思いますか?」

 アンジュに状況を聞いた瑞穂が私に質問をしてきた。そのアンジュはお茶を飲みながらにやにやこちらを見ているのが気になるが、とりあえず無視しておこう。

「えと、適切な魔法を使用するとか?」

 ブランにもらった基礎しか知らないけれど、上級の物があるというなら、適切な選択が必要になるのではないだろうか。

「惜しいですが違います。重要なことは基礎を慣熟することです」

「基礎ですか? そんなの魔法が使えるようになればできているってことでは?」

 私の答えに瑞穂は首を振った。さらに言うと、アンジュの笑い方が少し不機嫌そうに変わった。

「違います。補助輪を外したばかりの子供と大人の自転車の乗り方は同じレベルではないでしょう? 基礎を慣熟させることができれば、効率が爆発的に向上します。そして、基本的に上位の治癒魔法というのは前提技術を慣熟しているという前提で作られています」

 確かに、使うことができるのとうまく扱うことができるのは違うか。ゲームで言うと、スキルを完成させるとツリーの先に行ける的な感じだろうか。

「そうですね、貴女に分かるように例えるなら、方眼紙にひらがなを書く時に、幼稚園児なら複数のマスを使って大きくたどたどしく書きますが、大人なら一マスに一文字を綺麗に書くことができます。子供が一文字書くスペースに大人は言葉を書くことができる。これを治癒魔法で当てはめれば、同じ魔力でできることの幅が広いということになりますね」

「つまり、私は力技でマス目を増やして対応したということですか」

 文字を書くスペースがないなら広げるしかないからね。つぎ込み魔力量で性能が変化する理由がやっとわかったよ。というか、ブランもその辺は情報に入れてても良かったのではないだろうか。

「そうです。ですが、今後はそんなことは認めません。小さなけがをする度に治癒魔法を使ってください。今の術式をコンパクトに展開させることができるようになれば、先を教えます」

 そこで瑞穂は微妙な笑顔で笑うアンジュに一瞬視線を向けると、少しだけ悪戯っぽく私に声をかけた。

「身体強化も基礎を作る段階になっているのですから、頑張ってください」

「バカ、言うな!」

 笑顔の瑞穂にアンジュが怒鳴った。その反応で邪神ムーブから外れたことなのだと分かる。

「へ? 身体強化のあの指示も基礎作りなの?」

「身体強化は使用中魔力を消費し続けます。魔力量が私達とは桁違いの人間が使うと、数秒で魔力切れです。例えるなら、軽自動車の燃料タンクで戦車のエンジンを動かすようなものでしょうか」

 下方向で桁違いというのを聞くのはなかなかない機会のような気がする。で、軽自動車だとタンクの大きさは多くても四〇リットルくらいで、確か戦車のは千リットルくらいのはず。実用可能な時間を動かすことは無理ということだろう。

「となると、魔力循環というのは魔力の容量を拡大させるためのものってことでしょうか?」

「魔力が流れる道というのは川のようなものです。細い小川が少しずつ広がり水を湛えた大河となるように、魔力を流し続けることで蓄えられる量が増えるのです。普通の魔法使いはもっと遅い時期、魔力量の成長が見込めなくなってから修行の一環で行いますが、今の年齢から始めれば私たちと同じ物差しで見れるくらいにはなるでしょう」

私の言葉に瑞穂は微笑んで答えてきた。神様と同じスケールで計れるレベルになれるとは凄すぎるとは思うけれど、多分上限ギリギリと下限ギリギリで同じ物差しが使えるということなのだろう。

「それで、その二つの訓練として組み手を行ってもらいます。魔力循環を維持して組み手をして、怪我をするたびに治癒魔法で治す。これをしてもらいます。クロ、用意はいいですね?」

「はいはい。準備はいいけどさ、ソレでまた魂が傷付いたりしないの?」

 物騒なことを言う瑞穂に対して、いつの間にか現れてお茶菓子をほおばっていたクロが私の心配をしてくれた。昨日のアレがまずかったけれど、本当にクロお姉ちゃんとして対応を考えてもいいかもしれない。

「大丈夫です。魔力が枯渇するまでに供給を行いますから。ゲーム的に言うと、毎ターンMP回復です」

「魂が傷付かないなら、言うことはないかな。さ、こっちに来なよ」

 やっぱり神は神だった。人間と認識が違い過ぎる。回復するなら問題ないと言われると、そのうち死んでも生き返れば問題ないとか言われそうで怖いんだけど。

 ならば別の方法でルナティックな訓練を回避しなければならない。母は強しって言うし、孤児の母であるブランならもうちょっと優しい訓練にしてくれるかもしれない。

 そんな希望をもって女神達に視線を向けると、居並ぶ中にブランだけがいなかった。

「……ところで、ブランは?」

「ブラン? アレなら今日は暗いうちから酒もって釣りに行ってるよ。権能を保つためとか言ってるけど、間違いなく趣味だね」

 私が搾り出すように出した震え声に、クロが呆れたような表情で教えてくれた。

 酒飲みで釣り好きとかどこかの御前様を思い出すけれど、今の状況では助かる道がなくなったという絶望感でそれどころではない。

「ブランがいても止めてはくれないと思うよ? 僕があれだけやっても結局は止めなかったじゃん」

「そういえば、確かに」

 心の中を読んだようなクロの言葉に納得してしまった。

 思い出せば、ついさっきもそんな具合だった。あまりにも怒涛の勢いでいろいろとおき過ぎて忘れかけていたが、つい半日くらい前を思い出せば大したことないように思える。

「じゃあ、とりあえず僕に向けてパンチしてみて」

「魔力循環のせいでうまく動けないんだけどなぁ」

 子供のやるような腕だけのパンチではなく、全身の筋肉を使ったパンチをクロは軽々と受け止めた。そして、にやりと笑う。

「やっぱり現代日本人だね。一応の体の動かし方は分かってるや」

 年がら年中総合格闘技やらボクシングやら、果てはプロレスまでやっているのが現代日本なのだ。そこで育った男の子としては体の動かし方くらい分かっている。

 さすがに筋力その他の影響で上手く動けないとしても、パンチで全身を使うことはできるのだ。

「それじゃ、僕からもいくよ!」

「ちょっ! 少しくらい手加減を!」

 組手といっていたから覚悟はしていたものの、思っていたよりひどい。完全に子供な私と違って、ちんまいだけのクロではいろいろ差が激しい。ぽんぽんと手玉にとられていた初戦の方がまだましというレベルだ。

「痛いって! 痛い!」

 私の全身にうっすらと青あざができるまでクロに可愛がられたのだった。


体調を崩してやばかったです。しかも年明け早々胃が痛い仕事が……。

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