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魔族の娘のたのみごと  作者: 言吹木鉄人
現実世界編――無理難題――
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第四章 動き始める思惑

挿絵を入れるべきか迷っています。あまりうまくはありませんけど……。

 帰宅した二人は夕食を終え、明は風呂の準備を始めた。ネフィエはというと、帰還するための方法がないか知恵を絞っていた。しかし、いいアイディアは浮かんでくるわけもなく故郷での魔術書を思い返してもそれらしいものは思い出せなかった。

 立ち上がったネフィエは閉眼して意識を床へと集中させた。そして、精神を集中させる。「うーん」

喉を鳴らし、必死にエルネスタへの転移魔法についての術式を思い出す。


「開け、異界の扉。わが魔力を糧とし、未知なる導を現せ! かの地、その名はエルネスタ!」


 今一度、異界への扉を開こうと試みた。じわりと床に術式が展開され始める。しかし、浮かび上がった文字はまたしてもゲル状の何かであった。デロデロと地球の重力に引かれ、情けなくベチャッと広がり、崩れた。


「あぁ!」


 慌てて魔法を中断し、ネフィエは床に広がったそれを何とかしようと考え始めた。

ネフィエは明がいる方へ顔を向けた。そんな彼に声をかけてみるものの、特に反応はなかった。


「えっと……どうしよう……えっと、えっと……」


 考えついた末、ネフィエは近くにあったティッシュをとった。大量に引っ張りだし、当てがって取ろうと試みた。

 その後、落ち着きを取り戻したネフィエは自身の掌をマジマジとみつめた。ゆっくりと意識を集中させると、ジワリと紫色のオーラが滲み出てくる。


「力は失われていないのに、どうして……」


 苦虫を噛みつぶしたような表情をするネフィエ。はっきりしない現状にもどかしくなってくる。


「魔法も使えない。使えても――」


 ネフィエは指先に力を込めて小さな雷を意識した。虚空から一筋の閃光が走る予定が、実際には黄色いゲル状のモノが一滴落ちただけだ。


「意味わからないものになっているし……」


 その場で腰を砕けさせた。


「なんなのよぉ! もう!」


 不満を爆発させネフィエは声を上げた。その後、力任せに自分の膝を叩いた。そこに明がやってきた。


「なんじゃこれ?」


 床の惨状を確認して引き気味の表情だ。


「何してんだよ……」


 うんざりした表情で明は床に広がっているティッシュの山を手にした。


「またやったのかよ……。これはやめろって!」


 ゴミ袋を持ってきた明はそれらを忌々しそうに袋の中に詰めていく。


「だって……」

「いいか? 同じような結果になるならそれは使うなよ」


 明の一言にネフィエは答えない。こみ上げてくる惨めさに体を震わせた。


「どうして……こんなことに」


 ネフィエは確認するように自身の魔力を発現させた。紫色のオーラが揺らめく炎のように力強く現れる。その様子を見た明はゴクリと唾を飲んでいた。


「帰れるだけの力はあるのに……」


 肩を落とすネフィエ。深いため息とともにオーラを消した。


「エルネスタでは普通に使えていたのよ? それなのに……あぁ、もう!」


 ネフィエは忌々しそうに頭を掻き毟った。


「この世界にも魔法があったらよかったのに!」

「そんなこと言われてもなぁ……。そもそも、“異世界から女の子が――”的なことが俺にとっては意味不明だから」

「それにしては冷静ね。今さらだけど……」

「否定したところで何も変わらないだろう。否定して変わるならとうにやっているって。変わらないから俺は――」


 明が何か言いかけた時、タイマーが鳴った。その音を聞き彼は口を閉じて立ち上がった。


「風呂の準備ができた。どうする?」


 浴室に消えていく明を見送り、ネフィエは考え込んだ。


(否定して変わるなら……か……)


 顔を天井へと向けるネフィエ。その視線の先は天井の模様でも継ぎ目でもない。その先にあるどこか遠くを見つめた。


「早く決めろよ。入るか入らないか」


 浴室から顔を覗かせた明が急かしてきた。


「うるさいわね先に入るわよ」


 明を押し退けるように浴室に入る。


「覗いたら叩きのめすわよ?」


 明を閉めだしたネフィエは鏡に映った自分を見つめた。鏡に映った自分と目が合う。


(大丈夫。絶対に帰れる)


 そう自分に言い聞かして服を脱ごうとした。扉の向こうからは「誰がのぞくか!」と怒鳴る明の声が聞こえてきた。





「ラーニャよ」


 ロウソクの灯っている部屋に声が響き渡った。扉がゆっくりと開かれ、入ってきたのは褐色肌で銀髪の少女だった。

 銀の胸当てとガントレットを付け、凛とした表情でカーペット上を歩いて奥へと向かう。まっすぐに玉座を見据えるその瞳は炎のように赤い。腰にぶら下がっている細刃の刃が、カチャカチャと音を鳴らした。

 ほぼ白一色に染まっている大広間なのだがどこか重々しい感じがする。広間の中央には赤いカーペットが敷かれ、左右には鋼の鎧を纏った衛兵。立派な槍をもって構え腰には長剣を携えている。その奥に壮年の男性が玉座に腰かけていた。

 呼ばれた少女――ラーニャは玉座に座る壮年の男性の前で跪いた。


「お呼びでしょうか?」


 芯の通った声だ。


「魔族との戦い見事だった。さすがは、と言ったところだな」


 ゆっくりと語る男性に、ラーニャはただ黙って頭を垂れたままでいる。


「しかし、一歩及ばず我らは引き返すことになった。さすがは一筋縄ではいかんな」


 男性は側近から一枚の報告書を受け取った。それと同時にラーニャは顔を上げる。その瞳に、力強く生えた顎鬚と白髪交じりの男性が映る。険しい目つきで報告書に目を通している。


「申し訳ございません。さすがに敵の本拠地だったゆえ増援も多く、魔族王との戦いの前に多くの――」

「よい」


 ラーニャの言葉を男性が遮った。多くのシワが刻まれた掌だ。幾多もの修羅場を潜り抜けた男の手だ。


「このままでは戦は長引くばかり。民も疲弊している。しかし、それは彼奴らも同じこと……ならば……」


 男性の口角がわずかに上がった。


「報告書によると、戦いの前に次元移動の術式の反応があったそうだな?」


 男性の問いに、ラーニャは「はい」と答えた。


「戦闘中に、空間に対して魔力的介入が確認されたため、私自らが妨害しました。それが何か?」

「魔族王の本拠地……。たしか、魔族王には娘がいたな? 姿はあったか?」

「い、いいえ……。戦いの最中だったので私自身確認はできておりません。しかし……ま、まさか将軍」


 ラーニャは男性の言うことを察し、視線を下へと向けた。もう一度「まさか」と呟き、唇を強く噤む。


「おそらくはな。そこで、ラーニャ。お前には今から魔族王の娘の追跡任務をついてもらう。見つけ次第捉えるのだ。殺してはならん。よいな? どの空間に、どの世界に行ったのかはわからぬ。これは、特命だ」


 男性は立ち上がり、大きく手を広げた。


「は! 全力で任に当たります」


 深く頭を下げたラーニャは、力強く立ち上がり、踵を返して部屋を後にした。





「俺、明日から学校だから。勝手な行動はするなよ?」

「え? じゃあ、探索とかはどうするのよ?」


 寝る間際に、明がネフィエに言い放った。その一言に彼女が噛みついた。


「知らんって。まぁ、俺は俺で動いてやるから安心しろ。たぶんな」


 投げやりな言い方に彼女の頬が膨れた。


「何よ!」


 ベッドに横になったネフィエは、明に背を向ける。


「ベッドを譲ってやったんだから文句言うなよ。というより、何でもかんでも『フィギュアにアレをぶっかける作戦』はやめろよ。マジで」


 うんざりと言った感じで明が言い放った。対するネフィエは何も答えない。


「不貞腐れんなよな。まったく……」


 明は机に向かって座ると、机の上にモデルガンの箱を置いた。


「聞いているのか?」

「うるさいわねぇ。寝るんだから静かにしなさいよ。あと、寝てる間に変な事したらひどい目にあわすからね? 部屋の物全部、デロデロにしてやるから!」


 そう言い、ネフィエは明に背を向け布団をかぶった。


「そ、そんなことするかよ!」


 カッと頬を赤くして慌てて言い返す明。工具箱を引っ張りだし、いつでも取り出せるようにふたを開ける。


「ねぇ……」

「な、なんだよ」

「今日はその……」


 口ごもるネフィエは小さく何かを言い放った。聞き取れなかった明は聞き返そうとした。


「ありがとう、ごめん、おやすみ」


 早口でそう言い、ネフィエは身を縮めた。不意を突かれたようなことで、明はしばらくポカンと口を開けた。もう一度言うように促すが彼女から返事はない。聞き耳を立てると、ネフィエは寝息を立てていた。


「なんだよ」


 舌打ち交じりで呟いた明はモデルガンの作成に取り掛かり始めた。


「不本意でここに来たなら、迎えが来ると思いたいけど……」


 パーツを組立て、明は深々とため息をついた。


「いや、よそう」


 浮かび上がった不安事項をそっとしまい込んだ明。さらにその考えを振り払うかのようにモデルガンの作成に打ち込んだ。

次から物語が動きはじめます。よければ続きも読んでいただければ幸いです。次回もよろしくお願いします。

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