69:深く、深く、
皆が、互いを見ないようにしている……気がする。
いや、まあそうだろうなあと思うけど。
私たち菩提樹は護衛が任務だから、野営地とした一角を中心にローテーションで火の番とか見張りの番をすることになって、まあ見張りは眠る必要のない幽霊のミドリアーナさんが買って出てくれたから大分楽なんだけど……なんていうかね、やっぱり黒竜族の皆が。
お互い、なんだか色々思うところが噴出したり、自分に対して思うことがあったり、そういうところからお互いをまともに見れないし言葉も交わせない、みたいな感じになっているようで。
やっぱりレラジエさんが言ったように、一度戻った方が良かったんじゃないのかなって私は思うんだけどね……でもそれを受け入れたら、バルバスさんは息子と別れるって宣言されてるんだからそりゃ受け入れられないか。
バルバスさんは、多分、だけど。彼らの常識で言う“普通”じゃない息子を受け入れることが出来ない。だけど、それでも親として息子をとても愛しく、大事なものとして想っている。
その相反した部分が、今せめぎ合っているんだろうなあ。
それぞれが持ってきている寝袋の距離、バルバスさんはリーダーとして皆を見渡せる場所で私たちの近く。
レラジエさんは、私たちを挟んで黒竜族と反対。
まるで心のままに距離をとったような状態だ。あんまり私たちからすると居心地がいいとは思えないけど……まあこれ、お仕事だからね。
(とはいえ、どうするかなあ……私も色々動くべきなのかな。いやまずはご飯か……)
私は皆にあったかい料理を出すのが仕事、とアリュートに言われた。
落ち込んでいる時は、とりあえず温かいものでお腹を満たすといいんだってフェルも言った。
まあ、わからなくはないから作るよ。
アリュートもフェルもあんまり料理は得意じゃないしね! もともとパーティの役割としては私が料理担当でもあるし。なにせ無限インベントリあるから鍋も水も食料も調味料も運び放題だって言うのも大きいけど。
とりあえず、やっぱり基本はスープだよね……ということで煮込んでいるけど、アズールがそわそわと何度も覗き込んでくる。ああ、うん、野菜の切れ端が欲しいんだね……?
「もう、ちゃんと後でスープあげるから待ちなさい!」
「くるるるるる」
「あっ、こら!」
スープの最後の方に入れようと思っていた菜っ葉を一枚小鳥姿で奪い去ってテントの上の方に持って行くアズールの可愛い事!
いや、可愛いからってだめだけど!!
もう……そんなにお腹空いてたのかなあ。早く作ってあげよう。
見回りに行ったフェルもきっとお腹空いてるだろうし、アリュートも竜人族の皆と話をしたり間に入ったりで疲れているみたいだからね。
レラジエさんは、どうだろう。
フライングスパイダーがずっと彼に寄り添っているけど、正直顔に出さないようにしているんだろうと思う。雰囲気とかだと全然何を考えているのかわからない。
いや、そもそも竜人族の顔色を読むとかよくわかんないし付き合いも短いから何とも言えないだけなんだろうけど。
「?」
ふと、ちょっとした地震のようなものを感じて私は周りを見渡した。
ここは地下で、地震というものそのものはあまりこの世界にはないらしくて珍しいことだ。
「ミドリアーナさん、今、揺れなかった?」
『そうですか~? あ、わたしは幽霊だからそういうのはチョットわからないですね~』
「あ、そうか。浮いてるものね……アリュート! 今揺れなかった?」
「揺れ?」
「うん、ほんの少しだけ……あ、ほらまた!」
「……本当だ、なんだろう?」
「まさかこの建物が崩れる、とか?」
「それはないと思うけど。竜人族の人たちが今のところ見た感じ、この古代図書館はとても丈夫みたいなんだ。他の古代図書館もそうだって言うからね」
じゃあ何故揺れを感じたんだろう?
ほら、また。
わずかな揺れがお鍋の中のスープも揺らす。
「……この揺れ、下から感じるね」
「下から……」
私の言葉に、アリュートも難しい顔をする。
そうだ、この地下施設はより地下にまだ潜れる。
そうして下に行くにつれ、恐らくだけれども。
ダンジョンモンスターは強くなっていくだろう、セオリー通りに。
ということは、この揺れはフロアボス、ないしダンジョンボスが起こしているものなのかもしれない。
だとすればどのくらい深い所からこの揺れを起こしているのか。
少なくともこの次の階なんてオチはないと思う。
それだったらもっと揺れていいと思うしね!
でもこれだって結局推測でしかなく、ただ大き目のモンスターが暴れているだけかもしれない。
そうだとしたらやたら警戒するように周りに言うのはただ疲れさせるだけだし、私とアリュートで警戒をしっかりすればいいんだろう。
私の考えを理解してくれているのか、アリュートはしっかり頷いてくれた。
「ミドリアーナさん、ミドリアーナさんは他のモンスターたちの干渉とかでどうにかなっちゃったりとかはないんですか?」
『今のところないですねぇ~、同僚にも会ってませんし』
「うーん……」
同僚。
その言葉にそういえばここは図書館なんだから、ミドリアーナさん以外にも職員がいたんだよなあと思う。多くの人がここで書籍に囲まれて、知識を求める人たちの要求に応じて本を探したり貸し出したり、修繕したりを繰り返していたはずだ。
でも骨は見ないし幽霊になった職員は今のところミドリアーナさんしか見ていない。
「……今更、だけど」
『なんですか~?』
「ううん、なんでもないよ!」
ミドリアーナさんは、信じて良いのだろうか?
ついさっきまで、仲間内で争う姿を見た所為か。なんだか、ぽっと浮かんだ疑惑に私の心がすっと冷めて行くのを感じる。
人の心の、深く深く、蓋をしておくべきだろうというそんな感情が顔を覗かせているんだ。




