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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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68:それは自業自得なのでしょうか?

 レラジエさんが様子を見に行って、私がアリュートの誤解をなんとかして、フェルは我関せずで、なんだこれと思いつつどっと疲れたけど落ち込んだ気持ちはちょっと落ち着いた。

 で、錯乱していた竜人さんたちだけど……ちょっとここで問題があった。


 あの錯乱は結構気持ちにダメージを与えてたみたいだ。自分が何を口走ったのか記憶にあるらしい。だから、今まで「仕方がない」って思って飲み込んで蓋をした気持ちが出てきてしまうんだと思う。

 それはバルバスさんが顕著だったんだと思う。


 レラジエさんを見るや否や、力が入らない様子で立ち上がり、その肩を弱々しく掴んで――こう言った。


「おまえが、あんなことさえ言い出さなければ」

「我らがこのような苦境に陥ることは」

「どうして、お前は、おまえは種族を受け入れられないのだ」

「どうして、理解してくれないのだ」

「お前は、お前は――なぜ、息子なのに、この父親の気持ちも理解せず、己だけを貫くんだ……!」

「どれだけ迷惑をかければ、気が済むんだ!」


 バルバスさんの目はどろりと濁った様子があって、きっとまだ完全に正気じゃないんだろうと思う。

 でもあれが、あの人の蓋をしていた気持ちそのものなんだろう。


 血を吐くようなその言い様は聞いていて気分が良いものじゃないし、言われているレラジエさんも無表情でただ父親を見つめているし、他の竜人族の人は二人の方を見れない様子で俯いている。

 でもその雰囲気から、バルバスさんの言葉を肯定しているように見えた。


(レラジエさんは自分を異端だと言った。それはきっと、自分から言い出したことじゃなくてそう言われたからだ)


 でもバルバスさんの言葉は、父親としての言葉だった。

 決して“要らない”とは言わない。ただどうして、どうして普通じゃないんだという訴え。


 それはそれできっと辛い事なんだろうけど、普通じゃない我が子を嘆きながら捨てることができないその愛情は見ているこっちからすると私の中の、いいや、私の中にある昔の自分の部分をひどく傷つけた。

 だって和子は母親に、姉さえいればお前はスペアなんだから要らないんだって言われた。

 スペアとしては必要だけど、和子そのものは必要ないって……そう言われていたようなものだと思う。


 すっかり最近忘れてしまっていた気持ちを、今バルバスさんとレラジエさんの二人に重ねてしまって私は自分の胸にとても嫌な気持ちが沸き出てくるのを抑えられず、思わず自分の胸のあたりをぎゅっと抑え込んでしまった。

 やめて、と叫びたい気もするし。そうじゃなくて違う、なにかを言いたいような……でも何を言っていいのかはわからない。

 羨ましいとも思うし、でも今の『イリス』が何かを言ってもそれは違う物にしかならないってわかっているからこそ、変なこの感情のちぐはぐさに苛立ちすら覚える。


(私は、和子だけどイリスで、でもイリスだけど和子で。だからって和子の気持ちのまま言葉を出せば、それはイリスの家族を否定するみたいで――)


「イリス?」


「……なんでもない」


 私の様子がおかしい事に気がついたアリュートが心配そうに声を掛けてくれたけど、私はただ首を振るしかできなかった。なにがどう、なんて説明できそうもなかったしもしできたとしてもする気にはなれない。

 どうしようもなくて、目の前で繰り広げられるバルバスさんの嘆きとそれを叩きつけられるレラジエさんを見るしかない。


 でも、それでようやく気が付いた。

 レラジエさんの目が、思った以上に冷たくて、でもバルバスさんのことを見るその眼差しの中には申し訳なさも見えることに。


「父さん、悪いけど何を言われようが、何度言われようが、私は変われない。変わらない」


「れらじえ」


「私の生きたいように生きろと笑ってくれたのは、やはり無理をしていたんだね」


 困ったように笑みを浮かべたレラジエさんは、肩を掴んでいたバルバスさんの手をそっと外した。

 そしてきっぱりと言い切った彼のその言葉に、バルバスさんの方がようやく正気になったんだろう。愕然とした様子を見せていて、なんとも言えない空気が流れる。


「父さん、皆も、一度外に出た方が良さそうだ。我々には少々ここの研究は手に余ると思うよ。いくら護衛の彼らが優秀でも私たちがこの体たらくでは足手纏いもいいところだ」


「そんなっ」

「……そうだな」


 誰かが小さく声を上げたけれど、同時に肯定の声も上がる。

 まあ、私たちとしてはどちらでも構わなかった。このまま進みたいというなら進むし、ただまたこういった精神系のトラップがあるならばその都度彼らにはそれなりに対策を練らねばならないだろうし、こうして休憩も挟んでいくだろうなあくらいには思っている。

 でも改めてそれに対して対策を講じて再度チャレンジ、という方法もあるんじゃないかな。


「そして、私たちはこのダンジョンの外に出たら別行動をしよう。父さんも皆も、私がいなければ里に帰れるだろう?」


「レラジエ!!」


 レラジエさんの宣言に、私は困惑してアリュートとフェルを見た。

 アリュートも同様に困惑しているみたいだったし、フェルはほんの僅かだけれど眉を顰めたようだった。


 まあ、彼らのやり取りを見聞きしてなんとなくわかっていたし、これはレラジエさんの中では唐突なものではなく考え抜いた結論だったに違いない。

 遅かれ早かれ、いつかはそうするつもりだったんだろうなあ。ただ、今さっきのバルバスさんの言葉が引き金になったような気はする。


「どうか、気に病まないで。確かに私は良くない息子かもしれない。だけど、私はバルバスという男の息子に生まれたことを誇りに思う。ただわかりあえなかっただけさ」


「……調査は、進める。お前の離脱は、認めない」


「父さん……我々はそれぞれ、個として生きていくべきだと思うよ。そしてそこからどのような繋がりを持って生きていくかはやはりそれぞれで決めていくだけだ。いくらそれを説こうが、交わらない線だって存在するってことはわかっているんだろう?」


「交わらないはずがない! お前は! 私の息子で! 私は! お前の父親だ!!」


「……父さん……」


 あくまで穏やかに解決を求めようとするレラジエさんの言葉に、バルバスさんが悲痛な叫びをあげる。

 こんな場所でするべき話題ではないと思うけど、どうやらこんな事態になるまで彼らは本音をぶつけ合えなかったんじゃないんだろうか。


 そう思うとちょっとどう声を掛けたらいいかわからず、私が困っているとアリュートがぽんと肩を叩いて前に進み出た。


「――……では進むということでよろしいでしょうか。皆さまの内包する複雑な事情については聞かなかったことにしますが、できればこのままここで休息をとるよりももう少し安全な場所を探してそちらで野営の準備をしたいと思っています。何か異論は?」


「……ない。見苦しいものを、見せた」


「他の皆さまももう動けますか」


 アリュートの問いに、竜人族の人たちがのろのろと動き始めた。

 レラジエさんも、複雑な表情を垣間見せてバルバスさんから視線をそらし、何も言わずに自分の準備をしに背を向けて……なんだろう。


 このダンジョン探索、思った以上に精神面を抉ってくるなあ。

 いや、抉られてるのは自分たちの自業自得、なのかなあ。

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