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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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66:凍てませ、

 魔力を高める。レラジエさんが守ってくれるとわかったから、ただただ集中する。

 

 インベントリから取り出した杖を持って、掲げる。


 指先まで、ため込んだ魔力を杖を通じて放つだけ。

 私の、味方を除外して――杖の柄で、床をとぉん、と叩く。


 無詠唱、からの発動。

 それをレラジエさんは気付いたはずだ。私は彼の真後ろにいたのだから。


 だけど、今は格好つけている場合じゃなくて。ピンチはなんとしてでも乗り越えるべきだ。

 まだ色んなことを手際よくどうのこうのなんてできるとは思ってないから。そういうとこは思い上がっちゃだめだって、フェルたちみたいな『本物の』天才を前に痛感してる。


 杖の柄から広がる冷気。私にとっての必殺技とも言っていい、永久氷河(コキュートス)

 今までも何回か使って、もう無詠唱でも十分な威力を発揮できるし、マッヒェルさんの修行のおかげで精度も上がっている。それに杖のブーストもあるから、あっという間に通路と天井と、私の味方の周囲を避けるようにして広がっていく氷、氷、氷。


 当然一気に下がった気温に私の吐く息も白くなって、ぴきり、と氷が軋む音が聞こえた。


「うわあ、すごいねえ」


「レラジエさんも」


「君の魔法も、装備も。ただモテてる女の子ってだけじゃあなかったんだねえ、やっぱり」


「……」


 ずしん、と盾を持ち替えたレラジエさんは穏やかにしているけど言われた内容はなかなか辛辣だ。

 まあ、そうだよね。普通に見たら男の子二人と一緒にパーティ組んでてそれが実質婚約者な訳で、姫プレイって思われてるかもしれないっていうのは感じてた。

 実際にはちゃんと役割分担で来てると思うけどね?!


「まあ、まだ終わりじゃないから気を抜かないで」


「はい!」


 8割がたは凍ったんだろう。

 それに低温となった周囲で、蝙蝠たちは身動きが上手くとれないようだ。

 けれど上位種の支配力と言うのはとても強力なのか、私たちに向ける敵意も食欲も、怯む様子は見られなかった。


 すごいなあ、ユニークモンスターって。いや、これこそがダンジョンってやつなのか。

 今まで修行の時以外ダンジョンに好んで入ろうとは思わなかったけど、やっぱり色んな経験を積むのにいいのかもしれない。私たちは結婚するのにものっすごくお金も必要なわけだし。


 フェルとアリュートは氷で滑る床もものともせずに駆け抜けて、動きの鈍った蝙蝠たちをどんどんと切り捨てて上位種に迫ろうとしていた。

 私も大きな魔法を放った直後だから直ぐには打てないにしろ、弱い攻撃魔法で援護するくらいはできる。

 だから光魔法を使って跳弾させたりもするけど、やっぱり上位種には届かなかった。


「あの上位種を引き摺り下ろせたら……」


「あるいは、アイツが逃げることを選択したらいい。でもできるだろう?」


「え?」


「君の使い魔は、優秀なんだろう?」


「それは、ええ。勿論!」


 アズールはエリアボスの候補だったんだし、そりゃ強いさ。

 それを説明する必要はないけど。


 でもなんで? そう思った私の横で、寒さから羽を震わせたアズールがうずうずしていることにようやく気が付いた。

 詠唱の際に私のそばに戻っていたアズールは、私の合図を待っているんだってことに。

 そして私よりも先にそれをレラジエさんが理解した、というのがなんだかすごく悔しかった。


「アズール!」


 声を掛けた途端に待ってましたと言わんばかりの彼女が空へと勢いよく舞い上がる。

 そしてかけられた《威圧》に蝙蝠たちが更に勢いを無くした。

 フェルたちの猛攻、下がり切った気温、流石に劣勢は感じ取ったらしい上位種が更に高度を上げる。


 確かに高度を上げればフェルたちが到達することは難しいし、私の魔法も距離が延びれば威力が弱まる。それはきっと、本能からの行動だけれど正しい。


 だけれど、私たちに翼が無くても翼のある仲間はいる。それだけの話だ。


「墜として」


 短く告げたその声は、普通なら伝わらない音量。

 私とアズールの繋がりが、魔力が、まるでお互いを自分と認識するかのような共感覚をもって伝えてくれる。アズールが高揚しているのがわかる。やはりどれだけ普段可愛らしくても彼女も好戦的なモンスターなんだ。本能で、敵と戦い捻じ伏せることを望んでいる。

 そしてあれ(・・)は獲物だと思っている。


 だから私の指示は、まさしくアズールを喜ばせるものに違いない。

 同じ空を得手とする者同士、墜とすということはどちらが格上かを示すものなのだから。


 アズールは強者でありたい。そう思っている。

 だからきっと、墜とすだろう。

 

 そして私はそれを、どこか当然だと思っていて――これが、使い魔と繋がるということの危険性何だなと冷静に受け止めてもいた。私はアズールに影響を与え、アズールは私に影響を与える。

 セレステとマッヒェルさんにも影響を与え、受けているんだろうか? そこはまだわからない。

 一番繋がりがあるのがアズールだからなのかもしれない。


 わからないけど、今の私は普段あまり思わない「敵は倒す」というまるで戦闘本能のような考えがチラチラと焦がすように訴えかけられているのを感じている。

 凍らせて、鈍らせて、仲間のフォローをするのが役目。そう思っているのにどこかで敵を蹂躙することを考えている自分もいる。もしもこの考えに呑まれたら、私は大変なことになるのかもしれない。


 ギェエエエー。

 キシャーァァァ……


 空中ではアズールが追い詰めて、かぎづめで上位種を傷つけている。

 あれはもうだめだろう。いずれは力尽きて落ちる。

 

 そうだ、殺せばいい。

 殺せば、ここでの強者が誰なのかモンスターたちは理解する。


 さあ、殺そう。私は強者なのだ。


(違う)


「イリス?」


「違う」


「え?」


「アズール! もういい!!」


 今、危険だった。

 よくわからない「何か」が私の中で蠢いた。

 私自身なのか、或いは違う何かなのか。それは判断しきれないけど、これ以上は危険だ。


 今まで、感じたことがないこの感情はただ使い魔との繋がりが、なんて生易しいものじゃない気がする。

 これは一体なんだろう?


 空間の気温よりも、別の理由で私の背筋が、凍った気がした。

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