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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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65:ピンチはいつでもやってくる

 ピンチです。

 まあ、ピンチなんだよね。


 何がかっていうと別にさ、カモフラージュ・スライムがついてきて餌をねだってくるもんだからってご飯あげすぎたとかそういうオチではない。

 正直に言うと、まあ油断していた、っていうのが一番の原因だ。


 私とアリュートの背後には大きな、穴。

 そう、気をつけようねって言ってた落とし穴だ。幸いにも下に棘とか変な生き物とかはいなかったけど、結構深くて広くて、竜人族はレラジエさんを残してそこにいる。しかもいがみ合って。


 なぜこんな事態になったのかと言えば、トラップとかに十分気をつけていた私たちを襲ったのは幻惑だった。コウモリばかりだと思ってたけど、そのコウモリの上位種が現れて、更にミドリアーナさんが言うには見たことない上位種……つまりユニーク個体もしくはネームドモンスター。

 私とフェルはアクセサリーの効果で幻惑は効かないし、アリュートは精神系の呪文への耐性が元々高い。アズールは私と同調してるんだから問題無し。


 というわけで、バルバスさんたち一行が思いっきり幻惑にかかって互いに罵り合い殴り合い、転んでもつれ合って落っこちて行ったわけで……そして今もまだ幻惑の効果で罵り合ってる。

 竜人族はあんまり精神系の魔法に強くないらしい。ひとつ覚えたよ!

 レラジエさんだけがフライングスパイダーのおかげで助かったみたい。耳元で羽音を立てて助けてもらえたんだそうだけどそういうことってあるのかな?


 落ちたメンバーはアズールに引き上げてもらおうと思ったんだけど、残念ながらそれは後回しだ。

 一気にパーティメンバーが減った私たちは格好のエサに見えているのか、上位種が率いた蝙蝠の群れが私たちを取り囲んでいる。撤退しようにも落とし穴にいるメンバーのことを考えるとそうはいかないし、殲滅するにはすごい数じゃないかな!

 大型魔法を撃てればいいんだろうけど、いくら無詠唱ができるったってこの範囲となれば私だって呪文の一つや二つ集中したいところだ。


 うーん、これは後でマッヒェルさんに講義してもらわないと未熟さを痛感するね。


「どうする?!」


「どうするもこうするも、切り抜けるしかないだろう!」


「イリス、魔法は?」


「撃てるけど、こんなに敵が多いと大型魔法は時間を稼いでもらわないと……」


 波状攻撃を仕掛けてくるコウモリたちは、最初の襲撃に比べると群れでの行動が格段に強くなっている。

 そりゃそうだろう、あのユニークだかネームドモンスターだかがリーダーとして指揮を執っているんだし。


 アズールの威圧が役立って少し敵の足並みが鈍ってはいるけど、だからって数で押されたら流石にきつい。

 落とし穴のメンバーが重量級じゃなきゃ対処のしようもあったんだろうけど……アズールでひっぱりあげるとか? いやいやだめだ、幻惑の所為で暴れたりして面倒になる。しかも一人じゃないし。

 私たちが危険な生物だと思えば向こうも避けてくれるかと思ったけど、逆だよね。


「アイツらは俺たちを巣に入ってきた排除すべき敵と認識したようだな」


「そのようだね」


 フェルがいたって冷静に言うのがなんだか場にそぐわなくて、笑みが零れた。

 いや、ピンチはピンチなんだけどね。

 こういう冷静でいてくれる人がいてくれると、なんだかこっちも冷静になるよね。


「とりあえず障壁を張る。それなら短い時間でできるから」


「だがそれも長持ちするわけじゃないだろう」


「うん、皆にも身体能力を上げる魔法をかけるよ」


 落とし穴にいるメンツがコウモリに狙われる可能性も勿論あるし、あっちこっちに注意を向けるのは得意じゃないからまずは足場を確保すべきなんだ。

 私は直接戦闘員というよりは後方支援。

 できれば範囲魔法を唱えたいけど、あれもこれもをこなせるほど器用じゃないから。


「いい、数を減らせばお前まで到達する連中を削れる」


「そうだね、そうなれば時間も取れるよ」


「……あのさ、悪いけど要するに彼女に敵を近づけなければいいのかい」


 のんびりとこの状況をまるで理解していないような声でレラジエさんが私たちに声を掛けた。

 えって思わず私から声が漏れたけど、フェルたちはなにも驚かずにただ頷いて、襲ってきたコウモリを一刀両断だ。わあカッコいいなあもう!


 レラジエさんは、私の方をゆっくりと見た。

 爬虫類系特有の縦の瞳がじっくりと私を見ていてちょっと居心地が悪いけど、目は反らさない。なんか反らしたら負ける気がした。いや食べられる? とかそういう感じなのかな……。


「君らは彼女を信じてるんだね」


「そりゃそうだ」

「そりゃそうさ」


 二人が同時に答えた。


「だって僕らの大事なお嫁さんだからね!」

「誰より信頼する、仲間であり家族だからな」


「へえ、いいなあ」


 くすくす笑ったレラジエさんが、その背に背負っていた巨大な盾をまるで綿でも持ち上げるかのようにひょいと持ち上げて――地に突き立てた。


 ズズゥ、ン! と音を立ててめり込んだそれがどんな重量をしているのか私が顔を引きつらせたのを気にもせず、レラジエさんが吠えた。空気がびりびりってした。


「よし、このレラジエが盾を引き受ける! さあ君らの実力、見せてもらおうじゃないか!!」


「……信じていいのか」


「ははは、一応学者の端くれだけど黒竜族の守りはきちんと学んでいるよ。それより彼女の魔法頼みなだけだなんてオチはないんだろう?」


 フェルとレラジエさんの視線が交差する。


 うん、なんか勝手に通じ合ってるみたいだけど……これが男の友情ってやつなのかな。

 でもアリュートを見る限り、ハラハラしてるのが見て取れたからきっと彼らが別なんだな……。


「来るよ!」


 私たちも油断をしているわけじゃないけど、あちらもあちらで計画があるらしい。

 まるで大きな竜巻のように黒い蝙蝠の群れがうねりを持って立ち上り、そこからどんどんとコウモリたちが襲い掛かってくる。

 フェルとアリュートが切り捨てながら、リーダーに近づこうとするけど勢いに押し戻されて進む中で、私の方へとくるコウモリはレラジエさんが攻撃も、体当たりも、全部弾いてくれた。うわなんていう安定感……。


「さあ、お嬢さん」


「!」


「見せておくれよ、君の力を!」


 楽し気に笑って言ったレラジエさんに、私はぎゅっと杖を握りしめることで答えにしようと目を閉じた。

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