60:図書室の幽霊
蜘蛛や蝙蝠を蹴散らすようにしてアズールがどや顔で戻ってくるのは超可愛かった!
若干、竜人族のメンバーが引いていた気がするけど気にしない!!
うちの子は優秀で可愛くて頼りになるのです。フェルとアリュートもアズールの活躍を褒めてくれたし。最近は彼らとの距離もほどほどになって、仲間意識っぽいのが芽生えてるっぽい?
しかし児童書とかのコーナーでこんなホラーちっくな展開になると思わなかった。
雷系の魔法を使ったけど、本は焦げてないみたいでちょっとほっとしたよ。
広々とした図書室の空間が地下に広がるっていうのはなんとも不思議なものだけど、ここは当時賑わっていたのだとしたらどんなだったんだろうか。巨大な図書室を楽しむような余裕が人々にはあったってことだ。
現在よりも過去の方が相当もしかして文化的に発達した状態だったのかな?
本の状態を確認しながら歩く私たちの後ろをずるずるとついてくるオレンジ色のスライムがどうにも気になるけど、フライングスパイダーによればどうやら私たちという侵入者と魔獣たちの戦いが頻発すればおこぼれにあずかれると思っているらしい。
そんなに戦闘になって欲しくないのが正直なところなんだけど……。
「この階は児童書と文学系、奥に外国文学、閲覧室とあるようです」
「わあ本格的だ……」
「幸いこの柱に刻まれている案内板が読める状態でしたからね」
「三階が国内外の古典と閲覧室、四階が地図と歴史資料室、五階が官庁公式発表資料室……? なんでしょうねこれ」
「国の公式発行物ってことじゃないか」
「ああ、なるほど。でしたら当時の国の内容がわかるかもしれませんよ。発表内容の正確さはともかくとして」
ブエルさんが鷹揚にうなずいて示す内容は私もちょっと興味があった。
こんな巨大な図書室を作ってしまうような、女神が存在していた時代の国とかどんなものか想像もできない!
まあフェルとアリュートはちょっと退屈そうだけどね。
「だが五階から先は誰も到達できていない、ということはそこのフロアボスが強力なんだろう。……ならば、資料とやらはあまり期待できんな」
「そうですね。そこの辺りは残っているものを手に入れられればラッキー程度に考えれば良いかと」
サジミーナさんもちょっと残念そうだけど、そう割り切ってくれると大変ありがたいです。
なにせ私たちは調査に来ているわけだしね。攻略のためのがっつり装備ってわけじゃないし、調査団の皆は正直戦いは得意じゃないわけだし。とはいえ、防御には自信があるっていうけどどの程度なのか……少なくともシトリーンさんは蝙蝠の超音波でダウンしちゃうレベルだと思うと先が思いやられるかもしれない。
体格が何と言っても私たちよりも大きいからね、ダウンされちゃうとそれだけで足止めだよ!
今回の蝙蝠くらいならなんとかなるけど、ダウンしちゃった人を連れて逃げなきゃいけない状況なんてなったら……大変だよね。
「それで、六階から下は何がある?」
「映像資料室、技術資料室ですね。七階には魔法学専門資料室、八階が貴重書、九階は関係者以外立ち入り禁止・研究室となっています。そこまでですね」
「十分な収穫だな。できれば進みたいところだが、様子を見ながらというところだろう」
「そうですね、我々としては皆さんの安全を最優先させていただきますのでご了承下さい」
「重々承知」
アリュートの釘を刺すような発言にも皆嫌な顔はせずに頷いてくれた。
まあここまでの一緒の行動で駄々をこねるような人たちではないし、内心はどう思っているかはわからないけれど。とにかく私たちは護衛が任務だから攻略をしたいわけじゃない。
ま、まあ正直ちょっと魔法学専門資料とか貴重書とか気にならないわけじゃない!
それと、四階の歴史資料。これにもしかして、マッヒェルさんのことがなにかわかるかもしれない。
聞けばなんでも答えてくれるだろうけれど、あまり話したくないこともあるだろうし彼が辛いことを知らずに聞いてしまうことは避けたいと思う。
「お、おいあれを見ろ!!」
「なんだ?!」
アリュートとバルバスさんが今後敵が出た時の対処を互いに決めておこうと話し合いを始めたところでブエルさんが大きな声をあげた。
私たちもそちらを見れば、外国文学のコーナーが廊下の向こうに見えるのだけれどそこにふよりと本が浮いているじゃあないか。えっ、金貨虫の仲間なのかな? そう思ったけれどフライングスパイダーにはそれを否定された。
えっ、生きてる本とか?
……まっさか~ぁ。
でもたった一冊がふわふわ浮いて、見えないところに移動したかと思うとまた別の外国文学の本が同じ方向へと飛んでいく。
同じ方向へ?
私が首を傾げたのを見て、フェルも同じように思ったらしい。
「なあイリス、ゴーストがいるんじゃないのか」
「そうだよねえ、ただちょっとゴーストの姿が見えないんだよねえ」
「魔法を使って意思疎通ができないか試してみないか」
「やってみようか。敵だと困るし……」
外国文学のコーナー入口に立って交信を用いてみる。
勿論、私の後ろでフェルがいつでも剣を抜けるように待機しての状態だけど。
魔力が行き渡ったのか、私の目の前にはぼんやりとしたオウムの人がその羽の手で本をそうっと運ぶ姿が見えた。
あれ、鳥人族……じゃない……。
手がない! 羽が手になってる!!
思わず目を瞠った私に、サジミーナさんがそっと教えてくれた。
「鳥人族が今の姿になる前、あれが原型です。なにせ飛ぶとそれ以外の事が出来なくて不便だったので腕を生やす方向で進化したのですよ。その分細身になってしまったので耐久性が弱いと言われていますが、持ち前の俊敏さがありますからね」
「な、なるほど……。あの! すみません!」
私がオウムの人に声を掛けると、向こうは虚をつかれたらしく呆然とこっちを見ていた。半開きのくちばし怖いよ?
オウムの人はタイハクオウムみたいな感じの冠羽があって、透けているからちょっと怖い。
というか、この部屋全体にゴースト入るのかと思って思いっきり魔力展開したんだけど、オウムの人しかいなかったもんだからみんなに見えるレベルで具現化したようだ。
『お、おきゃくさまでしたか すみません!!』
「あ、いいえ、驚かせてすみません。図書室で大声出してすみません。蝙蝠とかさっき騒がしかったですよねごめんなさい!」
『い、いえいえ。彼らは本をかじっちゃうんでホント困ってたんですよー。私、力の弱い幽霊ですのでなかなか祟ることもできなくて……たすかりました』
「もしかして司書さんですか?」
『はいー。お探しの蔵書がおありですか?』
にこーと笑った司書さんは、久々に言葉が交わせて嬉しい、と言った。
そして司書だということで、俄然盛り上がったのは調査団のメンバーだ。
あれやこれやと質問しては、司書さんがどこにありますよーとか答えてくれる。
えっ、あれもしかしてなんだけどこの司書さん凄くない?
「司書さん、もしかしてこの図書館全部の本のありかわかるんです……?」
『ええーそこまで凄くはありませんよ! 流石に新しいもの……といってももう皆さんからしたら古書ですが。上の階の雑誌とかは無理ですね! 文学と古典、歴史書まででしたら大体は答えられますけどね!』
「十分すごかった!!」
『私のお仕事が役に立つなら嬉しいですよー。本の修復ができないのがなんとも悔しくて悔しくて……』
さっきふよふよ浮かせていたのも、簡易的な修復をするために移動させていたんだとか。
あんまり力がないから、ちょっとずつの修復しかできなくて……修復している間に風化しちゃったり、蝙蝠が齧っちゃったり、そんなのの繰り返しだったんだとか……。
お名前はミドリアーナさん。女性の方でした!




