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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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58:新たな真実

 シェンテダンジョンはどこかひんやりとした空気が漂っていた。

 入口は洞窟みたいにぽっかりしていたのに、入ると直ぐに遺跡の様相を見せていて、ところどころ苔むしていたり風化したりしていた。


 今のところ確認できているのは地下6階まで。

 そこから先に進むには巨大なボスを倒さないといけないけれど、遺跡全体に影響が出そうだということで誰も挑戦していないそうだ。

 おじいちゃんに言わせると巨大蜘蛛の進化系アラクネ種の暴虐タイプ……つまり話し合いは不可能なヤツだということ。


 しかもそいつが陣取っているのが書架のひとつ。

 つまるところ“保存対象”なのだ。

 ボスは本には興味がないようで、ボスが生む蜘蛛たちも本を傷つけることもない。

 広々とした天井に巣を作って時々迷い込む餌を食べたり共食いしたりとそういう暮らしなんだそうだ……。

 うわあ……うわあ、想像しただけでちょっと気持ち悪いね!!!


 音響効果でもあるのか、やたら歩くたびに音が響く。

 ひんやりとしてどこか黴臭くて、通路はヒカリゴケの明かりと、光の精霊(ウィル・オ・ウィスプ)がふよふよ漂っている。

 彼らは攻撃したりしなければ特にこちらを意識することもないらしい。

 私が少しだけ近づいて挨拶をすると、挨拶を返してくれた。客人は久しぶりだとはしゃがれた。


 第1階層はどうやら図書館らしく、受付と書庫に関する資料があるらしい。

 後は雑多に本もあったので、恐らく返却用とか新規でこれから図書館に並べる用のものなんかがあったのかな……?

 開いてみるものの、ぱらぱらと埃が舞ったり落ちたり、本が破れたりと散々だ。

 とはいえ正常(ノルモ)を用いて元通りにはしたけれども。

 流石に時間までは戻せないので、ページをめくるたびに破れるのではとドキドキものだ。


 この辺りは希少な本ではないらしく、調査団の皆はタイトルを確認して回るばかりだった。

 私としては『今日のレシピ~ドワーフの長寿、酒のツマミはこれで決まり!』とか『エルフの竪琴入門』とかも気になったんだけど……まあ、それは置いておいた。

 必要なら持っていくかと問われたけどね!


 出来れば魔法書系がいいなあ。マッヒェルさんが知ってるようなのだったりするのかもしれない?

 そういや念話はあの人どのくらいの距離届くんだろうか。

 肩にいる小鳥姿のままのアズールに聞いてみたけど、『あのヒトはものすごくすごい魔力過ぎて良くわからない』とのことだった。



 さて、この1階層はコイン虫が結構飛んでた。

 それを食べようとフライング・スパイダーがいたりとまあ要するに羽虫ゾーン……?

 フライング・スパイダーは性格的には温厚で、名前通り空を飛ぶ。

 大きさは人間族の男性の片手のひらサイズ。

 もっさりとした毛と大き目の青い目がちょっとグロテスクなのに羽はまるでカゲロウのようにふわりとして柔らかなものなのでものすごいギャップである。

 中には冒険者と意思疎通しようとするものもいるほど好奇心が旺盛な虫だ。


 ぎちぎちぎち。


 ぎちぎちぎち。


 ……ちょうど、私たちに興味を持って近づいてくるこのフライング・スパイダーのように。

 アズールはうるさいなあという風なので、敵意がないことは直ぐに分かった。

 といっても彼らは目の色でわかるので比較的わかりやすい種だ。

 青い目は平常時。オレンジ色は警戒時。赤い目は暴走時。黒い目は死んだ時。


 素材は採れない。

 むしろ生きている時に吐き出してくれる糸を交渉で手に入れると、非常に有益な素材になるらしい。


「アズール、会話できる?」


『イエス、マスター。見慣れない冒険者たちに興味があるようで、何の用か聞いています』


「なんだって?」


「このフライング・スパイダーは、何の用で来たんだって興味があるみたい」


「ほう、フライング・スパイダーと意思疎通ができるのか」


「私の従魔がですけど」


 バルバスさんとサジミーナさんの感心する様子に私はこの図書館を見に来たんだと伝えてもらった。

 そうするとフライング・スパイダーはますます興味を持ったらしく、どの階層まで降りるのか聞いてきた。

 なのでできれば6階も通過してみたいと言ってみると、ますます面白いと思ったのか私たちの周りを愉快そうに飛び回る。


 ちょっとフェルが鬱陶しそうな顔をしたけれど、邪険にはしなかった。


『ついていきたいって』


「ええ、それはどうかなあ……下の階層に行くともっと別の蜘蛛がいて、仲間も食べちゃうんでしょう?」


『そうだよって言ってマス』


「どうした?」


「このフライング・スパイダー、ついていきたいんだって」


「……珍しいな。いくら好奇心旺盛なフライング・スパイダーでもなかなかテリトリー以外出ようとしないものだが……」


『最近下の方が騒がしいから気になってたんだって。見て戻ったら自分は仲間に自慢できるからって言ってる』


「子供か!」


 思わず突っ込んだ私に、周りがどうしたと聞くので正直に答えるとレラジエさんが大きく笑った。

 無邪気な子供みたいん言い分のフライング・スパイダーのことを彼は気に入ったらしく、自分の肩に停まるといいよと快諾してみせた。

 この行為自体はほかの調査団メンバーに不快感を与えるものではないらしく、迎えるならきちんとお前が責任を持てよと言っただけだった。


 変な人たちだなあ、というのが今のところの印象。


「そういえば、下に落ちているコインはコイン虫の死骸なのかな?」


『あれは本物のコインだって。コインにしがみつくコイン虫を食べた後のカスだって言ってる』


 私からすると“ぎちぎち”か“ぶーん”の二種類しか音を立てないフライング・スパイダーなんだけど意外と彼(彼女?)はおしゃべりなのか、アズールがよく相槌を打っていた。

 しかしコインかあ。


 私は一枚拾い上げてみた。

 金色のそれは前世で見たコインチョコレートを思い出させる大きさだ。

 勿論重さは全然違う。

 ずっしりとしていて、絵柄は随分擦り切れているし綺麗な円形ではないので手作りみたいだ。

 立体的な図柄が彫られていて、まるで美術品みたいだ。


「綺麗ね」


「それは3世紀ほど前にあった公用金貨だな。それに彫られているレリーフは聖都にある中央神殿で、反対側にある女性の横顔のようなものは主神・マグノアルさまと言われている」


「えっ、そんなに昔から聖都ってあったの?!」


「聖都と呼ばれるようになったのはそのくらい前からだが、中央神殿そのものは創世の御代からあると言われていおるぞ」


 私の驚きにサジミーナさんがおかしそうに笑った。

 聞くと、皆調査団は専攻が違って、サジミーナさんが神学専攻なんだってさ。

 団長のバルバスさんが歴史専攻なのでおじいちゃんと仲が良いというのは頷けた。

 サジミーナさん曰く、主神がこの世界をお創りになった時の始まりの地が中央神殿なのだという。

 そこの奥には今でも主神が残したものが存在するからそこで結婚の誓いをすることが主神に直接届くのだろうという考えの元、今の結婚制度が成り立っているのではないかと考えられているんだって。

 各地で崇められている神々はこの主神・マグノアルさまから生まれた子供たちで、今はもう地上にはどの神もいらっしゃらず、どこかで眠っているんだそうだ。


 ……え、神さまって実在する存在なの? この世界。

 ああいや、女神の(しもべ)さんに会ったんだからその可能性はあったんだけど。


 てっきり精神生命体的なものだと思ってた。


 さらにサジミーナさんに言わせれば、今の各種族が生まれたのも神々が最初に作った生命体(ここに関しては諸説ある)が争いを始め、それに神々も加わった結果大きくパワーバランスが崩れて云々っていうことらしい。

 ちょっと専門的用語が多すぎてわからなかった。

 要するに神々が気に入っている種族同士が争っちゃったから神さまも関与しちゃって世界が荒れた結果、戦争を有利にするために多くの種族を生み出したということのようだ。


 へー、そうなんだ……。

 じゃあ人間族が“どの種族の子も産める”っていう特性は……そういうことなんだろうね。

 神さまっつってもなんだろうね、人間臭いなあ、とちょっと思わずにいられなかった。


「あっ、結婚情報誌だ」


「え、どれ?」


「古代からやっぱりあるんだねえ……」


「へー、さすがに絵とかはちょっと見れないね。その頃の服飾デザインとか面白そうなのにね」


 私が見つけた雑誌のようなものには古代語で『今結婚するならxxx(欠けてて読めない)が熱い!!』とかだった。

 あんまり今と変わらないんだね!

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