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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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幕間 男同士とちょっとした思い出話

『イリス嬢らは楽しそうにしておった。皆油断はしておらぬ故、ぬしらも安心するが良かろう』


「……そうか、感謝しようマッヒェル殿」


『いいや。イリス嬢にも言うたが、彼女は我が主、そしてぬしらは我が主の夫君となる男。我のことは呼び捨てで構わぬ』


「だが同時に師でもある」


「ごめんマッヒェルさん、僕らは師を敬うことを優先しようって決めたんだ」


『……然様か。ならばこれ以上は言うまいよ。――すでに心は立派な男じゃな。感謝しよう』


 そこはベッケンバウアー邸の一室。

 そこにいるのはフェルとアリュート、それにマッヒェルと、そしてドムにジャナリスにアルトもいた。

要するに、女子会をしているメンバーの夫(候補)と保護者だ。

 他のベッケンバウアー兄弟は早々に寝てしまったし、父親のマックは久しぶりに飲んでくると近所の獣人に連れられて出て行ったので帰ってくるのは朝になることだろう。


 彼女らならば大丈夫と言いつつも、じゃあ残された男はどうしようかとなって苦笑していたところなんとなく集まって話をしているというところだ。

 マッヒェルはいつのまにこさえたのか、肉の乗ったプレートと酒瓶をどんどんどんと彼らの前に置いて、自身も座った。


『どうせならば我らも飲み、そして言葉を交わしてみるのも良いやもしれぬ。我は結婚はせなんだが、今の時代ではなかなかに他種族婚は金銭が必要だとか。(しもべ)として今の事柄を知るも大事かと思うのだ』


「そうだな……ドムさんはどうなんだ?」


「うーん、俺は相手がひとりだからな。教会で紹介状はすぐに発行してもらえたよ。ピッキーの親父さんが大きな農場やってるからそこんちに認められたなら大丈夫だろうっていうのもあったんだろうけどな。そういう意味じゃフェルは長老であるシンリナスさんの孫だしサーナリアの許可はすぐ取れると思う。こういう時は女性側の親の意向ってのが大事だって聞いてるけど、シンリナスさんの影響はでかいと思うぜ」


「そうじゃな、マックは鍛冶師として有能であるし、彼自身がサーナリア出身の娘と結婚してこの地にやってきたことは周知の事実。故に異種族婚に対して下心よりも互いを大事にすることの重要さを知っているとまず父親として教えていると教会側も考えるじゃろう。一応言っておくが、教会は暴利を貪る危険な団体ではないぞ。多額の寄付金を要求するが、それだけの覚悟を求めていることであるし、実際に教会の運営費以外を孤児院の運営に宛てたり、冒険者学校の運営費にも一部宛てておるのじゃ。各国の王家などよりもよほど行動しておるわ」


「そうなのか……」


「特に冒険者が親であると、万が一に両親を失う子供や寡婦になった妻子が安定した生活を送れるまでの補助活動なども行っておるし、また冒険者でいられなくなった者の生活斡旋などもしておる。教会は独立した団体と捉えてよい。……まあ一枚岩ではないし、中には裏で賄賂を受け取ったり教会の威信を我がものとして振る舞う愚か者がいないわけではないがの……」


 苦笑したジャナリスがちびりと酒を飲んで、「しかしドムもイリスももう婚約かぁ……早いのう……」と楽しげだ。

 そんな老人の楽しそうな様子に少し羨ましそうにしていたマッヒェルは、緩く頭を振って新しく酒を空間から取り出して追加した。


『そういえば、夫君らは何故イリス嬢の夫になろうと……?』


「単純に言えば、好いたからだな」


「わあフェルはっきりしてるね。まあそれが一番大事なところだよね。……僕は、忌避されがちな魔人族だっていうのに彼女が“失う心配をしないくらい自分が強くなって見せるから安心しろ”って言ってくれたのが嬉しくて……あと料理上手なとこもね! 胃袋掴まれちゃった」


「それは大事であるな! 吾輩もアマンリエの料理がいつの間にか一番になっておったし、食えぬ日があると落ち着かんものなあ……」


「あー、ばあちゃん料理うまいもんな。イゴールに料理教えたのばあちゃんだろ? で、イリスもイゴールとばあちゃんから習ってっから料理上手なのも頷けるよ。」


 ちなみにドムの記憶にあるイゴールの最初の料理は目玉焼きだった。

 忙しい父親は実に料理が下手で、母親が死んでからは近所で買った冷めきった総菜パンが朝ごはんだったし、ドム自身もさほど得意ではなかったので弟たちに申し訳ないとは思っていた頃だ。

 ヘイレムは冒険者学校の寮に暮らしていたから母の死での一時帰宅だけですぐに戻らねばならなかった。


 そんな中でイゴールが、自分が妹を守るお兄ちゃんになるんだ、と慣れない手つきで料理を始めたのだ。

 しかも近所のおばさんたちに頼み込んで教えてもらうという努力をして、マックは恐縮しまくったが事情をなんとなく察している近所の婦人たちは哀れみもあって色々と親切にしてくれた。


 その後はサーナリアに移住して今に至るわけだが――ドムも感慨深いのだろう。


「イリスを泣かせたらとっとと連れ戻すからな」


「……そんな真似はしない」


「とりあえずはサーナリアの教会で紹介状を貰って、お金を稼ぎながら聖都を目指そうかってフェルと話してる所です。僕らは彼女に誠実でありたいと思っていますし、そのような人間でありたいと思っています」


『おうおう、そういえばナーシエルという名前は知っておるかの? イリス嬢が手紙を出して欲しいとそういえば頼まれたのじゃが』


 真剣な男たちのやりとりに、ふと思い出したマッヒェルの空気を読まない声が被った。

 そして同じように空気を読まない男、ジャナリスがその名前に快く応じる。


「以前依頼を共にした少年じゃな。なかなかに男気ある、成長が楽しみなダークエルフの若者じゃった。イリスのことを気に入っていたようじゃが……そうか、文通しておったのか。あの子はモテモテじゃの!」


 ジャナリスの言葉に目を大きく見開いたアリュートと、一気に機嫌を悪くしたフェルにドムが苦笑する。


(こういうところはまだまだガキなんだよなあ……でも稼ぎの面じゃあ俺よりも妹の方が先に結婚しちまうかな)



 夜は、まだまだ続くのだ。

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