表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/76

54:母の加護

 結局よくわからないうちにマッヒェルさんが私の従僕? 従魔? え、もともと人だけど従魔でいいのかな?

 いや今はリッチだから人間ではないし、魔獣とまあ同列っちゃー同列だけども。

 その疑問はともかく、バーラさまの部屋に牢獄から出たマッヒェルがどっからか調達してきたテーブルとイス、それからお茶とお菓子が並べられてなぜか寛いだ空間が出来上がっていた。

 シャンデリア的なものには鬼火が灯っているのが何とも言えない。


 けがの手当てを済ませたアリュートとフェルもなんとも言えない表情だ。

 アズールは私の肩に止まって居眠りを始めている。可愛い。


「あ、美味しい……」


「本当だ、美味しい……」


「マジか……」


『ふむ、我は独り暮らしももともと長く、リッチになってからは他者とのかかわりもなくての。食事も睡眠も必要ないが、まあ、味覚はあるからして時間つぶしに色々してみたのよ』


『マッヒェルは元来手先が器用な男だったからの』


 当たり前のようにふるまわれたお茶とお茶菓子が、マッヒェルさん作ということに驚きを隠せない我々を他所にバーラさまはふんわりと笑った。


『まずはイリスに詫びておこうな。そなたには余の加護を与えよう。このようなナリになってしもうても、多少は役に立つであろう』


「えっ……あっ、熱ッ!」


 バーラさまの指先が、私のピアスに触れた途端にかっと熱くなった。

 するとどうだろう、耳元の熱が引いたかと思うと、指先に触れるそれはまた形状を変えている。

 そのまま鑑定の魔法を使ってみると、それは【双子の願い】から【サーナリアの星】に名前が変わっている。

 大きな石のリングの下に、少し大きめのリングに連なる双子の石。


 サーナリアの星……双子の魔力+10ずつに加え、女王の祝福の気持ちが籠って魔力+30。

 陛下の加護は【女王の加護】。状態異常無効に即死無効に、これに何が加わるって?

 攻撃に関しての属性強化と、ダメージ軽減……だと……?

 なんなの? チートアクセなの?


『そなたはどうやら無詠唱が使えるようであるし、マッヒェルの魔術を継ぐには最適であろう。余も余の血脈にその類稀なる才を持つそなたが嫁いできてくれること、嬉しく思う』


『は、誠……我を追い詰めたあの強力な魔法、これからも成長することを考えれば逸材としか言いようはございません』


「すごいね、イリス」


「……ああ、すごいな、イリスは」


「いやいやいやいや?!」


 なんだろう……普通に戦っていた方が楽だよね……。

 あれ何でだろう、孤立無援な感じがするよ!


 ハルピュイアと神馬とリッチを従魔に従えて亡き帝国の加護がかかったチートアイテムを身に着けて幼馴染の男の子たちと婚約してるってものすごく……変な……状況ですよ?!

 いや、不死者が用意したお茶とお菓子ってのも変な状況だけどね?!


「そもそもリッチって従魔にできるかもわかりませんからね?!」


『ふむ……そうじゃな、それは後で試そう。従魔として常時付き添うにはそのハルピュイアもおるから我は別の所におれば良かろう。空間魔法も使えることじゃしな。なんならイリス嬢の専属執事とでも思えばよかろう』


『そうじゃな、どのような形であれイリスにとって最善と思えるよう取り計らえ』


『は』


 は、じゃないし!

 ああーしかしこれはもう断ることが許されない、そういう状況なのか。

 っていうか専属執事ってなに。浮いてて骸骨的な顔してて黒いオーラ放ってるどっからどう見てもラスボス的なのが執事ってなに。


 でも冷静に考えると、だ。

 私に色々教えたり手助けすることでマッヒェルさんは罪を雪ぎつつ、バーラさまの“唯一の”願いを叶えることができる方法だ。

 勿論許されざることをした人なのでこきつかえよという言外の圧力は感じるけれど。

 あとは純粋に私の身を案じているのと、私の成長に期待しているんだろう。

 マッヒェルさんの魔法の知識を死なせることも勿体ないとも思っているかもしれない。


 バーラさまはもう国に対して思うところはないんだろうか?

 滅びた原因を目の前に、そんな綺麗な裁きを見せたわけだけど……。


『余とて思うところがないわけではないぞ、イリス』


「えっ」


『そなたは存外、顔に出る。交渉事はそなたの夫に任せることじゃな。して、ファナリナスの子孫と言うのはそなたじゃな。名を聞かせてたもれ』


「……フェルナンド・ロウウルフ……、です。」


『……ファナリナスに、よう似ておる。あの子も、あの人(・・・)に似ておったが。毛色以外は、父親似の子であったから……。うむ、そなたにも余の加護を与えておこう。これをそなたに授ける』


 バーラさまが指輪を抜いて、フェルに渡した。

 それは女帝が身に着けるには随分簡素なものだったし、ちょっと細かったからフェルの小指にしか収まらないと思ったけどどうやら魔法具のようだ。あっさりとフェルの指のサイズに変化した。

 フェルが何か違和感を感じたのか、何度も手を握ったり開いたりしていた。


『それはガイアクリスタルの指輪じゃ。それそのものに身体強化の魔法がかかっておる。そこに余の加護を加えた故、そなたは剣士として比類なき力を得るじゃろう。じゃがそれに驕らず精進せよ、いつまでも嫁に守られていてはロウウルフの男が廃るのであるからな』


「……肝に銘じます」


 いや、私しっかり守られてますからね?

 でも今何か言っても聞き入れてもらえないような雰囲気だ。


 私は場の空気を変えたくて、バーラさまを見た。


「あの、私の呪いってなんですか」


「えっ、イリス呪われてるの?!」


 その言葉にさぁっと顔色を変えて反応したのはアリュートだ。

 種族的に呪っちゃう系なアリュートからすると、身内の責任が増えたのか心配なんだろう。

 っていうかやっぱり私が呪われているのってわかんないよね。


『うむ、そなたの呪いは……呪いと言うには少し違うかの。マッヒェル、説明してやれ』


『かしこまりました。イリス嬢にかかっているのは加護の一種じゃな』


「えっ、加護なのに呪い?」


『うむ、対象を害する目的がある呪いであれば、気付くものも多かろうが……基本的に加護はどのような人物であれ、視ることが叶わぬ』


「そうなんだ……」


『イリス嬢は視ることができる数少ない人種なのであろう。それに気付ける者は少なく、また気付けてもその芽が伸びるかはまた別の問題。その話はまた今度するとして、我が見る限り、その加護はそなたを“醜く”見せるものだ。それも人間族限定に。いかなる理由でそのような加護を与えたのかはわからぬが、イリス嬢に近しい者の成したことであると思われる』


「……人間族限定で、私を醜く見せる……」


 って一人しか思い当たらない。

 兄さんが武具に願いを込めて加護にしたように、そんなすごい限定的な加護をくれたのは唯一人だ。


「お母さん、だ」


「……なるほどな。これで今までのことも合点がいった」


「そうだね、僕らだけじゃなくて獣人族や、他種族の人はイリスを可愛いと表現するのに対して、人間族の人は大抵が見た目が残念だってイリスを評価した。おかしいなとは思ってたんだけど……。そういうことだったんだ……」


『ふむ、そなたらはどうしてイリスの母御がそのような加護を与えたのか知っておるのか』


 小首をかしげたバーラさまに、私は動揺を隠せないまま、母が私を庇って死んでしまった経緯を話した。

 その事にバーラさまは心を痛めたようで、優しく抱きしめてくれたし、マッヒェルは「これだから人間族は浅ましいのだ」なんて危険な発言をしていた。


 でもそうか、人間族にこれ以上目を付けられないように。

 そうお母さんは死んでからも守ってくれていたのか。

 私、愛されていたんだなあ、何度も思ってたけど。

 でも贅沢言えばもうちょっと違う方向にできなかったかなあ、何度も自分の顔がアレなのかって悩んじゃったよ……。


『真にイリス嬢を想えば、その加護は赦すのであろうな。恐らく兄弟縁者でイリス嬢を醜いと思う者はいないのではないか?』


「あ、そういえば……」


 おじいちゃんおばあちゃんはそもそも人種が違うので元々の私の姿が見えている。

 けどお父さん含め兄さんたちや、アルトさん父子とかも私を醜いなんて目で見てきたことはない。

 寧ろ他の人間族の冒険者とかがそういう発言をしていたことに首を傾げていたくらいだ。


 ってことは、疚しい目で見そうな人にこの加護は反応しているっていう……結構万能……?


『じゃがこの加護の力は、そなたの力が強くなればなるほど弱まるようじゃ。母親の愛でここまでよう守った。余も敬服しよう、そなたの母御は素晴らしい母御じゃな』


「……ありがとうございます」


『加護を他の物に移し替えることをお勧めしよう。イリス嬢の母御の想いを大切にすることが最善であると我も思うが……何か良いものはあるかな?』


「ううん……何かあったかな……どうせなら身に着けられるものがいいんだけど」


「あ、じゃあこれどうかな。イリスにあげようと思って買ってあったんだけど……」


 アリュートが差し出したのはよくあるような女性用のバングルだ。

 少し幅広めで銅褐色が鮮やかなのに青系の花が描かれていて、小さな真珠がところどころにあってそれがアクセントになっている。

 メインの青い花の中心に青い宝石が飾られているのが綺麗だった。


「わあ、可愛い!」


「母上が今回のことを非常に申し訳ないからってお詫びの品をとか言い出したもんだから、僕が選んでちゃんとお詫びしとくって言ったんだよ。本当にごめんね」


「ううん、いいの。おかげで陛下にお会いできたもの!」


「ああ、俺たちの悲願のひとつを叶える切欠になったんだ。感謝している」


『仲良きことは良い事じゃ。そなたらであれば、夫婦(めおと)になろうとどのような試練もなんとでもできるであろう』


『ではそのバングルの石を少々細工させていただくが、よろしいか?』


「どうするの?」


『我の魔力を使い、ただの石くれを魔石へと変える。これが宝石な事からそう難しいことはない。魔石へと変えた後、本来は何かしらの術を込めるがこの場合は加護を移す器にする。これも難しい事ではない故、今後イリス嬢にお教えしよう。』


「マッヒェルさんは本当にすごい魔導師だったんだね……!!」


 改めてよくもこんな人を牢獄に捉えられたよ!

 まあ油断と暴走が原因だったんだから、冷静なこの人と戦いたくはないよね……。


 っていうかこの人もう私に何を教えようとか考え始めてない?

 え、ちょっと覚えきれるかな……スパルタだったらどうしよう。

 見た目怖いけど(リッチだし)、でも意外と中身は紳士だったりするのか?

 っていうか教えるのが得意かどうかも分かんないし。


 私がそんなことを考え始めたのを他所に、あっさりとマッヒェルさんは細工を施し終えたらしく真っ青で明るかった石は少し落ち着いた色合いの藍に近い色のものに変わった。

 透明度は変わらないから、澄んだそれはとても綺麗だ。


 思わず「すごい」と呟いて感嘆のため息を漏らすと、マッヒェルさんは何を思ったのかぐるんと私から顔を背けて手を当てている。

 当たり前だと叫びそうになったのを堪えたのかな?

 はあ……それにしても綺麗だ……。


『わ、我の魔力が加わったことにより加護に変質が見られたようだ。イリス嬢、確認してくれ』


「え。はい!」


 バングルを鑑定する。

 そうすると出てきたのは【無銘の魔力バングル】と出た。

 効果は防御+30、加護は【無償の愛】。

 無償の愛……母親が娘をただ想う愛情。害意を持つ者に対して隠蔽効果を持つ。


 恐らくただの装飾品だったバングルに、マッヒェルさんの魔力で防御効果が出て、加護本来の隠蔽効果が安定した代物なんだろう。


 大事にしなきゃね。

 嬉しくてその場で装着すると、少し大きいかなと思ったそれが私の手首にちょうどいいサイズに変化した。

 ああそうか、魔力バングルとあったからフェルの指輪と同じで装着者にサイズが自動的で合うらしい。



◆◆◆



 そして私たちは、バーラさまが知る限りの過去の話を聞いた。

 フェルも自分の先祖の話を聞いて、今でも彼らを探し続けていた自分の一族を誇らしく思うと笑った。


 リリの小さなころの話や、多くの獣人族が本当は互いに仲良くしたかったこと。

 けれど草食獣人と肉食獣人の間で確執はそう簡単なものではなくて、夫婦になったものはこっそり暮らしていたこと。

 それでも自分の治世でそれらが減って、手を取り合う種族同士が増えて嬉しかったことなどを語ってくれた。


 もし、今この国を治める者に語れるならば伝えて欲しいという託は、フェルが預かった。

 自分はもう過去の遺物に過ぎなくて、これからの未来を担う若者が私たちみたいで良かったとも笑ってくれた。


 マッヒェルさんはちょっとばかり、後ろめたいことばかりだったのであーとかうーとか言っていたしキャラフラさんがずっと横で睨みつけていたけどね。


『ではイリスよ、そなたに最後に頼みがある。……余と、余の侍女たちを浄化しておくれ。そなたが良いのじゃ』


「――……はい」


 もう外は夜の時間帯なんだろう。

 石室はひやりとして、気温が一気に下がったのを感じた時にバーラさまがそう言った。


 もう落ち着いた、そんな顔をして。

 それはとてもとても、リリと同じ顔で――ああ、やっぱりこの女性はリリのお母さんなんだなあ、と今更ながらに思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ