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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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48:あいたい。

 陛下にお会いしたい。


 そう願ってみるものの、亡霊メイドたちは良い顔をしなかった。

 それは勿論平民如きが雲上人にという意味合いもあったのだろうけれど、大半が意思疎通をした年端も行かない少女を危険な目に遭わせたくないという気持ちもあるようだ。

 生き埋めにされて死んだっていうのにこの人たち優しい……!!


 でも私としてもここがバーラパーラネラドルスキリエ様(もう長いから内心はバーラ様と呼ぶことにした)にお会いしないといけないのだ。

 なんせ私の呪われた……じゃなかった祝福された装備『双子の願い』が熱を持っていて、ああ、このふたりの想いを伝えないといけないのだと。

 ただなんと言えば伝わるんだろう?


「キャラフラさん! 私のこのピアスに触れたら想いを感じ取るとかできませんか!!」


『なんですって?』


「本当は女帝陛下に直接そうしていただきたいんですけど……いや私この装備外すこと出来なくて。でもとにかく! 言葉でいくら言っても多分信じてもらえないし!」


『……私たちはものに触れることは……』


「大丈夫! 多分!!」


『とか言って浄化したり……』


 疑り深いな!

 まあ普通そうだろうけど。

 恨みつらみでそこら辺の人を祟ったりしないだけ十分優しい人たちだけど、埋められて殺されてる人たちだからね。


 基本信用ならないんだろう。


「リリファラパルスネラとファナリナスの想いを伝えたいんです!」


『あり得ない』


「言うと思った! だから触れてみてくれってお願いしてるんですって」


 一応言うだけ言ってみたけど当然信じてもらえなかった。

 髪をかき上げて耳を突き出すようにしてさあさあ! と訴えれば、キャラフラさんも覚悟を決めたのだろう。

 さすがメイド頭。

 毅然とした態度で、それでもちょっとおっかなびっくり私の耳に手を伸ばした。


『……嘘だったら取り憑きますからね、小娘』


「浄化するつもりだったらここら一体いっぺんにしますー」


『生意気な』


 すっと耳元だけ冷気に晒されたようにひんやりとした。

 それが亡霊の“体温”だと書いてあったので動じることはなかったけど、触れられたところは徐々に冷えて行った。


『嗚呼……嗚呼……姫様、若様……』


「理解していただきました?」


『誠、誠であったのか……。あのお二方は、どうしておられた。我らのようにたゆたっておられるのか。辛い目に遭われたのか。あの方々の行く末を、我らは知ることすら許されなかったのじゃ。お母上であられる女帝陛下の嘆きも、それが報いだというやつばらの哄笑にかき消され、そして陽の光届かぬこの地下に押しとどめられ、挙句の果てには生き埋めにされ……あの方は、恨むことなどせなんだ。ただただ子供たちを想っていたのじゃ。夫君を殺されたと知った時、絶望を感じても子供たちを守らねばと母としてあったのに、守れなかったことがあの方を……悲しみの亡霊に変えてしもうた。毅然とし、美しかったあの方が……死霊の女王(レイス・クイーン)としてただ嘆きの声を発するだけになってしまうなんて……』


「キ、キャラフラさん……?」


 一気に私に詰め寄るようにして問うキャラフラさんに、双子の気持ちとやらは伝わらなかったようだ。

 というよりは、この耳から感じる雰囲気は、あえてふたりの最後の力は気配しか彼女に伝えていない……?


 私はそこに困惑しつつ、まあ装備品は彼らの感謝の気持ちであって成仏してしまった彼らが何か伝言を残したわけではないし、と割り切ることにした。


「彼らの話をするのは、私としては願ってもない事です。でもできれば、誰よりも先に話すのは母親である女帝陛下にだと、思うんです。だからキャラフラさん、私を案内してくださいませんか」


『……理に適っておる。取り乱してすまなんだ、小娘……いや、名前を教えておくれ、お客人』


「イリス・ベッケンバウアーです。人間族ですが、サーナリアで育ったこの国の子供です」


『では案内しよう……とはいえ、我らは物質に直接は触れられぬ。入口を教えることはできるが、土をどかしてやることはできぬ。かと言って人が押し寄せるのは、墓所を荒らされるのと同義で……好ましくない』


「あ、大丈夫です。私は魔法使いですので」


『……そなた、死霊使い(ネクロマンサー)であろう?』


「もともとは普通の魔法使いでして、適性があったから皆さまと交渉するために基礎だけ学んだだけなんです」


『なんと……天才か!』


 ややっ、褒められてしまった。

 職業:勇者っていうのは才能が多岐に渡って……というか、手に入らない能力が無いってくらい幅広いスキルツリーを持っているからね!

 ランクごとにその利便性が違うわけだけど……。


 私は元々の究極スキルが建築とかだったから、実は土の魔法とは相性がいいんだよ!

 そして関係ない話だけど、この前世における勇者の究極スキル、これがなんと今回は既に表示が出てた。

 固有スキル扱いらしく、気が付かなかった……。


 私が持っている固有スキルは【建築:建築系に関する魔法使用の成功率200%】【料理:万能強化系効果+50 効果時間半日】【売買:値切る/吹っ掛ける 基本Lv.×1.5倍の値となる】という……なんだろう、超生活に根差した固有スキルだった……。

 カッコよさ? ゼロですね。

 で、この注目すべきは建築だ。

 建築系ってことは土を掘ったり固めたりする魔法が使えるはずなんだよね!


 なので呪文は知らなくともイメージで無詠唱できるんじゃないのか?

 そう私は考えた!

 もともと詠唱が必要なのは、全身に魔力を漲らせ周囲に存在する魔力を取り込み、呪文によるイメージを術者が固めるためのもの、という解釈でいいと思う。

 故にイメージと魔力コントロールさえできれば無詠唱にできる! はずなのだ。

 実際私はそうしているわけだし。

 とはいえ、私は想像力豊かなほうではないので、初めての魔法に関してはイメージの確立のために実際に唱えてみることにしているけれどね。

 新しい魔法を生み出す、となるとそこは頑張ってイメージしかないんだろう。


 ……まあ、新しい魔法を生み出す必要性はないわけだけど。


 とか思って気合を入れたら、フルネッタさんが野犬に交渉してくれて野犬が掘ってくれました。

 あれー……。

 なんでもその野犬たちは迷い犬(ミッシング・ドッグ)と呼ばれている犬でなんとも人懐こいことで有名だけど、なぜか群れで大森林を移動し続けるという不思議な集団だ。

 人懐こい上に時に人助けまでしてくれるので、女神の使いなんじゃって節まで出てるけど、フルネッタさん曰く運命の飼い主が現れるのを待っている厨二病集団なだけだという。

 なんじゃそりゃー。


 今回も亡霊となった主の窮地を救うために、力ない少女を救うために力を貸して欲しいと演技力たっぷりにお願いしたら二つ返事で来てくれたんだそうな。

 なにその濃いキャラ。

 っていうか他の犬人族も絶対知ってたでしょ。知ってたけど皆の勘違いからもう言い出せなくなったパターンでしょこれ!!!


 ま、まあともかく入口周辺の土をどけてもらったところで、一枚岩の扉が現れた。

 取っ手はなく、つるりとしたものでぴったりと入口を塞いでいる。

 しかもその上から封印の魔法が施されているようだ。それも結構強引な感じで、通常の魔法と違って色々独自の方法を使っているのかこれは解除が厄介そうだ。


 だけど天才って言われちゃったし。

 なんか期待した目で見てくるし!


「いっちょやったろーじゃありませんか!」


 ぐっと袖をまくって、私はその岩にぺたりと両の手をついたのだった。



◆◆◆



 そして苦労の果てに入った、石造りの地下室はひんやりとしていた。

 小さな部屋がふたつ、そして一番奥の部屋から冷気は強く漂っている。

 手前にあった小さな部屋には、人骨がとぼろぼろのお仕着せが転がっていた。


『……あれがフルネッタたちじゃ。私はバーラパーラネラドルスキリエ様のおそばに最後までいた故、そちらに骨はあろうな』


「あの泣き声が、女帝陛下……?」


『そうじゃ。あの日、閉ざされた日。あの日からあの方は常に泣いておられた。我らにもすまぬと言うて、夫君にすまぬと言うて、子供たちにすまぬと言うて、会いたいと言うて。国民にもすまぬと言うて、己を責めてばかりじゃった』


「……」


 おじいちゃんが言っていた、時代を先に行き過ぎた女性。

 その心は、きっとただの女の人だったんだろう。

 女帝で女傑だったのかもしれないけど、旦那さんを愛していて、子供たちを愛していて、だからこそ住みよい国づくりをしたかったんだろう。

 故郷を想い、家族を想った結果が、どこで間違ったのかなんて凡庸な私にはわからないけれど。


 でもピアスから感じる感情は、あの二人は母親を愛しているし、父親を尊敬しているとそんな感情を伝えている気がした。


『ここから先は私は入れぬ、あの方の嘆きが強すぎて、自我が保てなくなってしまうから……』


「扉を開けっぱなしにしても?」


『……大丈夫と思うが』


「わかりました、行ってきます」


 皇国最後の女帝の部屋にしてはあまりにも質素な扉。

 幽閉するためだけに作られた地下室は、当然住み心地なんて考えてなんていないだろう。


 私が据え付けられた扉を押せば、ガコンと音がして壊れてしまう始末だ。

 そして感じる、扉越しではわかりえなかった、ものすごい冷気。

 実際に冷たいわけじゃない。

 これは心が冷えていく、そんな冷気だ。いつ恐慌状態になってもおかしくない恐怖と悲しみがつまさきからてっぺんまで満たしていくようだ。


 だけど、私には効かない。

 状態異常無効の効果が発動しているっていうのもあるけど、ふたりの願いがこもったピアスが強く私に訴えているからだ。

 耳だけすごく、熱かった。


(わかってるよ、ちゃんと伝えるからね。ふたりのことも、ロウウルフの人たちの気持ちも!)


 私の目の前には、玉座のような椅子に座った美しくも恐ろしい、まるで冬の女王のような冷たい表情をした女性がただ涙を流していた。

 無表情に、ただただ涙を流すのだ。


 入ってきた私のことなど気にも留めない。

 悲しい、悲しい、悲しい。

 悲しい、辛い、悲しい。


 その気持ちばかりがこの部屋を満たし、それ以外を排除しようとしているように感じた。

 きっと常人が迷い込めば気が狂うだろう。それほどに重圧を感じさせるような悲しみだ。


「バーラパーラネラドルスキリエ様、お初にお目にかかります。私はイリス。貴女のご息女、リリファラパルスネラの友人です」


 返事はない。

 それでも別に構わなかった。


「バーラパーラネラドルスキリエ様、貴女は良い母親でした。彼女は貴女を大好きだと思っていたし、父上のことも尊敬していました。ファナリナスもきっと同じです。最後まで貴女の埋められたこの地を探していたと聞いています」


 泣き声は続く。

 だけれど、目の前の女性は、緩やかな動きで私を確かに見たのだ。


「バーラパーラネラドルスキリエ様、ロウウルフの一族は、今も貴女のことを探し、今も夫君のことを探し、ご息女のことも探し続けてくれました。ファナリナスはロウウルフの一族に看取られ、霊峰に埋葬されました」


 さあ、女帝陛下。

 私を見て。私の話を聞いて。


 貴女の娘と息子が、まっすぐに向き合った私のことを見て。

 私は勇者だ。C級の半端者だ。だけど勇者だから、できる範囲の人を救うことができたっていいと思うんだ。

 できないことが多いけど、友達のお母さんの涙を止めてあげるくらい、できたらいいなと思うんだ。


 だから。


「バーラパーラネラドルスキリエ様、私の友達(リリ)のお母さん。泣くのを止めて、あのふたりのことを私に聞かせてくれませんか」

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