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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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45:話し合いは仲良くね!

 パーティを組むならお互いに実力を知るべきだ、とアリュートは言い出した。

 まあそれは概ね賛成なのだけれど、内容はやっぱり人に知られたくないのが実情だ。

 私とアリュートは少しだけ考えて、グレイナスさんのお説教が終わっているかどうかフェルの様子を見に行くことから始めることにした。


 狩人の村落(といっても移動式)は狩りに出ている者もいれば、すでに終えて解体作業をしている者もいる。

 私たちの問題は彼らにとってどう捉えられているのかわからないけれど、アリュートは気にするようでもなくずんずんと進み、私はどちらかというと周囲の反応が気になって両手両足が前に出るかと思った……。


 幸いにもフェルはお説教から逃れられたようで、私たちを迎え入れてくれた。

 げっそりしつつも「なんとか兄貴も納得してくれた……。」と言ったフェルはやりきったと満足そうだ。

 彼に与えられている彼の部屋、というか彼のテント? はフェルの性格を示すかのように、あまり物はなかった。

 まああんまりあっても移動の時に不便だからね。

 誰もがマジックバッグを持っているわけじゃないし、数が入るとは限らないし……そう考えると物が少ないのは合理的選択ってやつなんだろうと思う。


 とにかく、私たちはギルドに行ったこと、聴取の日取りの件、先方パーティからのお礼のことでのギルドマスターとのやりとりを話した。

 その上でパーティを組むということにフェルも勿論異存はなく、お互いの実力を知りたいということも大きくうなずいてくれた。


「それじゃあ言い出した僕からがいいかな。と言っても僕の能力はフェルもイリスも知っている通り、精神系の魔法と剣技の魔法剣士型。自身への強化(ブースト)は出来ないけど、相手への一時的な弱体化(デバフ)ならできるよ。片手剣にバックラーがメイン装備かな」


「俺は魔法は使えない。両手剣をメインに使うが、片手剣も使える。攻撃は避ければいいと思う」


「いやいやそれはフェルの動体視力と反応できる身体能力がなせる業だからね?! 突っ込まれると僕もどう進んでいいかわからなくなるからね?!」


「ええとー……私は魔法と弓が使える。魔法に関しては、フェルには見せたけど結構な回復魔法が使えるし、攻撃魔法はアリュートも見た通り。属性の縛りはないけど、水系が割と得意な方じゃないかなと思ってる」


 とりあえずの特技を話せば2人も頷いた。

 お互いに狩りに出たことはないわけではないから、なんとなく、は理解しているというのが今の状況なんだと思う。


 だけどパーティを組む以上、しかも長く、いつかは結婚まで……となるとあまり隠し事をしない方がいいのだろうと私は少しだけ考えて、2人を見た。


「あとこれは、内密にして欲しいんだけど」


「うん」


「なんだ」


「私は鑑定魔法が使える。だから商人を介することも、商人ギルドにある鑑定魔法の魔法アイテムを買う必要もない。あとマジックバッグが作れるし、私は数制限がないに等しいバッグを持ってる。出所は、ごめん、言えない」


「……」


「……」


「隠してることはない、よ」


 暮らしていて分かったのは、やはり鑑定は一般的なスキルではないということ。

 そういうスキルを持つものがいないわけではないけれど、とても珍しいらしいこと。

 それ故に豪商や王侯貴族が抱え込んでしまうことも多いのでやはり隠している人が多い。

 古代の鑑定魔法具を同じく古代の複製魔法具を使って商業ギルドが販売していること。

 ただしそれなりに高価なので冒険者が常々使うようなものではない。

 ダンジョンでのボスドロップ品でよいであろうと思う物を鑑定するか、商業ギルドで見てもらって割安にするかだ。

 ただし商業ギルドで直接鑑定すると、鑑定額が安く済む代わりに買取を持ち掛けられたりして買い叩かれることもあるし、断ってもレア品情報が回るので売りたい額で売れるかは微妙なところだ。


 そして宝石や薬草、武器や防具に関しては専門家が昔ながらの目利きで鑑定していること。


 さらにマジックバッグだ。

 制限数がないことまで告げる必要はなかったかもしれないけど、一緒に過ごしていれば勘のいい2人のことだ、気が付いてしまうだろうと思ったから正直に告げておくことにしたけれど。

 正直今まで冒険していて、トップクラスであろうおじいちゃんやおばあちゃん、兄さんの言葉を聞いてもマジックバッグを使用する冒険者はトップクラスだし制限数がないなんていうのは聞いたこともないらしい。

 まあ普通秘密にしているだろうね!

 面倒ごとになるに決まっている。

 こういうのを利用しようと考える人は一定数いるはずなのだから。


 そういうことを考えると、鑑定スキル持ちの冒険者、マジックバッグ作成可能で制限数無持ち、しかも回復魔法が使えるという私は本当に王侯貴族が喉から手が出るほど欲しい優良物件なのだ。

 ……能力を自分の子に取り入れたい、という下衆な希望においてだけれども。


 そういう意味では冒険者としてはありがたいメンバーであると同時に、知られれば王侯貴族の手が伸びてきかねない爆弾でもある。

 これを聞いて2人の反応次第では婚約破棄もありうるな、と内心落ち込んだ。

 朝方ドキドキした分反動というのだろうか? 彼らの未来で考えれば、こんな面倒な女を、成人をまったり巨額を払ったりという価値を見出すかどうかは――


「イリスはすごいな」


「え?」


「本当、頼りになっちゃうなあ、僕ら旦那さまとして逆に頼りにしてもらえないかもよフェル!」


「それは困る!」


「ええ?」


 ぽつりと目を丸くしたままのフェルがすごいと褒めてくれた。

 アリュートも嬉しそうに笑いながら、自分たちの方が弱いんじゃないのかと慌てだす。


 2人のことはもうこれ以上ないってくらい、頼りになると前からずっと思っているのに。


「わ、私はふたりの事、前から頼りにしてるよ?」


「本当?!」


「ならいいんだが……」


「私で……大丈夫?」


「イリスがいい」


 フェルがきっぱりと言った。


「兄貴のことならば心配するな。元々、長男と末弟ということで兄貴は俺に過保護だったんだ。……イリスも聞いていると思うが、俺は本当は7人兄弟だ」


「うん」


 知っている。

 フェルには本当にたくさんの兄がいたけれど、皆狩りや病で死んでしまったのだと。


 グレイナスさんは、狩りに出た際に一緒にいた弟さんを亡くしてしまってそれ以来フェルには厳しくなったということを。

 彼なりの、愛情で、彼のトラウマなんだろうと思う。弟を亡くすことを、とても恐れているんだと思う。

 どれだけフェルが強くても、尽きない不安に。

 だから同じ群れの中にいてくれれば自分の目に届くのに、サーナリアの民であっても人種の違う私を妻にしたいなんて言い出したから。

 そうなったらもう聖都へ行くのは前提だ、あそこじゃないと結婚式は出来ない。

 そうなれば当然グレイナスさんの目の届かないところへフェルは歩んでいく。


 そこでなにかあったら?

 自分はまた守れないのだろうか?


 きっとそんな思いがグレイナスさんを苛んでいるんだろうと思う。


 あの人は厳しいけれど、厳しいだけの人じゃないことを私も知っている。

 何度かここに遊びに来たときは、また来たのかなんて言いながら、私が汗をかいているのを見てタオルと飲み物をくれたりしたツンデレ気質なんだと思う。

 本人に言ったらきっと超嫌そうな顔をしてくれるに違いない。


「兄貴は俺のことを護ってやりたいと言ってくれるその気持ちがあれば、俺は強くなれるだろう。ロウウルフの強い血は、きっと俺とイリスの間の子にも受け継がれるしな。兄貴もそれはわかってくれていた」


「うん……うん?」


「この白銀の毛並みの所為で、兄貴にも苦労を掛けていることはわかっているが……イリスがファナリナスの墓参りもしたんだとじいさまが言ったことで兄貴もロウウルフのメンバーとしてお前を認めると言ってくれた」


「いやあの、フェル、私たちの間の子って……」


「夫婦になれば、いずれは。獣人族も人間族も多産だからな、何人産んでもいいぞ」


 当然だろうと至極真面目に言い放ったフェルに、私は面食らう。

 私は2人と恋人になった、というだけでいっぱいいっぱいだけれど、フェルはもうずいぶん先まで考えているようだ。


 それともあれか、私だけがまた置いてけぼりを喰らっているんだろうか。


「僕は最初からイリスがいいなあと思ってたし、僕の家族は話したら諸手を挙げて賛成してくれたよ。早くキミに会いたいってせっつかれてるくらい」


「俺たちはお前が何を不安に思うのかよくわかっていない。もし……俺たちに、どうにかできることなら言ってくれ。全力でお前を守ると誓うから」


 フェルが私の肩を掴んで、まっすぐに私の目を見て言い切った。

 ああそうだ、私はこのフェルのまなざしに、いつも憧れて、そして好きだといつも思ったんだ。


「……私の魔力が強いから、お母さんは、私を守って死んでしまった」


「ああ……聞いている」


「私が女の子だから、魔力が強いから、」


「それはお前の所為じゃない。それにお前が女でなければ俺たちが困ってしまう」


「まあ男の子だったらきっと親友とかにはなれたかもしれないけどね! でも僕らは君が女の子ですごく嬉しいよ?」


「フェルたちも、巻き込まれちゃったら、」


「返り討ちにすればいい」


 溢すように伝える不安に、彼らは力強く答えてくれる。


 ああ、もう。

 なんて愛しい人たちだろう。

 アリュートに関しては、まだ恋だと言い切るには早いけれど、けれど異性として意識しているのは違いなくて。


 フェルに関しては言わずもがなだ。


 きゅん、とする。


「俺たちは、お前がもしお前の家族の敵討ちを願うなら叶えてやりたいと思っていた」


「でもイリスはそんなこと、願わないんだよね。だからさ、幸せになろうよ。何も隠さないでいい、魔力が強くて素敵な僕らのお嫁さんとしてさ!」


「魔力が強いお嫁さん?」


 なにそれ、と思わず笑えば。


 2人も、安心したように笑った。


「妻を守るのは夫の甲斐性だからね!」


「……だから、いつでも不安は口にしろ」


 フェルがそう言って私の肩を、やんわりと引き寄せて抱き留める。

 抱き留める……だと……。


 ふわっと頬をくすぐるフェルの白銀の毛にその現実が脳に届くまで私は数秒かかったと思う。


「ちょっとフェル、さすがに僕の目の前でそういうことするのはルール違反じゃないのかなあ?!」


「うるさい、お前は俺が説教を喰らっていた間イリスと出かけてたんだろうが!」


「あれだけイリスに他人行儀だったくせに!!」


「その分を埋め合わせしたっていいだろう!」


 真っ赤になってどうしていいかわからない私を他所に、2人の言い合いはしばらく続いた。

 その間もフェルは私を離さなかったし、アリュートも無理に引き剥がそうとはしなかった。


 でも2人がどんな顔をしていたかなんて私にはわからない。

 恥ずかしくってもうね!!

 こういうのって慣れるものなのかなあ……大人になればわかるのかなあ!

 精神年齢は大人のはずなんですけどね!!


 あ、その後なんとか冷静に話し合った結果、パーティ名は菩提樹(リンデンバウム)になりました。

 この世界の菩提樹は、私が知っている菩提樹とはちょっと違ってもっと大きいものだけど、家内安全とかそういうのを願ったりとか願いを叶えるとか、そんな意味合いが各国共通であるっていうのが素敵だと思うんだ。

 だから私たちも、菩提樹の下で誓いをする――なんて結婚式のセオリーはともかく、どこかの誰かを手助けしたりするような、小さな願いを叶えてあげられるパーティになりたいねってことでその名前にしました!


 これをやると個人のギルドカードにパーティ名が刻まれて、貢献度が上がるとなんとパーティごとに紋章が作れるらしいよ!

 有名な双頭の鷲(ダブルヘッドイーグル)はまあ名前の通りの絵柄が刻まれたカードを持っているらしいよ!

 これは兄さん情報だったんだけど、じゃあ私たちの場合はいつか菩提樹の木が描かれるのかなー。

そうなったらいいな、そうなれるように頑張ろう!

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