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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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44:パーティを組もう!

 アリュートと私が手を繋いでギルドに入ると、視線が一気に集まった。

 そりゃまあそうだよね! と思ったので私は手を離そうと思ったのだけど、アリュートはにこにことそれを拒絶した。無言で。

 いやあ、うん、怖いですね!


「こんにちは、昨日救出依頼を終えた者ですが……」


「お、同じくです」


「お名前をよろしいですか?」


 受付嬢は初めて会う女の人だった。人間族の。

 思わず珍しくてジッと見ていると、彼女の方は見られることになれているのだろう、でも子供相手だからとにっこりと笑ってくれた。


「私は今日こちらにお手伝いに来ているジルと言います。普段は聖都のギルド本部の方にいるからそちらの方にもぜひ顔を出してね」


「えっ、聖都の?」


「ええ、各ギルドに伝令を出している中で私が今回サーナリアの中でグルディを含むいくつかの都市を請け負っていたの。今回色々あったみたいだから、お手伝いをしているのよ」


「そうなんですね……!!」


「それでお名前をいいかしら?」


 ギルド本部があるという聖都に行くなんて当分先の話だけど……あ、でも結婚するためには結局聖都に行かなくちゃいけないのか。

 じゃあこのジルさんはとても優秀な人なのかなあ。綺麗だし。


「僕はアリュート・ソル・ディ・ピュロス。彼女はイリス・ベッケンバウアー。今日は来ていないけれど、フェルディナント・ロウウルフの3人で救出依頼を完了しています。聴取の件で本日伺いましたが……」


「少々お待ちください」


 ジルさんはおやっという顔を一瞬見せて、それでもすぐににっこりと綺麗な笑みを浮かべていくつかの書類に目を走らせているようだった。

 うーん、できる女だ。かっこいい!


「探索パーティ【栄光の道(グローリーロード)】の救出依頼ですね。パーティ構成5名のうち3名が救出、残る2名は死亡の結果遺品回収済み。相違ありませんか?」


「はい、それで間違いありません」


「では事務手続等ございますので、受付ではなく奥の部屋でお話をさせていただきます。どうぞお進みください」


「はい。さあ行こう、イリス」


「え、うん。あの、ありがとうございました!」


「いえいえ。またね、ヘイレムの妹さん!」


「……え?」


 実はジルさんがヘイレム兄さんの知り合いで、喧嘩友達で飲み友達だと知るのは結構後の事になるのだけども。


 閑話休題。

 奥の部屋へと言われたものの、実はこのギルドで客を招くような、商談用の部屋はふたつしかない。

 ひとつはギルドマスターの部屋。

 もうひとつは普通の客間だ。

 他にもこまごまとした部屋はあるものの、それは保管庫だったり職員の休憩室だったり、酒場の為の酒置き場だったりとまあ色々だ。

 何故知っているかと言うと、そう説明されたから。

 目の前に座る、ラット族のおばあちゃん――我らがギルドマスターに。


「すまないねえ、こちらから連絡を寄越そうと思ったんだけどねエ」


「いえいえ、僕らの方にも実は事情がありまして……日付指定させていただけないかなと思いまして」


「そうなのかい? それにしてもお前さんら随分仲がいいんだねえ。友達だってのは聞いていたけどねエ」


「ああいえ、僕らは先日婚約したんです。フェルと僕と、イリスの3人で」


「おや! おやおやおやおや!! まあまあまあああ!!!」


「アリュート!」


 ギルドマスターであるこの老女はおじいちゃん曰く、すごい盗賊らしい。

 名前はローレン・ディスペリア。

 鑑定眼が特に優れていて、彼女に解除出来なかった罠はないと言われるほどだったとか……。

 今ではエプロン姿に老眼鏡、片手に羽ペン、片手にソロバンとまあ……なんていうんだろう。

 商家のおかみさんみたいな感じなんだよね。


 その人はアリュートの言葉に目を輝かせて、「なんてめでたいの!」って騒ぎだすもんだから通りがかった人が何事かと覗きに来ちゃったよ……。

 ああ恥ずかしい。


「別に隠すようなことでもないだろう? 婚約指輪は今度用意するけど」


「そういうことじゃないよ……!」


「アリュートくん、こういう時女性は照れてしまうものなのよ! 嬉しくてもね!」


「そういうものなんですか? ……ごめんねイリス、僕も嬉しくて浮かれているものだから」


「も、もういいからお仕事の話しにきたんでしょ?!」


「うん。……ふふ、イリスはしっかり者だなあ!」


 ダメだこりゃ。

 何を言っても惚気になりかねないと判断して私はギルドマスターであるローレンさんを見る。


「そうねえ、それじゃあお仕事の話を先にしちゃいましょうね。でもねイリスちゃん、あんまり焦り過ぎたりいつまでも照れてちゃだめよ?」


「わかりました。それで?」


「あらあら……。やっぱりアマンリエの孫ねえ、照れ方がそっくりだわ! それで日付指定とのことだけれど、先方からはまだ何も連絡をいただいていないからギルド聴取のみで大丈夫だと思うわ。ただパーティ内の生き残ったメンバーから、貴方たちへの謝礼を預かっているのだけどどうするかしら?」


「謝礼ですか……」


 救出依頼でごくまれに、救出された側が謝礼を出すパターンがある。

 とはいえ、救出されるほどなので医療費やその後の生活費を考えると大したものがないのが正直な話で、それ故に救出依頼は好まれない、という側面もあるのだけど……。


 私はアリュートの方を見る。

 そして少し考えてから、ローレンさんの方を向いた。


「私とアリュートたちはパーティではありません。この場合、謝礼が何であれ半分、もしくは3分割になると思います」


「ええ、ええ。そうなるわねエ」


「であるならば、私は救出そのものには携わっておらず、遺品をひとつ回収したに過ぎないため謝礼はお気持ちだけいただいておきたいと思います」


「……ええ、わかったわ。イリス・ベッケンバウアーは謝礼を辞退。辞退分の謝礼は栄光の道(グローリーロード)へ当ギルドが責任をもって返却いたします。アリュートくんたちはどうするかしら?」


「僕らも辞退させていただきます。もう少し危険を抑えて救出せねばならなかったと思いますから。もしイリスが来なければ、下手をすれば1人、もしくは2人見捨てることも視野に入れなければなりませんでした。未熟さ故、受け取るわけには参りません」


「ふたりとも真面目ねエ」


 苦笑したローレンさんが書類にさらりとサインを記す。


「これはね、年寄りの独り言だけど。受け取ってあげるのも、優しさになるのよ? 若い人は矜持(プライド)もあるだろうし、貴方たちが今後の彼らのことを思って謝礼の品を断ったことも理解できる。けれどね、ひとつのパーティとして助けてもらったことに対してお礼ができないというのは、冒険者として心苦しいものでもあるの。そこのところを理解してあげて欲しいわ」


「……ですが、」


 アリュートが言い淀む。


 けれど私はローレンさんの言いたいことも良く分かった。

 冒険者として続けていくならば、恩知らずと少しでも思われないようにしないといけない。

 あのパーティはお礼をくれなかった、と噂にでもなればどこかで躓く原因になるかもしれないのだから。

 勿論そんな口さがない冒険者が救出依頼を受けるとは思わないけれど、何がどうなるかわからないのが人生だ。


 だから私は頷いて、ローレンさんの言葉の続きを促した。

 そんな私とアリュートを見比べてフッと笑った彼女は「ひとつ、提案なのだけれどね?」と言った。



◆◆◆



 ローレンさんの提案は、私とアリュートとフェル、3人にまずパーティを組まないか、というものだった。

 パーティを組むとメリットとしては冒険の幅が広がるし、消費アイテムの使用量が減るということ、各自の負担が減るというもの。

 デメリットは各々の力量で分配による問題が絶えないだとか、そういうことだけど私たちに関しては問題ないだろうとローレンさんは笑った。


 そしてこの世界において、だけども。

 パーティを作るには、他のパーティの承認が必要なのだ。

 だからパーティを作ることによって、先輩パーティである栄光の道(グローリーロード)が名前を貸してやる、という謝礼という実質お互い貸し借りなしになるっていうローレンさんの提案だ。


 前の、和子のいた世界ではパーティなんて勝手に徒党を組んで名乗っていれば良いとかそんな感じだったけど、この世界でパーティはひとつの勢力のようなものなんだそうだ。

 どこの国のどこのギルドで発足、その後メンバーが強くなった、減った、増えた、変わらない……などまあ、実績として記録されていくらしい。

 その結果、そのパーティの記録を見てお歴々が声をかけることもある、ということで当然そうなれば指名依頼とかが来て手に入る依頼料はどんと跳ね上がるってものだ。


「あなたたちも結婚資金をこれから貯めることも考えたら別々で行動するよりも一緒の方がいいでしょう? あちらも名前を貸すことでお礼にもなって懐も痛まない。どちらにとっても良い結果だと思うのだけど」


「……どう思う? アリュート」


「僕は良い提案だと思うけどね。パーティ構成としても僕らは相性がいいと思うし、今後一緒に行動することに関しては大いに賛成だから。フェルも文句はないと思うよ」


「でも……」


「グレイナスさんから不満の声はあがるかもしれないけど、フェルの人生はフェルが決めることだからね。それよりも問題はパーティ名だなあ、こっちは勝手に決めたら怒られちゃいそうだ」


「ふふふ、そういうことになったと先方に伝えて返事を待つのだから、貴方たちもその間にゆっくり考えれば良いわ。それと聴取の件だけども、申し訳ないけれど今他に立て込んだことまで出てしまって5日後でお願いしたいの」


「あ、それなら僕らは大丈夫です。イリスはどうかな?」


「私も大丈夫です」


「ではそのように。その時には私以外にも数人立ち会うし、いやな気持ちにはさせないと言い切れないけれどギルドマスターとして貴方たちの名誉は守らせてもらいますからね。それではまたお会いしましょう。……イリスちゃんは、アマンリエによろしくね」


「あ、はい」


 こうして、私たちはパーティを組むことにしたのだ。


 そうか、パーティを組むってこともできるんだよねえ。

 独り(と従魔)で生きていかなきゃなあなんてちょっと思ってたから新鮮だなあ!


 和子の時も独りだったからね……A級勇者さんが迎えてくれなかったらぼっちだったんだよなあ。


 そう思うと、イチから始めるパーティ生活だ。

 なんだか心が躍るよね!


「ねえねえイリス、パーティ名だけど地獄の番犬(ヘルハウンド)とかどうかな!」


「……ちょっとそれはフェルを交えて考えようね!」


 アリュートの命名センスがちょっとアレっぽいと思った私は悪くないと思った。

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