幕間:とある村のある一日
俺は、前世で日本人で社畜だった。
何をやっても冴えなくてモテるとかなくて、仕事と寝るしかない生活な挙句に過労死した。
なんて惨めな人生! だったのがところがどっこい転生しちまった。
しかも憧れの剣と魔法の世界で、しかも美形のハイ・エルフ族だぜ!!
記憶がある俺は当然小難しい言い回しも知ってたし、営業スマイルもばっちりだ。
もうこれって俺TUEEEEEEEフラグ立ちっぱなしだろ!!
惜しむらくはエルフ女ってのは美人だけど胸がないことだよなあ……。
どうも閉鎖的な連中だから外部の連中が少ないんだよなあ。
ダークエルフ族はまあ割とエルフ族に比べると肉感的だけど俺はもっとこう、ケモミミでボンキュッボンの女が俺の取り巻きになって欲しいところ。
で、話は変わるんだが、俺の幼馴染の位置にあるのは残念ながら男だ。
ナーシエルと言って俺んちと違って割と貧しい上に狩人しなきゃ生きてけない家柄だ。
俺? 俺は村の長の長男だぜ! 未来は安泰だ!!!
父さんはよくナーシエルを見習って武芸の練習や勉強をしろってうるさいけど、俺は転生者だぜ?
こんなのちょちょいのちょいだってんですよ。
実際俺がちょっと勉強すれば頭がいいっていうんでみんな褒めてくれるしな!
実践は……まあ、まだ狩りは出たことない。
だって俺が出てってでっかい獣とか狩っちまったらナーシエルの立つ瀬がないだろ?
まあ勿論そうなったら獲物はナーシエルに譲るけどな! 金には困ってないし。
幼馴染ってことで一緒に冒険者にもなった仲だし。
そのナーシエルが、最近ジイさんの友達の形見を探しに行ってくるとか唐突に言い出して出かけて帰ってきたんだけどちょっと様子が変わってた。
今まで以上に狩りに熱心に取り組んでるし、勉強も人一倍熱心だ。
なにやら金を貯めて従魔を育てるか、冒険者学校に行くか悩んでるらしい。
何をそんなに熱血してるんだかねえ。
俺は天才のはずだからそんなに慌てないけどね。
転生者で記憶ありなんだから、きっといつかデカいことを成し遂げるんだ!
しかしナーシエルが変わった理由が、「守ってあげたい子ができた」とはねえ……。
アイツ言動がじじむさいのはじいちゃんっ子だったからなんだろうけど結構そういう方面でも堅物だからな。
そんなあいつがそう思ったんだから何か惚れる要素があったのかと思って聞いたけど、不可解だった。
護ってあげたいけど自分より強そうとか……料理が上手だとか、その家族がめっちゃ強くて憧れたとかよくわかんねえ。
っていうか年下の子って思いっきりこいつロリだったのかと一瞬引いたわ。
でも俺たちがまだそんなにトシいってねえんだった、って気が付いてセーフ。
オーケーオーケー、つまり青田買いだな!
そんなら幼馴染のために俺も狩りをいっちょ手伝ってやろうじゃないの!!
……ってなんでそんな目で俺を見るんだよ。
俺は神童だぞ、弓だって練習でお前より良い点とってただろうに。
◇ ◇ ◇
「……旦那様、ぼっちゃまがナーシエルと共に森に行った後帰ってきてお部屋から出て来られませんが……」
「放っておけ。ようやく一歩踏み出て、命のやり取りに怯えたか疲れたかのどちらかだろう。ハイ・エルフたるもの有事には武器を携え前に出る。それがようやくあれにも理解できたのかもしれん」
「ナーシエルが一層修練に励んでいるのにつられたのでしょうか」
「ならばよい影響なのだがな」
「村の女たちもこれでぼっちゃまがただの子供から成長してくれると安心しております」
「……ああ、うん……」
そんな風に家で父親やその周辺が言っていたことなんて知らない。
俺は知らなかったんだ。
俺は強いはずだったんだ。
流石だななんて言ったナーシエルの方が、一歩も二歩も先に進んでる。まあそれは経験補正だろう。
でもあんなに血なまぐさい現場とは思わなかったんだ。
自分でとどめを刺して、自分で皮を剥ぐとか、内臓処理とか、俺前世でも料理とかまったくしたことなかったし都会生まれの都会育ちで魚だって丸ごとよりは切り身派だったことを思い出した。
い、いやあれだ。
美人でボンキュッボンの奴隷とか愛人とかのハーレムがあるじゃないか!
俺倒す、彼女たちが他の作業する。
オーケーオーケー、これでいこう。
しかし、うぇっぷ。
明日は、休もうかな。
ナーシエルは明日も行くっつってたけど。
「なあ、女の子にプレゼントするにはどっちの方がいいと思う?」
「……ナーシエル、今からプレゼント用意しても渡すのいつになるかわかんねえんだったら貯金に回した方が堅実だぞ」
「なるほど!」
まあ、幼馴染に恋の手ほどきくらいはしてやるかね。
相手がどんな女の子かわかんねえけど。
ついでにいうとナーシエルのやつ、ここまで想っておいてこれが恋だとは思ってないみたいだけど。
こいつがそれにいつ気が付くのか、ちょっと楽しみだなー。




