27:新たな出会い、その名はアリュート。
今回の冒険というか修行では、得るものがたくさんあった。
私はやっぱりまだまだ半人前で、情けないままだってことを痛感した。
でも収穫としては、宝物庫には結構な装飾品やら武器があったみたいで大幅に黒字だ。
ついでにリリを探す時に出てきた手錠だとかああいったものの中に一つだけ“特殊なもの”があって、それがどうやらナーシエルの探していた人の遺品ではないか、ということがおじいちゃんの調査で分かった。
ナーシエルはそれを持ってすぐにでも帰らないとさすがに家族に迷惑がかかるからとダンジョンを出て収穫物の清算後、翌日には帰国していった。
晴れやかな笑顔を浮かべたナーシエルは「また会おう」と言ってくれたから私も「またね」と約束してくれた。
そうだね、今度は私が妖精の国に行けるようになろうかな。
そしてリリは、ただいなくなったわけじゃなかった。
ちゃんと私に、残してくれた。
右耳に、小さなフープピアス。
小さな魔力石がついてる。これはきっと、リリの残した魔力の塊。
因みに鑑定すると『リリの友情』と出る。
『リリの友情:亡国の王女からの贈り物。イヤリング。魔力+10【加護:友情の絆】』
『【加護:友情の絆】大切な友達を想う真心が籠っている。状態異常無効。ただし装備解除不可。』
……ナ、ナンダッテー。
状態異常無効とかすごいな! とか思った後に装備解除不可ってそれ呪われた装備じゃん……っていう疑問が付いた。
まあリリが確かにいたんだって証拠なので、大切な思い出の品として大事にしたいと思う。
「さてイリス、我々も行こうかね。吾輩、そろそろアマンリエの料理が恋しいのであるよ」
「はぁい! 行こう、アズール。」
「ピチチチ」
肩にアズール、片手には作った鳥籠。
鳥籠に関しては新しく作ろうかと思ったのだけど、アズールが思いのほか気に入ってくれたので持ち帰ることにした。
このダンジョンにはまた来るだろう。
一応『踏破者』としてギルドでも登録してもらったけど、正直帰還時は落ち込んでいたからあまり記憶にない。
それにあのゴーレムを倒せたのは、兄さんとナーシエルがいてこそだ。勿論、おじいちゃんもね。
今の私とアズールだけだったなら、きっとこうはいかなかった。
前に進むために、だけどきっと私はこのダンジョンで、リリを思い出して足踏みするんだろう。
だからこそこのダンジョンを乗り越えられたら私は前に進めるんだと思う。
まずは、無事の帰還と相棒ができたことを喜ぼう。
家に戻って、家族に会って、してきた冒険を語って、やることはいっぱいだ。
そうだ、弓になる強い木も探さなきゃ。
リリにカッコ悪いところは見せられない。
「イリスとジャナリスさん?」
「おや、これはフェルナンドではないかね。買い物かな?」
「はい。……そちらは?」
「俺はヘイレム、ベッケンバウアー家の長男で冒険者だ。最近ちょっと余裕ができたから里帰りでダンジョンに行ってきたとこさ」
「イリスも?」
「うん!」
「……フェルナンド、時間があるならイリスと少し話すかね?」
「良いのですか」
「きみが良いのなら」
おじいちゃんが急にそう言ったことに、私と兄さんは首を傾げた。
そりゃフェルと話せるのは嬉しいけどね!
でもどうしてだろう。
わからないけど、フェルが「どうせなら紹介したい人がいる」って言ったのでついて行くことにした。
◇◆◇
彼らの集落の関係での買い出しか何かだと思ったら違うらしい。
フェルは冒険者としてギルドの依頼を終えたところで、薬草の補充をしてからまた次の依頼に行こうか仲間と相談しているところだったんだって。
「こいつはアリュート。アリュート・ソル・ディ・ピュロスだ。魔人族だが、特に噛みつくわけじゃない」
「ちょっとフェル? 僕に対する紹介が恐ろしく雑な気がするんだけど?!」
「そうだったか」
「そうだよ!」
「まあいい。こっちはイリス、祖父の友人の孫だ」
「イリスです、初めまして」
「アリュート・ソル・ディ・ピュロスです。アリュートと呼んでね」
ふんわりと笑った緑髪の少年は、まさしく王子スマイルを浮かべて私と握手をした。
フェルが言った通り魔人族らしく、そのキレイなストレートヘアからくるりと巻いた角が出ている。
初めて見た魔人族のそれに思わず視線が釘付けになっていると、アリュートはおかしそうに笑った。
「そんなに僕の角が気になるの?」
「えっ?! ご、ごめんなさい」
「いいよ、もしかして魔人族を見たのは初めてかな?」
「うん……おじいちゃんから聞いたことがあるだけで。この辺はサーナリアでも田舎の方だから、人間族も少ないくらいだし魔人族なんてもっといないから……」
「そっか、触ってみる?」
「えっ、いいの?!」
「獣人族の尻尾とか耳に比べたら、魔人族は角にそんなにこだわりはないよ。ただ先が尖ってるから指先は気を付けてね」
「う、うん……」
うわあ、角だ。
普通に固くて、普通の角だ。
アリュートの角は山羊みたいにちょっとごつごつした手触りだった。
「それで、ダンジョンの中はどうだった? 俺たちはまだ入れないから……教えてくれるとありがたい」
「フェルならきっとすぐだよ! えっとねー、色々あったよ!」
私は地図を取り出して、あれがこうで、と話し出す。
ふとそういえば、リリがリリファラパルスネラならフェルのご先祖にあたるんだなあと思ってじっと見た。
色まではわからなかったリリも、もしかしたらこんな風に綺麗な白銀の毛をしていたんだろうか。
「どうした?」
「えっ、あっ、うん……ダンジョンでね、リリって女の子の幽霊に会ったんだ」
「……幽霊?」
「うん……リリはね、」
私はちょっとだけ躊躇ってから、リリの話をした。
誰かに話してしまうのが勿体ないとどこかで思う反面、誰かにこの寂しさを理解してもらいたかったのかもしれない。
おじいちゃんにはリリファラパルスネラという名前だったということすら知らせていないから、ただ同じくらいの年頃の、仲の良い人間と話すことで落ち込んでいる私が元気づけられると思ったに違いない。
実際、フェルに会えて少し浮上したのも事実だから。
恋する女の子だなあ、自分。
リリという女の子がいたこと。
自分はもうすぐただの幽霊から亡霊になってしまうから、成仏させて欲しいと言ってきたこと。
波長が合ったからか、次第に仲良くなったこと。
彼女の力を借りて、従魔のアズールと出会えたこと。
最奥のゴーレムを倒し、彼女の骨を見つけて別れを済ませたこと。
別れ際に、彼女がピアスをくれたこと。
そんなことを、つらつら話した。
話しているうちに、やっぱり涙が零れてきてしまって、何度も何度もこするけど、止めようと努力するけど、止まらなかった。
「……辛かったな」
「そっか、イリスちゃんは頑張ってきたんだね……。フェルに近づくどんな卑しい人間族かと思ってたけど、君は本当に優しい女の子だったんだね! さあ涙を拭いて。君が悲しむときっとそのリリちゃんも悲しんでしまうよ?」
「え、うん……ありがとう……?」
差し出された絹のハンカチに、あれアリュートって良いとこのお坊ちゃんなのかなと思ったけどさらりとなんだか毒を吐かれた気がするのは気のせいだろうか。
そういえば、魔人族は身内想いの行き過ぎた種族だって聞いたけど。
もしかしてそれは家族だけじゃなくて友人関係にも及ぶのだろうか?
アリュートから借りたハンカチからは良い香りがした。
「あの、これ……洗濯して、返しますね」
「いいよ、気にしないで。泣いている女の子をそのままにするなんて紳士のすることじゃないからね」
「え、は、はい……」
「気にするな、アリュートはこれでも魔人族の国の貴族なんだ。といっても6男だから継ぐものもなにもないから冒険者を目指しているんだが」
「あはは、まあその通り!」
穏やかに笑いながら、アリュートはその髪よりも少し濃い色の緑の目を細めて私を見る。
「友達に害ある存在なら……なんて思ったけど、君とは僕も仲良くなりたいな。改めてよろしくね」
「う、うん」
こりゃまた大分性格に難のありそうな友達ができたな、なんて。
内心思っても、顔には出せないのであった。




