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C級勇者はどうやら逆ハーとかいう状況を手に入れた。  作者: 玉響なつめ


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24:自己嫌悪

【リリファラパルスネラの亡霊:Lv.9】。

 それは、リリ(・・)の名前が本当はリリファラパルスネラだということだ。


 でも、その名前は。

 つい最近、聞いた気がする。


 彼女の説明を、更に詳しく見る。


【亡国の皇女。遥か昔、ダンジョン内部にて死亡。弱呪・憑依・弱体効果を使う。】


 あ、ちゃんと幽霊っぽい効果を使うことができるんだー……って現実逃避してちゃだめだ私!

 リリはこうなるとやっぱり黒狼族が探す『リリファラパルスネラ皇女』でほぼ間違いない。

 黒狼族が探す遺骸が見つかっていないというのは奇妙な話だったけど、彼女はここにいる以上“体”はきっとどこかにあるはずなんだ。

 ダンジョンの中で失われた(というか吸収された)だろうと結論づいていたけど、違ったんだ。


 そして彼女はそれを弔って欲しいと願っている。


『どう? どう?』


 自身に関わることを少しでも知りたいと言った声が聞こえて、私はどうしていいかわからない。

 でも私の困惑は伝わったのか、あまり良い情報じゃなかったようだと気が付いたらしいリリは少し黙った。


『……イリスが伝えづらいなら、いいよ』


「でも……」


『イリスは、リリの為に一生懸命この怖い場所で頑張ってくれてるから、リリもわがまま言わないの』


 別にリリのためだけじゃない。

 私は私が強くなるためにここに来ていただけだ。

 いつかはこのダンジョンを踏破する、それが訓練をする上での目的だったから。

 ただそれを少しだけ急ぎ足にしただけだし、これからもここに何度も足を運ぶことにはなるはずだ。

 今は兄さんが前衛を務めてくれているし、飛び入りのナーシエルもいるから私は魔法詠唱に集中すればいいし、更に言えばアズールも加わって盤石の態勢だ。


 だけどおじいちゃんや兄さんが望む冒険者のレベルとしては、私とアズールでほとんどをクリアできるくらいにはなってもらいたいに違いない。


 だから、これはリリの為だけじゃない。

 だから、リリは“わがまま”を言っていいはずなんだ。


 私は、なんて伝えていいかわからなかっただけで。


「……詳しいことはわからない。でもリリの本当の名前は、リリファラパルスネラ」


『そう……』


「なにか思い出せる?」


『なにも』


 リリはがっかりした様子だった。

 その様子から本当に何も思い出せなかったのだろうということだけは伝わった。


 私が何かに気が付いたと知っていても、リリは聞かないでいた。

 私も大概物わかりの良い子供(・・)だけど、リリはなんの記憶もないのにとても良い子だと思う。

 このダンジョンの中で死んでしまって、なおかつ成仏がしたいと健気に働いている。


「……リリは、恨んでないの?」


『誰を?』


「誰をって……リリをひどい目に遭わせた人とか!」


『……よくわかんない。でも、きっと……そうだね、私が誰かを殺したいと思わない幽霊なのは、きっとそうしちゃいけないって思ったから』


「……え?」


 普通「なんで私がこんな目になんで遭わなくちゃならないんだ」って不満を持つと思うんだ。


 だって前世の私(三宮 和子)がそうだったから。


 異世界に召喚されて、挙句の果てにC級って笑われて、暮らすにも苦労して死んでいった。

 そんな生活がしたかったわけじゃないし、呼んだくせに笑うだなんて!

 不満ばっかりだった。辛くて、悔しくて、悲しくて。


 なのに、なんでリリはそんな風に思えるんだろう。


『あんまり覚えてないの。でもね、……こうするしかなかったんだろうなって、ぼんやり思ったの』


 こうするしか、なんて。

 幼い女の子を捕まえて、こんなダンジョンに置き去りにすることが?

 仕方がない?

 こうするしかなかった?


 ありえない!

 私が異世界の思考を持っているからとかそんなんじゃない、そんなことして何が変わるっていうんだろう。

 王政なんて知らない。

 だけど、そんな風にするなんて、納得ができない。


「私は……やだな」


『そっか』


 リリを困らせたいわけじゃない。

 でも、もやもやする。


 物わかりの良いリリに。

 物わかりの悪い私に。


 リリと出会って数日しかない。

 でもつながった感覚は、お互いの寂しさとか、そういった感覚を瞬間的に共有して、なんだか分かり合った気分だけにこういう不満を覚えるのかもしれない。


「……次の階で、ゴーレムだから。リリを見つけられるかわからない」


 私はリリをまっすぐに見れない。


「それに、ダンジョンの中の敵が強くなってるみたいだから、ゴーレムを倒せるかもわからない」


 言い訳ばっかり、先に出る。

 これは、ズルい私の中の大人の部分だ。


 わかってる、本当は、そんなこと言いたいんじゃないの。


 リリが良い子過ぎて、どうしてって私が言える側の立場じゃないのに、リリに言ったってしょうがないのに。

 リリが困ったように何かを言いかけたのに、私はそれを聞きたくなくて背を向けた。


 ああ、なんていやなやつだろう。

 いやな事には目を瞑って聞こえないふりをして、ダメな自分のそんな部分に蓋をして。

 和子が失敗してきた時のことを、まるで学んでいないみたいな。


「行こう!」


「……? どうかしたのか、イリス」


「なにもないよ!」


 心配してくれたナーシエルにまで八つ当たり気味に怒鳴って。


 兄さんとおじいちゃんが目を丸くしてたけど、私は彼らのそんな反応にすらイライラした。

 わかってる。


 一番イライラしているのは、こんな自分だってことくらい。

 変われない自分に、自分が一番イラついてるなんてことくらい、わかってるんだ。





 最後の階層は、ただ広い空間が広がっていた。


 レンガを敷き詰めたような綺麗なそこは、四方も全部レンガみたいなものでできている。

 装飾もなにもない、ただ魔法のカンテラが埋め込まれているだけのだだっ広い空間だ。


 そこにそいつはいた。


 苔むした石像。

 一見するとそんな雰囲気だ。


「近づくと反応するってタイプのやつだな」


「地図によればあやつの背中側に出口用のポータル部屋と宝物庫が存在するはずであるよ」


「宝物はすでに回収されているんだろう?」


「そうじゃな、ここまで来て倒された冒険者がおるならば、金銀財宝の類はその部屋に自動収納されておるはずじゃが」


「……ダンジョンってすごいね」


 追剥(おいはぎ)も真っ青だ。


 さっさと倒して出て行ってしまいたい。

 リリを見つけたくない。


 そんな気持ちが私の中にある。


「イリス……」


 兄さんが、そんな私を見透かすかのように厳しいまなざしを向けた。


「何があったのかは聞かない。だが、自分の感情だけで突っ走るんじゃないぞ」


「……う、ん」


 そうだ、もし何かあれば兄さんは私を守るために飛び出すだろう。

 兄さんは強いけど、おじいちゃんも強いけど。


 世の中、なにがあるかなんてわからない。

 私の身勝手だけでこれ以上巻き込んだりは出来ない。


 でも、この感情はどう逃がしたらいい?

 いっそ叫び出したいくらいだ。

 でもできるはずがない。

 誰にも共感なんてしてもらえない、だってほかならぬ自分がヒミツにしている所為なんだから。


 和子の事、リリの事、私が前世の記憶を持っていること、ああ、じゃあどうしたらよかったの。


「来るのであるよ」


 私の気持ちが落ち着かないままに、ダンジョンの守護者たる巨大ゴーレムが動きだす。

 地響きを上げて、私たちの前にゆっくりと立ち上がる。


 苔むした石像、レンガ造りの巨躯。

 だというのにそれは、滑らかな動きで私たちへの挨拶代わりだとでもいうように巨大な拳を振り下ろした。


 私たちが避ければ、そこは大きな穴が開く。

 あれがもし掠めでもしたらと思うとぞっとした。

 そして目を反らして恐怖に体を竦ませてはならないと見上げた先で、私は確かにゴーレムと目が合ったのを感じたのだった。

ダンジョン編はあともう少しで終わります。

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