22:順調な進み具合
1日しっかり休息をとって、もっと休んでもいいんだという保護者を説き伏せて再びダンジョンの中へ。
今回はアズールと私の連携も必要になっていたので広い空間になってからアズールを元の姿に戻した。
驚くことに、“従魔と連携して戦う方法”を教えてくれたのはナーシエルだった。
「良くあるパターンは従魔を盾に後方攻撃か、挟撃か、従魔に支援をさせるかだな」
「私は魔法がメインだけど、アズールは前衛って感じでもないよ?」
「だからこの場合はアズールに空中からの攻撃で、イリスが魔法を撃つ隙を作ってもらうのがいいと思う」
なんでも妖精族は魔力が高い者が多いため、従魔システムを活用することが多いんだそうだ。
エルフは攻守に優れていても、耐久性が乏しいから盾役になってもらうんだとか。
あとはハウンド系の魔獣を使って狩りをするってそれまんま猟犬じゃないの?
ダークエルフも同様だけど、エルフ族よりは耐久性があるから支援系の魔獣が喜ばれるらしいよ。
確かにナーシエルの戦い方が一般的なダークエルフ族のそれだとしたら双剣でスピード重視だから、敵の注意を逸らす役割を担ってくれる従魔がいたら戦いやすいかもしれない。
「ナーシエルも従魔がいるの?」
「いや」
ふるりと首を左右に振ったナーシエルは、少しだけ困ったような表情を浮かべた。
「うちはあまり裕福ではなくてね。従魔の魔石も高価だけど、従魔を養えるほど獲物を狩れるかというとそうでもないんだ」
「……やっぱり従魔って食べるのかな」
「うーん。ハルピュイアはちょっとわからないけど、エルフ族が好んで使役するのはウルフ系やドライアド系かな。ウルフ系は狩った獲物の一部を与えないと信頼度が保てないって聞いたよ。ドライアド系は精霊魔法の中でも土、水、風に適性のある人じゃないと使役しづらいらしいからちょっとそこはわからない」
「信頼度が保てない?」
「ウルフ系は契約主を群れのリーダーだとしているから、リーダーがエサを狩っても分配しないのは不満の種だ。勿論俺たちは肉を喰らうために狩っているし、皮を売るから一部を与えるだけならそれほど困ることもないけれどね。でもうちはあまり余裕がないから、食べる分、保存分、皮と素材でほとんど残らない。従魔を手に入れてどれほど狩る量が増えるのかがはっきりしないうちに失敗するわけにはいかないから」
「そうかあ……」
うーん、そういう意味じゃアズールは肉食だよね。
でも小鳥の姿で食べている少量の干し肉で満足してるみたいなんだけど、そこんとこどうなんだろう?
従魔についての詳しい飼育方法とか書いてある本はないのかな……。
『従魔は種類によって、契約主の魔力があればそれほど空腹にならないよ』
「えっ、そうなの?!」
唐突に聞こえた声に私は思わず振り返る。
声の主はもうわかってる、リリだ。
っていうかここまだ地下二階なんだけど、リリって意外と行動範囲が広いのかな?
『この間、ハルピュイアとの契約の手助けをした時にイリスの魔力が少し私と混じったから、私とも繋がりができたみたい』
「それっていいことなの?」
『このダンジョンの中を自由に行き来できるし、イリスの位置はわかるよ。それにイリスとお話するのにはっきりお互い声が聞こえるようになったみたい』
「そういえばそうだ!」
でも相変わらず私と以外、リリは存在自体が微妙みたいで兄さんたちは怪訝な表情を浮かべたままだ。
リリはそんな兄さんたちを気にするでもなく『今までの人たちも彼らみたいな反応だったから』とあっさりしたものだった。
というか経験からもう諦めてると言った方が正しいんだろうけど。
アズールはアズールでダンジョン内の索敵範囲が広いのか、どこから敵が来るとすぐに察知してくれる上にちゃんと今の所指示に従ってくれている。
私が魔力をアズールに集中すると魔石が輝くので、やっぱりあれは受信機に近いものなんだと思う。
ただ私と彼女の親密度の問題なのか、まだ私の魔力を注ぐとアズールは居心地が悪そうだ。
これは合体技とかアズールの強化とかは当分先だな。
◇◆◇
幽霊と従魔が加わった奇妙なパーティのまま、あのハルピュイアの階層もあっさりと実は突破した。
スキュラには思うところがあったのか、アズールはとても気合が入っていたし、ナーシエルも『スキュラの素材を分ける』という兄さんの言葉にものすごいやる気を出した結果だ。
ついでに従魔の魔石もゲットだ。
とても採掘が難しい代物だとおじいちゃんが言っていたけど、リリ曰く魔力で掘削するから獣人にとって難しいだけの問題なのだと教えてくれた。
それを伝えるとおじいちゃんはなるほどと納得して、ちょっと試していたけどなかなか難しいみたいだった。
私は私でちょっと苦戦したけど、アズールの胸元に輝くのより少し大きいくらいの塊を採掘してインベントリに入れておいた。
ちなみにアズールだけど、従魔になったからなのかもう従魔の魔石に何も思うところはないらしい。
ちょっと飛ぶのに邪魔だなーくらいの反応を見せていた。
そして地下6階。ここはメデューサが出てくる階層だ。
これは危険だねとみんなで警戒したところ、意外な出会いがあった。
なんとダンジョンの中で集落を作っているハイ・メデューサに出会ったのだ。
なんでも進化して言語の習得と生活を営む集団ができたのだという。
へえー、こうして種族が増えるんだね……。
ともかく、彼らは地上に出ても受け入れがたい種族だと自覚はあるからこのままダンジョン内で暮らすらしいが冒険者に間違えて狩られるのも困るから知恵を貸して欲しいと言うのでおじいちゃんがいくつか案を出していた。
そのお礼に次の階層へ安全に案内してもらった上に、石化用の薬草を分けてもらった。
ついでに、ダンジョンの階層を魔獣が移動することは別段制約がないということも教えてもらった。
単純にそんな知能がないということだったそうだ。
「……イリス、ランドドラゴンの肉って美味いと思うか?」
「ナーシエル、お腹空いたの?」
「ちょっと気になっただけだ」
「あれは美味いぞー、ステーキがお勧めだ!」
「兄さん食べたことあるの?」
「おう、地上のだけどな」
「キュルルルルル」
それは楽しみだ!
ランドドラゴンは巨大なトカゲだなあというのが私の感想。
生息は薄暗く湿気のある洞穴が一般的。だからなのか、このフロアは洞穴っぽい造りになっている。
分岐点も少なくて、一方通行というほどでもないけど結構広く障害物が少ない分、向こうを避けて通れない地形ばっかり。
だから倒す以外ないんだけど、皆元気だからむしろ「お肉があっちから来ないかな!」くらいに思ってるような気がする。
『イリスは、もう従魔とすっかり仲良しなのね』
「仲良しかな」
『リリにはそう見えるよ』
「リリは、……ううん、なんでもない」
私とリリを繋ぐ魔力。
それでもアズールのように記憶が見えたとかではない。
けれど、彼女のことを理解したような気分で――やっぱりそれが良いことか悪いことかはわからなかった。
「リリも大事な友達だよ」
思わず濁した言葉の代わりにするりと出たのはそれだ。
『……ともだち』
「あっ、ごめん、リリはそういう――」
『うん。……うん、ともだち』
笑った気がした。
リリの姿は見えない。
やっぱりうっすらぼんやりとした靄だ。
でも笑った気がした。
そして急激に、恥ずかしくなった。
前世で「友達だよ!」なんてこっぱずかしいセリフ言うわけないし。
いや小さな子供だった頃はあるだろうけど。
あれ待てよ、今の私は小さな子供。セーフ?
周囲の目からすれば微笑ましいかもしれないけど、私的には自分の行動で大ダメージな訳なんですけどね!
でも、うん。
ともだちかあ……えへへ……。
「キュルルッ!」
「ランドドラゴンが来るぞ、数は複数みたいだな」
「そりゃぁいい、ステーキ食い放題だな」
肉好きのメンツが喜色を隠さず武器を構えた。
ああ、うん。ステーキねステーキ。
もうなんだかダンジョン攻略するっていうよりも食材を求める旅に変わってないかな?!
「イリス、どのくらい食べるんだ?」
「え?」
「ちゃんと獲ってくるから、待っていてくれ」
ナーシエルがとても良い笑顔で言う。
それってなんだか狩人の旦那さんが奥さんに言うようなシチュエーションじゃないの?
思わず乙女ゲームの選択肢みたいのが頭に浮かんだ。
⇒「頑張ってね!」と言う
「別に」と言う
特に何も返さない
いやいやいやここ今は現実だから。
カッコいい男の子が目の前にいるけど、そういう意味じゃないから。
ちゃんと(美味しい肉を傷つけずに)獲ってくるから、(鉄板を熱して)待っていてくれ。
ってことでしょ?
わかってるよ!
勘違いなんてしないんだから!!
そして戦闘の結果、勿論しっかり勝った彼らの中でアズールが一番大きな獲物を踏みつけるようにして私に向かって勝利の勝鬨よろしく甲高く鳴いて私にそれをくれたのだった。
勿論、美味しい部分をあげたよ!
アズールは生より調理された肉がお好みだったらしく、塩分だけ気を付けて料理を分けてあげることにした。
こっそり覗いたステータス画面に、親愛度:4ってなっていた。
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