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2:今度の家族はあったかい。けど環境は不遇である。

 どうやら異世界召喚からのさらなる異世界転生をしてしまったのだ、と理解してはや数年。

 成人間近の精神年齢でおむつ替えされるのも何度目かで諦めた。


 三宮和子さんのみやかずこ、転生した現在の名はイリス・ベッケンバウアー。

 名前はカッコいいが平民である。

 どうやら前世の記憶があるだけでなく、残念勇者だった頃の能力も引き継いでいるようだった。


 5歳にもなると周囲とまともに意思疎通もできるので、自分が置かれている状況を把握するくらいにはなった。

 彼女は末っ子で、上に兄が5人いる。

 父親のマック・ベッケンバウアーは職業が鍛冶師だ。

 腕は良いらしく、かつては冒険者たちに引っ張りだこだったらしい。

 実直で嘘をつかず、商売がその分下手だが腕が良いので食うには困らないし家族のことを何より愛してくれる良い父親である。


 長男のヘイレム(20)は冒険者を目指して現在は大陸の中心にある『聖都市』で冒険者育成学校に通ってその後は冒険者として旅を続けている。

 年齢的にはイリスと15も離れているし彼女がこの年齢になる前にはヘイレムが学校の寄宿舎へと行ってしまったのでほとんど接点はない。

 けれど彼も妹は可愛いのか、時折手紙と共に土産を寄越してくれる。


 次男のドム(19)は父親の跡を継ぐのだと鍛冶師を目指している。筋は悪くないらしい。

 最近獣人の冒険者に想いを寄せられているのだが、どうにもこうにも鈍くて妹としては申し訳ないと思うくらいだ。


 三男と四男は双子で、アイセル(17)とビッケル(17)だ。

 彼らはそれぞれに革細工と骨細工を得意としていて、最近では父親の鍛冶工房の横でちょっとした防具や武器を一緒に置かせてもらっている腕前だ。

 主にこのふたりが現在ベッケンバウアー家の食卓事情において割合を占めている。狩はかれらのお手の物。


 五男はイゴール(15)といい、イリスの世話を一手に引き受けてくれている。

 母親代わりをしている所為か、それとも本人の素養なのか最近オネエなんじゃないかという疑惑がある。

 服飾系に憧れているらしく、組紐やアクセサリーを作っては眺めて喜んでいる。


 とても仲の良い家族だが、話題として触れてはいけないのが母親のことだ。

 イリスが知っているのは、父と母はとても仲睦まじい夫婦であったこと。

 父親が人間族、母親はカラスの獣人(祖父)とエルフ族(祖母)のハーフだったということ。

 母親は冒険者をしていて旅の最中に父と出会い、実直なその性格に惚れこまれて押しかけ女房でとんとん拍子に結婚に至ったんだそうだ。

 それでも二人は仲睦まじく過ごしていたが、事故で母は死んでしまった、とまあそんな話しか聞けていない。



 大陸の中央、そこに立つ聖都市の腕利き鍛冶師だった人間族の父が今、獣人の国の端で暮らす現在を考えると――そこにはきな臭さが隠しきれない。

 だがまあ、イリスの見た目は5歳児である。

 可愛い娘、大事な娘で大事な妹と家族はとにかく彼女を傷つけないように、まっすぐに育つようにと心を砕いてくれているのだ。


(でもさ、噂は聞こえちゃうよねえ)


 幼い子供だと思えばこそだろう。

 大人たちの噂話にそっと魔法を使って聞き耳を立てれば、おのずと理解できることは増えていった。

 母は誰かに殺されて、身寄りのない父は母の両親を頼るしかない状況だったんだ、と推測する。

 そしてそれはこの世界で“女性が少ない”ことが原因であるように思えた。


 何故ならイリスという名前は男女兼用のような名前で。

 彼女は兄たちのおさがりだから、という理由で男の子の服を着せられ、髪を伸ばすことを禁止され、他の人に女であると言ってはいけないよ、と兄と父に強く言い聞かせられて育っているのだから。

 普通ではない彼女にしてみれば、それはもう答えそのものだよなあ、と思わずにいられなかったのだ。


 この世界での女性は少ない。

 その上、他種族が存在する中で面白いことがある。

 人間族の男性が異種族と結ばれると、人間族の子供が生まれる。

 人間族の女性が異種族と結ばれると、異種族の子供が生まれる。

 他の種族の場合、人間種外男性と女性が結ばれると男の子供は父親の種族に、女の子供は母親の種族になるらしい。だがその場合、種族特有の能力が失われがちになるらしく、異種族婚というのはあまり推奨はされていない。

 更に言うと人間族以外とつがいになった場合、生まれる子供の数は生涯で一人か二人、しかも男児ばかりという難題が待ち構えている。

 そういった背景から現在女性不足&少子化で、結局のところ異種族婚姻やむ無しという雰囲気でもあるようだけど。

 更に言うと一夫多妻ならぬ、一妻多夫まであるらしい。

 魔力は基本的に親子で遺伝しないと言われているにも関わらず、人間族の女性の場合それを子供に遺伝させることがある。

 などの理由から、人間族の女性でなおかつ魔力もちは大層珍重されるのだ。


 更にイリスを困惑させるのが、魔法の種類だ。

 こちらでは鑑定の魔法スキルはとても珍しいもののようで、これは知られてはならないなと考える。


(あとは、スキルツリーが初期化されてたんだよねえ)


 スキルツリーは召喚された世界でのものだった。

 レベルという概念はその世界の人間にないものの(ステータス表示を出せるのが異世界人だけなので、恐らくこれは召喚された者だけの特権のようなものだったのだろうと思う)実際にステータスを出すとレベルという文字が出てくる。

 そのレベルがある一定ラインに達するとそのスキルツリーから新たなる力を得ることができるというものだった。


 彼女がC級と呼ばれる所以は、基本ステータスが低いからだけではない。

 そのスキルツリーの内容によるものだ。

 主に勇者と言えば派手な攻撃魔法、攻撃手段、全体を守護するような補助や回復と言ったイメージがあるが、彼女の持っているスキルは生活に適したものばかりだ。


 例えば、アイテム生成。

 しかし突き詰めればエリクサーだって作れるようになるかもしれない。

 だがそれにはレベルを高く上げ、他の攻撃スキルだのなんだのを放置して始めて取れるくらい最終位置に属する。


 例えば、料理。

 彼女が料理したものにはステータスアップの効果が付く。その上食用かどうかも見極められるのだ。

 とはいえ、このスキルが活かされるのは平時の活動においてであり、深部のダンジョンなどで食料が調達できない場所での効果は見込めない。


 属性魔法に至ってはそれだけしか記載されていないのですごそうだが実際にはそれほど望まなかったために初期のままだ。

 回復魔法系統だけは自分を守るためにも特化したけれど。

 だがそれだって回復魔法を使う仲間がいれば事足りるだけの話でもある。

 個人のスキルツリーも極めればすごい攻撃魔法や技が使えるよとA級勇者さんは言っていたが、個人スキルツリーの最終を見ても「建築:一夜にして一軒家が建てられる」とかそんな文字が見えた段階で諦めていた。

 そんなそのスキルツリーが一新されていたのだ。


 とりあえず肉体強化と知能強化、それと魔力強化にポイントを割り振ってもう少し子供らしく大人たちに甘えて幼少期を過ごすのがよさそうだ、とイリスは思ったのだった。

 そう、彼女はもう三宮和子さんのみやかずこではなくイリス・ベッケンバウアーなのだから。


 少々男の子として育てられようが問題はない。

 兄たちに感化されたのだと思えばなんてことはない。

 その兄たちは家の中では可愛い妹として愛でてくれるし、父親は優しいし、祖父母もとても優しいのだから。


 日中祖父母の家で書斎に入り浸りな5歳児は、ふと自分のステータスを開く。



名前 : イリス・ベッケンバウアー

性別 : 女

種族 : 人間

職業 : 勇者

ランク: C

レベル: 3

HP : 3500

MP : 7000

攻撃 : 1200

魔力 : 5000

特技 : 神聖魔法(Lv.1)/回復魔法(Lv.8)/属性魔法(Lv.1)/身体強化(Lv.1)/鑑定(Lv.9)/翻訳(Lv.9)/アイテム生成(Lv.1)/属性耐性(Lv.7)/恐怖耐性(Lv.8)/知力強化(Lv.8)/魔力強化(Lv.5)



 何が理由で特技のレベルが上がるのかはわからないが、前の世界にいてもわからなかったことがなぜかわかる。

 それはもしかして鑑定の仕組みでも違う世界で変わったのだろうかとも思うが比較は出来そうにない。

 ただ死ぬ前よりもスキルレベルが上がっているようで、鑑定してみると以前よりもずっと詳しく情報が見ることができた。

 とりあえず、恐怖耐性ができたのはきっと赤ん坊からやり直して兄におむつを替えてもらうという羞恥に耐えきったから、だと思われた。

 あとわかったことは、魔力強化を組み込んでもMPに変化はなかった。

 単純に魔法の威力の問題らしい。

 あとはレベルだ。

 異世界で死亡したときは88だったものが転生により1になってた。

 でもステータスは引継ぎだったので、あれだ。強くてニューゲームってやつだ。などとイリスは思ったが賢明にも口には出さない。


 でも彼女は未だ、ランクCなのであった。

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