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15:二つ名をいつか

 重たい過去の話を聞いたけど、おじいちゃんは暗くなった雰囲気もなんのそのと言った様子で呵々と笑って今を生きていることが大事で、過去は過去として学び活かすようにと私たちを諭した。


 ちなみにあの獣人族の冒険者二人はもともとコンビだったとかで、身の丈に合わない行動は止めて一旦静養してからまた冒険者家業に戻るよと私たちに何度もお礼を言って別の宿屋へ向かって行った。

 人間族の二人は依頼がとずっとぶつぶつ呟いていたので私たちへのお礼よりももっと手伝えと傲慢で、結局兄さんが睨みつけたら黙ったからきっとまた冒険者ギルドへ行って誰かを雇ってあそこに行くつもりだろう。


 その前に失敗の報告を出すか、獣人さんたちからの苦情かで依頼を受けてくれる人がいるかどうか微妙だけど。

 やっぱりダンジョン攻略となると、信頼関係と実力は大事なんだと兄さんがしみじみ言っていたしね!


 で、私たちは再びダンジョン攻略を開始する。

 私はやっぱりあの女の子のことが気になったけれど、そう簡単に出会うわけでもないだろう。

 会えたら今度はきちんとお礼くらいは言いたいなと思う。


 ナーシエルは双剣を使うと言っていた通り、腰にはそれが装備されていたけど。

 双剣と呼ぶには、少し短い気がした。

 私の視線に気が付いたのか、彼は「珍しいか?」と小さく笑った。


 仏頂面の男の子だとばかり思っていたけど、どうも彼は真面目で、そして急場だったあのパーティが気に入らなかっただけで基本的には親切だった。

 年下の少女である私にも、きちんと同じ冒険者としての対応をしてくれる。

 ちなみにナーシエルは私よりも年上の、12歳でした。

 12歳で国を越えて冒険できるってすごくない? 私みたいにチート家族がいるわけじゃないらしいのにさ!!


「この双剣は確かに通常売られているものよりも刃渡りが短い。だが俺はまだ体格も小さいし、自分に合わせてあるんだ」


「そうなんだ~……。でもそれだと敵に致命傷を与えるのが難しいんじゃないの?」


「うん、だけど俺には魔法もあるからね。敵と戦う時に武器に闇の力を上乗せするんだ」


「……教えてくれるのは嬉しいけど、言っちゃっていいの?」


「別に奥の手ってわけじゃないから」


 くすっと笑うナーシエルは、年相応なのにすごく綺麗な笑みで思わずどきっとした。

 いかんいかん、私はフェルという想い人が……って、5歳児だけどね!!


 で、ついでにちょっと疑問があったので前を歩く保護者二人に私は疑問を投げかけた。


「ねーえ、兄さんおじいちゃん!」


「うん? どうした?」


「忘れ物でもあったかね?」


「私って本当に5歳?」


「え? 7歳だろ」


「……おおう、そうじゃった!」


「じいちゃん?」


 兄さんがあっけらかんと笑顔で答えた横で、おじいちゃんが数瞬置いてからぱちん、と自らの額を叩いていた。やっちゃったーと言わんばかりに。

 そんな二人を見て私が憮然とし、ナーシエルがきょとんとしたのは仕方がなかったのだと思う。


 何故そんな疑問を持ったかって?

 それは、今まで私が外に興味を持たなかったというのが原因であり、そして疑問を持ったのはフェルと出会ったから、だ。そして決定打はナーシエル。

 フェルは現在10歳、ナーシエルは12歳。


 対して私は5歳。

 近所に同じ年頃の子供がいなかったこと、私の出自から他の子供となるべく触れ合わせなかったこと。

 そういったことから比較対象がいなかったというのもあるんだけど……。


 ちょっと前から感じてた。前世の記憶があるからって、体も動きやすいし言葉もずいぶん流暢じゃない?

 流石に記憶があるからどうこうじゃない気がしてる。

 と思ったらやっぱりか!!


 まあ少しでも幼児である期間を延ばして、女の子であることを隠したかったっていう思惑はわからないでもない。

 実際私だって今何歳だよと家族に言われたからそれを信じてたわけだし、周囲だってあまり姿を見せない小さな子供なら、今年で何歳になったんですよ~って先に言われればそれを信じるはずだ。

 でもまあ隠せない時期に来たって思った時にそこは言ってくれたら……と思ったけどおじいちゃんの様子から考えるにきっと本当に忘れてたんだろう。

 今度シンリナスさんに謝りに行かなくちゃねと私が言えば、おじいちゃんは小さく汗をかいていた気がする。



◇◇◇



 さて遺跡攻略は2度目のことであるけど、前回同様地下3階までは簡単に行けた。

 前回同様迂回路を利用しようかと思ったけど、今回はナーシエルもいるからとおじいちゃんは入り口付近にあった例の罠の解除法を教えてくれた。ちょっと難易度が高かった。


「そういえば、このフロアボスを倒したけど復活ってどのくらいかかるの?」


「ふむ、通常で考えればもう次のフロアボスが選ばれているはずであるよ」


「……選ばれる?」


「うむ、これはこのダンジョンで確認されていることであるが、フロアボスが倒されると群れの中から次の個体が選ばれ、ダンジョンがその個体をボスへと魔力を注ぎ込むことで進化させる(・・・・・)のだ」


「ええっ?!」


「それに要する時間は約1日。ゆえにもう復活している可能性もあるかもしれんねえ」


「まあこのフロアはもういいさ。昨日の皮も高値で取引で来たけど、蛇革ばっか獲れても相場が狂っちゃうしな!」


「兄さん、そういうことじゃないと思うの……」


 フロアボス倒して安心してたらだめだよってことなのに、兄さんのこの規格外め!

 いや頼もしいなって思うし「次に町に戻ったらイリスに髪飾りでも買ってあげような」なんて嬉しそうに笑う姿を見たらもうなんか呆れるを通り越して兄じゃなかったら惚れそうです。

 なんでこんなカッコいい兄さんに、私みたいな平凡容姿の妹が生まれたんだろう……。


「ところでここまで駆け足で来てしまったが、その・・・貴方がたの稼ぎにならないのでは?」


「ああ、吾輩らはこの子の育成のために遺跡に来ているだけなのでナーシエルどのはお気になさらず」


「……あのように強大な魔法を操れるのならば、あえてそこまでの修行を必要としているようには思えないんだが」


「強いことに越したことはないのさ」


「ナーシエルどのが求めるようなものは、恐らく最下層かその一歩手前であろうからね。此度は踏破の心づもりで行くとしようか、ヘイレム」


「あいよ、じいちゃん」


「「えっ」」


 ちょっとそこまで買い物行ってこようかって感じのおじいちゃんの言葉に、兄さんもあっさりと答える。


 驚くのは私たちばかり。


 そりゃそうだって。

 まだダンジョン挑戦2回目何だってば。それなのにいきなりダンジョンクリアの栄華を味わっちゃっていいのかな?!

 いや、ここの難易度なら兄さんとかなら余裕とは先に聞いてはいたけどね?


「……イリスの兄君は、強いのだな」


「うん……なんか規格外で、ごめんね……?」


「いや、それを言うならイリスの魔法も規格外だ。回復魔法も攻撃魔法も、威力も精度も相当なものだと思う。これに体力と観察力がつけば、そんじょそこらの冒険者じゃキミに勝てなくなると思う」


「そうじゃの、ヘイレムは聖都で“剛腕”の二つ名で呼ばれるプラチナランクの冒険者じゃし」


「じいちゃんは“暴君”で今でも生きた伝説だもんなー」


「イリスはどんな二つ名を得るのかのう。楽しみなのであるよ!」


「回復魔法系を使うから、聖女とかそのうち呼ばれちゃうのかもな!」


 今から楽しみだと笑う兄さんたちに、なぜか私の方が恥ずかしくなった。

 ナーシエルはもたらされた事実にまた目を瞬かせて、笑う。

 今度は呆れたように、けど快活な笑いだった。


「俺はとてもツイてるな。何も得られなかったとしてもいいと思っていたが、途中で終わるような中途半端が一番怖かったから」


「……うん」


「それにイリスの二つ名は、俺も楽しみにしておくよ」


「じゃあ私も、ナーシエルの二つ名をどこかで聞くのを楽しみにしとくからね!」


「ああ。負けないように頑張るよ」


「えへへ!」


「きっと君は可愛い女の子に育つだろうから、聖女になるのか天使になるのか楽しみだな」


「?!」


 ナーシエルさんは……天然の……女たらしなんだと思います……!

 顔に熱が集まるのを感じたけど、原因の彼は不思議そうに小首を傾げただけだった。

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