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13:いかなる時も彼は己を忘れない。

「さてイリス、先ほどの日常魔法と治癒魔法への移行は見事なものであったよ! あれの精度を上げる必要があるのを身をもって体感できたのは重畳であるが、治癒魔法の上にある回復魔法への勉強をうつしてももう平気かもしれないね!」


「いやあの、おじいちゃん、」


「勿論治癒魔法は回復魔法系統の基礎であるからして、毎日の修練は必須であるが回復魔法へとレベルアップしてみれば消費する魔力量は増えるが格段にその威力を肌で感じることができるのであるよ。基礎である治癒魔法でさえ正常(ノルモ)との併用で複雑骨折も治せたがそれは魔力量が豊富であったことが偶然の幸運であっただけで治癒魔法は知っての通り傷跡が残るような回復でしかなく、」


「おじいちゃん!!」


 あの後何があってこうなったって?

 女の子の幽霊? が教えてくれたおかげでアマフェニア・クイーンによる攻撃を先んじて防いだ私たちだったわけだけど、あの後兄さんがさくっとアマフェニア・クイーンを倒しました。

 そりゃもうさくっとさっぱりすっぱりと、巨大な蛇の首を切り落としちゃって。

 挙句に「これの皮売った金でイリスに色々かってやれるな!」なんて爽やかに笑ってくれてました。

 私の兄さんどんだけェ……。


 そんな兄さんを見て人間族のおっさん2人が色々交渉を持ちかけてきたりその交渉の間に私のことを“魔力は豊富だし、自分たちは貴族と知り合いなこともあるから見た目が悪くても育った後で愛人候補になれるよう口利きしてやる”だなんて言われて家族愛に満ちた保護者二人にぼっこぼこにされたりそれを見ていた獣人2人とダークエルフの少年が慄いたりとまあ一気に色々ありました。


 ……うん。

 私の見た目が残念だっていうのには、うすうす気が付いていた。

 いや、残念って程じゃないんだよ。

 父親譲りのくすんだ金っぽい茶髪で、母親譲りの黒曜石みたいな黒色の瞳は私と兄弟たちの誇りだ。


 でも私の見た目は美人だったという母の遺伝子は受け継がなかったようで、ごくごく平凡なのだ。

 まあ言っちゃえば前世と同じで目立った悪さもなければ、目立った良さもないっていうか。

 髪色も瞳の色もごくごくよくある色合いで、突出しているのはこの魔力量だけっていうね。


 ちなみにお母さんの美貌というのを受け継いでいるのは、家族内ではイゴール兄さんだ。

 白皙の美貌を持つ儚げな美少年なイゴール兄さんはまあでもオネエなわけなんですけどね!!

 ちなみに美少年でオネエだけど、女性のしぐさをしたから女性に見えるかっていうと……そうでもない。

 ただ美少年がちょっと残念な感じっていうのかなんというか、少年らしい少年なので。


 話が逸れたけど、まあつまるところ転生したから強くてニューゲームでもなかったし美貌の幼女ってわけでもなんでもないっていう現実は結構クルものがあったよ……。

 いや、でもこんなに家族に愛されているってだけで今までの私から考えたらチート状態だけどね!!


 多分私が魔力無しでも家族は溺愛してくれていたに違いないって今なら自信をもって言えるね!

 前世では一切縁がなかったけど!

 あれ……なんだろう、だいぶ切ない……。


 とにかく、まあそんな状況でおじいちゃんの講義を延々受けているわけにはいかない。

 ボスのアマフェニア・クイーンを倒したことで雑魚は散ったり遠目に警戒してきたりと危険度は減ったけれど、安全かと問われればそうではないのだ。

 そう訴えつつもちょっと凹んだ気持ちは隠しきれなかったのか、獣人のおじさんたちが私の頭をそっと躊躇いながら優しく撫でてくれた。


「嬢ちゃん、人間の美醜は俺らにはわからんけど、嬢ちゃんの治癒魔法からはお前さんが優しい子だってことがわかったよ」


「そうだ、俺たちはあいつらに金で雇われた臨時パーティでな、だから簡単に肉盾にされちまったが……そういう覚悟は持っていたけどああやって瀕死になった時に救われるってのは、特別な気持ちになるもんさ。嬢ちゃん、本当にありがとうな」


「ううん、いいの。ありがとね、おじさんたち」


「人間族があんな風にお前さんを貶すなら、お前さん、いやじゃあなければ獣人と恋仲になりゃいいんだよ。俺たち獣人なら見た目よりも中身重視だからなあ!」


「そうそう、魔力がどうとかよりも長く連れ添えるかってのが一番さ」


「……獣人さんは嫌いじゃないよ、いつかちゃんとお嫁さんになれたらいいなとは思ってる」


「ああ、お前さんならきっと良い嫁さんになれるさ。山羊人でいいなら俺の知り合いにお前さんと近い年頃の男の子がいるから紹介しようか?」


「おいおいさすがに気が早いだろうよ!!」


「気持ちはありがたいが、吾輩、まだまだ孫を嫁に出すつもりはないよ!!」


 気を使ってくれるおじさんたち相手に本気の威嚇をするおじいちゃんの姿に、兄さんが苦笑する。

 それでもそんな兄さんも「まあ、まだまだ先のことだしもしそういうことを言い出すやつがいたらまずは俺が認めれる相手じゃないとな!」なんて言い出してたけど。

 えっ、さっきのアレを見る限り兄さんに認めてもらうって相当大変な事の気がするんですけど!


 あれっ、愛されてるけど私の将来、行き遅れの予感?!


 それにしてもあの幽霊の女の子は一体誰なんだろう。

 辺りを見回しても、もう彼女の気配はしない。

 おじいちゃんは探しに行きたいと言った私に首を振った。


「良いかねイリス、この遺跡も古いもので中には亡霊が住み着いていてもおかしくはないだろう。彼らは決して友好的とは言い切れない。ただ彷徨うだけの者もいるだろうし、逆に生者に取り憑き悪さをしたり、最悪亡霊の仲間にするために死地へ向かわせようとしているのかもしれん」


「だって私を助けてくれたよ?」


「亡霊の死んだ場所で、お前を取り殺すつもりなのやもしれぬよ?」


「……そんな……」


 正直おじいちゃんの意見も正しいのかもしれない。

 それでも、私は獣人の女の子の亡霊が、こんな遺跡の中にいることがとても気になったのだ。


 とはいえ、この助けた臨時パーティに対する責任もある。

 助けに入ったのだからケガを治した、はいじゃあさようならというわけにはいかない。

 一体何が目的だったのかを問えば、主導は人間族2人だったそうで肉盾にされた獣人族はアマフェニア・クイーンが守る果物を手に入れることが目的だと聞いたと答えてくれた。

 そんなものは聞いたこともないと獣人たちは笑ったのだけれど、人間族のおっさんたちはもう地上には残っていない、遺跡にだけあるのだと言い切ったのだという。


「おじいちゃん?」


「ふむ……アマフェニアの語源は、古代語でアマン・フェ・ニアールなのであるよ。アマンは果実の名前、フェ、は食べる。二アールは蛇のことを指し示す」


「へえ、アマフェニアは雑食じゃないのかい?」


「正確にはアマンの実を食べに来た草食動物を狙う蛇、ということなのであるよ」


「アマンの実はもう地上にはないの?」


「あるがね、霊峰の中にだけになるね。なかなか作物としては育てにくい種であるからして」


「なんだって! あれを欲している貴族の方がいらっしゃるんだ、どうにかして手に入れないと……!!」


「ふぅむ、まあこの遺跡の中にもあるとは思うけれどねエ。吾輩もアマフェニア・クイーンよりも厄介な、ダクト・ビーと争うだけの覚悟があるなら案内しようか」


「ぐっ……俺たちは、もう戦えない。あんたたちに依頼を……」


「俺はお断りだ。じいちゃんはどうだい?」


「吾輩もお断りだね。折角の孫との遺跡探検がただでさえ台無しだというのに」


 え、これって修行でしょ。

 なにそのピクニックに来たのにみたいな言い方。


 私の表情を見て察したのか、獣人さんたちが「嬢ちゃんもなんだか大変だなあ……」なんて同情してくれていた。嬉しくない。


 そして今まで黙っていたダークエルフの少年が、きっと顔を上げる。


「俺は、この遺跡の中で死んだという曾祖父の友人の遺品を探しに来た」


「ふぅむ、しかし少年や、きみはまだ冒険者としては初心者のようだねえ」


「その通りだ。俺はダークエルフ族、辺境区ミシャナにあるレリン村のナーシエル・エル・ブリング。名のある冒険者の方とお見受けして、改めて相談させていただきたい!」


 どうやらしっかりした教育を受けた人のようだ。

 おじいちゃんは少し考えるそぶりを見せて、軽く手を振った。あ、これめんどくさいだけのやつだ。


「まあ少し時間を貰わねば。今は怪我人を治癒したばかり。主導である2人はもう進めないと判断しているようだし、冒険者ギルドの規定により助太刀したパーティのリーダーとして君らを近隣の村まで送り届けよう。しかる後、ナーシエル殿は吾輩たちを訪ねてくるがよろしい」


「待ってくれ、アマンの実を手に入れないと……!!」


「それは吾輩たちの領分ではなく、依頼を受けた貴君らがなさねばならぬことであろう?」


「どこの貴族かは知らないが、できないことを受けると後々大変だぜ」


 兄さんのその言葉は、何か実感がこもっていた。


「ふむ、できれば最下層まで行きたかったねエ」


「おじいちゃん、一回仕切り直すの?」


「うむ、荷物も増えたことだし一度帰って今度はこの遺跡の歴史を教えてあげようか!」


「わあ……うん、あの、わあい。」


「イリス、いやだってことは言っていいんだぞ。じいちゃんは語らせたら長いからな?」

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