魔王プニル その3
「うん! いーっぱい、気持ちよくしてあげるね!」
そう言うと、たくみは改めてプニルの足を手に取った。
プニルの足は、よく手入れされた綺麗なおみ足だった。だがたくみは、幼いながら情欲をたぎらせ、すべすべとした肌触りを堪能したりペロペロすることもなく、手慣れた様子でつま先を上げさせると、足の裏側に指を当てた。
何かを探るようにプニルの足を這い回るたくみの指。その指先はやがて踝を撫でて足首を登り、膝の裏まで至った。膝から爪先までを、たくみの指が何度も往復していく。
たくみは真剣な眼差しで、プニルの足ではなくプニルの顔を見つめていた。その様子からは、冗談やお遊びといった雰囲気はひとかけらも感じられない。いつの間にかたくみは負けられない勝負に挑む、一人の男の顔つきになっていた。
(うっ……! な、なんだ? まるで我の全てを見透かすかのような視線だ……)
自らの前に跪き、足に手を添えながら熱く見つめてくるたくみの姿に、不覚にもプニルのハートがちょっぴりトゥンクした次の瞬間。
「えいっ」
ぐにっ。
「ンアーーーーーーーーーーーーーーーーーッ♪♪♪」
プニルの足裏から突然強烈な快感が沸き上がり、プニルは突然白目になった。
「ままま、魔王さまー!!?」
「はっ! 我はいま何を!?」
「ほいっ」
ぐにっ。
「ンッ、ンァアーーーーーーーーーーーーーーーーッ♪♪♪」
びくびくーん、と再びプニルがびくびくと仰け反る!
「な、なんだこれはぁ、なんだこれはぁ! 知らぬぅ、我はこんな刺激知らぬぅ!」
たった二撃。
恐るべきことに、たくみの細くか弱い指から繰り出されたたった二回の攻撃の前に、魔王プニルの息は絶え絶えになっていた。
目端に涙の粒が浮かび上がり、体に力が入らない。みるみる顔が赤く染まり、何故か触られてもいないはずの下腹部のうずきが止まらない!
どうしてこんなに気持ちイイのか! いったい何が起こったというのか! プニルはたちまち深い混乱に陥った!
「たくみ! たくみよ! あ、待て、待つのだンアーーーーーーーーーッ♪♪♪」
ああ、無情! プニルの静止もむなしく、たくみは再びプニルのツボを責めた!
羞恥一生、ンア一秒。居眠りトラックが急に止まれずヒキニートを異世界送りにするように、たくみの指もまた、急には止まれないのだ!
「なあに、おねえちゃん。気持ちイイ? これ気持ちイイ?」
「そ、それは、お前のそれはなんなのだ?」
「なにって、足裏マッサージだけど?」
「アシウラ、まっさーじ……?」
それは世界で初めて行われた足裏マッサージだった。
なお、余談ではあるが、もしかすると経験豊かな読者諸兄の中には「足裏マッサージなんて痛いだけで気持ちよくなんかねーよ!」と憤る方がいるかもしれない。
しかし、少し考えてみていただきたい。
ちょっと露骨な描写を含めた異世界転生で奴隷ハーレムな作品の主人公が、奴隷たちから「ご主人様って夜は結構ヘタクソだよね」と言われたとしたらどうだろうか。
興ざめだと思わないだろうか。
ましてやたくみは未成年。R-15指定にすら引っかかることのない、恥じることなき草食系清純派主人公である。ノクターンなんて怖くない。むしろどこからでもかかってこい。私は逃げも隠れもしない。足裏マッサージが気持ちよくて、何が悪い!
つまり、そういうことであった。
「足の裏はね、第二のしんぞうって呼ばれてるんだ。足にはたくさんの気持ちイイツボがあるんだよ!」
「ああ、あぁあ、わかった、たくみよ、分かったから、もうやmンアーーーーーーーッ♪♪♪♪」
「こんなのぜんぜん、まだまだだよ! それにほら、こういうものだってあるんだよ!」
「はぁ、はぁ、たくみ、それはなんだ?」
激しい攻撃が続いた中、突然訪れた小休止。だがプニルは、それを素直に喜ぶことができなかった。
なぜならプニルの目は、たくみがどこからか取り出したある物に釘付けになっていたからだ。
それは滑らかな丸みを帯びた、不思議な形をした木の棒であった。
「な、なんなのだそれは? いったいそれで、何をするのだ!? どうやって使うつもりだ!? 我をどうするつもりだ!?」
プニルは怯えていた。心底怯えていた。プニルにとって、未知の武器に恐怖するなど、この世に生まれて初めてのことであった。
「これはね、マッサージ棒っていうんだよ! オカリナ型の! これをね、こうやってにぎってえ」
「あ、ああ、やめろ、なんか想像できた! 我にも想像できたからやめろお!」
「これをこうやってこうするとお!」
「やめっやめっチュルシー助けっ、あっ、ンアァァァァーーーーーーーーッ♪♪♪」
助けを求めるプニルの懇願もむなしく、丁寧にやすりがけされた肌触りのよいマッサージ棒がプニルの足裏に襲いかかった!
びくんっ! びくんっ! プニルの意思に反して、その肉体は無様に痙攣を繰り返す! 裏返る眼球! 救いを求めて、プニルの濡れそぼった舌先が天井に突き出される!
「ああっ! 凄い! 凄いです! 魔王さまがこんなに乱れるなんてぇ!」
そして助けを求められたチュルシーは、プニルの痴態に興奮していた。
チュルシーは魔王プニルに使える側近にして忠臣ではあったが、魔族の血には逆らえない。忠義よりも己の欲望が勝ってしまったチュルシーは、いそいそと魔導水晶を取り出した。ピンチイン、ピンチアウトで拡大縮小思いのままの、音声つきで映像を録画する魔導具である。
「おねえちゃんはね、いまとても、胃の辺りが弱っています」
「くぅっ! はぁ、はぁ、たくみ、どうしてそれを……」
「だっておねえちゃん、ここ気持ちイイでしょ?」
「ンアーーーーーーーッ♪♪♪ っら、らめえ! たくみぃ! そこは、らめなのお!」
プニルは魔王。言わば魔族領の最高権力者である。しかも今、魔族領と人間領は戦争の真っ最中ということもあって、魔王プニルの胃は度重なるストレスによって荒れに荒れていた。
だが、魔王足るもの配下に弱気な姿は見せられない。プニルはこっそり胃薬を服用することで誤摩化し誤摩化しやってきていた。魔王プニルが胃を悪くしていたなど、側近であるチュルシーすら知らなかったのである。
しかし、天才あん摩マッサージ指圧師楺井もみ蔵の息子である楺井たくみの前に隠し事は無力だ。
配下たちの目から隠し通した、魔王プニルの弱点。たくみはそこを突いたのだ!
ンア一秒ってなんだよ。